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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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41.冒険者ジュリア、大怪我の謝罪を受け入れる


 精霊の姿に思わず目が行ったところで俺の尻が痛みを感じた。


「ジュリア?結構痛いかな?」

 その声に返事は無かったが、尻の痛みはなくなった。


『この度はお助け頂きありがとうございますぅー。人間さん、お礼に契約でもしませんかぁー?』

「第一声がそれかよ!」

 いきなり契約を求める精霊に思わずつっこんだ。


 精霊は首を傾げている。


『クロはリズの主、契約ならリズを通すべき』

「いや待て?俺の意思は?」

 本人を余所に勝手に進めないで欲しい。


『ちょっと相談』

『はーい、分かりましたぁー』

「いやおい!リズ?水の精霊さん?」

 俺の声は届かなかったようでスーっと遠くへ飛んで行く精霊達。


「はあ……じゃあその間に……」

 俺は奴隷達の元に行くと囲んでいる荷台を切断する。


 奴隷の首輪を解呪(カースブレイク)して壊して回る。

 治癒(ヒール)もかけたし、もう大丈夫だろう。


 俺はナディアに視線を送り奴隷達の世話を任せると、ジュリアの隣に戻って座る。

 そのタイミングで戻ってきた精霊達。


『この人間を私が?』

『そう』

『ごめんんさい』

 水の精霊がジュリアに頭を下げた後、間髪入れずに手を翳す。


 すると一瞬だけ光りが精霊からジュリアへと駆け抜ける。

 「ふわっ」と声を漏らすジュリアの顔色に赤みが戻ってきている。


『僭越ながら、加護を送らせて頂きましたぁ?』

 俺はまずは体調が戻ったように見えるジュリアにホッとするが、リズと水の精霊の2つの加護を持ったジュリアはさらに強く、そして長く生きることになる。


 その事を理解しているか分からないジュリアは笑顔を俺に向けている。


「クロ!俺の加護が増えたってことは、また長生きするんだろ?」

「まあそうだろうな?そうだろリズ」

『そう』

「だが、いいのか?長く生きるというのは結構大変なんだぞ?」

「クロと長く一緒に居られるならそれで良い!」

「ジュリア……」

 迷いのないジュリアの笑顔に胸のあたりが熱くなる。


『加護を増やせば永遠の命も夢じゃないですよー?』

 おっとりした性格なのだろう水の精霊からそんな言葉も飛び出した。


 だが、ジュリアだってに長い歳月を送る中、何かがあれば壊れてしまう事もあるのではないかと不安になってしまう。


『クロ、契約』

「えっ、マジかよ……選択肢はないのか?一応聞くがメリットは?」

『水系魔法強化』

「それならまあ、で、デメリットは?」

『オヤツ二倍』

『精一杯頑張るのでぇー、私もオヤツほしいですぅー』

 そう言いながら下半身を覆う際どい布切れをチラチラさせる水の精霊。


「それぐらいなら、良いのかな?」

「クロ……」

「クロ様……」

 ジュリアと、すでに戻ってきていたナディアが目を祖褒めている。


「いや、今のチラチラに食いついたわけじゃやないからな!精霊が増えればやれることも増えるし!勘違いするなって!ジュリア―、俺はお前一筋だしー!」

「クロ様、私も浮気ならいつでも大歓迎ですよ?」

「偽ロリ黒エロフは黙ってろ!」

「クロ様ひどいです!」

 俺は、ナディアを無視してジュリアを抱き寄せ頭を撫でる。


 さらには肉系の乗ったトレーを無限収納(インベントリ)から取り出し差し出した。

 ジュリアは少し頬を膨らませつつもお肉に食らいつき、俺にもっと撫でろと訴えてきていた。


 地面に座り込み何とかジュリアを宥める事に成功した俺達の前に、王都の方からぞろぞろと兵達がやってくる。

 イチャつく俺達を見て固まる兵士達。


「あーげふんげふん!いいかな君達!」

 その声でやっとそれに気付いた俺は、ジュリアと2人で顔を赤く染めるのであった。




「では、この者達があの兵器を破壊し王都を救ったのだな!」

「はい。そのように聞いています」

「本当にホントでこの者が一人でアレを破壊したと言うのだな?」

「将軍からもそう聞いてますので」

「う、ううむ……」

 俺は、目の前で今更そんな事を確認している太っちょな顎髭男をボーっとした頭で眺めている。


 ここは王城、玉座の間。

 久々に来たこの場所で、今代の国王とご対面だ。


 魔道兵器を倒した後にやってきた軍の面々に、奴隷達を丸投げで任せようとしたのだが、王国軍の総大将、将軍だと言う男に「報告するから城へ来い!」と命令された。

 当然「忙しいので」とお断りしたが、最終的には土下座して「お願いですから来て頂けませんか?」と言われてしまえば、他の兵の目もあり可哀そうになって城まで来てしまった。


 そして現在、軍がどうにもならなかったアレを1人で止めたと報告されたことに納得できず、何度も確認したのちに値踏みをするようにこちらを見ていた国王が、やっと、渋々、とりあえずで納得したようなタイミングであった。


「あのー、褒美とか良いんで帰してくれませんか?」

「ぐっ、お主はもう少し黙っておれ!」

 多分だが宰相あたりと思われる男に怒られる。


「それか、ナディア居ましたよね?連れてきてくれるとありがたいんですが?」

「ナ、ナディア様が?おい!どうなってる?ナディア様が来られてるならすぐに御通しせぬか!」

 別の者にそう命じる宰相と思われるイケオジ。


「クロ様ー、どうなされました?」

 ナディアが部屋に入るなり俺に飛びついてきた。


「やめろ!うっとおしい。まだ帰れないんだとよ」

 俺はナディアのおでこに手を添え抱き着くのを阻止する。


「「クロ様?」」

 国王と宰相がハモっている。


「冒険者のクロですよー。はじめまして?」

 目の前には2人のおじさんが固まっている。


 こうなるならさっさとナディアの名を出すべきだったと反省する。

 だが兵達もナディアの存在は認識していたはずだ。

 なぜ伝わっていないのか?情報伝達に問題があるのかもしれない。


 そんなことを考えている間に、王命により玉座の間から人払いがされた。


「黒霧様、知らぬこととは言え大変失礼をいたしました。この国の王、ベレンガーリオ・ビフレストにございます」

 顔色の悪い国王陛下が俺の傍までやってくると膝をついて頭を下げている。


 横には宰相も同じ様に頭を下げているが、もう死ぬんじゃないか?ってぐらい顔が白い。


「いやまあ、誰にでもミスというものもあるのだし気にはしないけど、どっちかというと早く帰りたいかな?」

「はっ!すぐに帰りの馬車を用意させます!」

「あ、それはいいかな?多分だけど飛んで帰る予定ではあるから。あと、怒ってないからもうちょっと楽にしてくれないかな?」

「ありがたきお言葉!国を救って頂いた対価については、後程できうる限りの額を振り込んでおきますゆえ、今後の活動にお使い頂ければと存じます!」

「そう?それはありがとう。じゃあ、行くね?」

「はっ!」

 最終的に俺が帰るのが嬉しいのか笑顔になっている2人に、俺は見境なく暴れたりしないのだが?と少しだけイラっとするが、過去に王都を半壊させた前科もあるなと思い出し、黙って引き下がることにした。


「ナディア、行くぞ?」

「はい!」

 こうして俺はやっとのこと今回の事件が集結したことに胸をなでおろし、侍女の案内により待機していたジュリアと合流し城を出た。


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