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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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40.冒険者クロ、黒霧最強装備を身に纏う


 東門からかなり離れた場所で全力を解放する。


 闇之竜装(ドラゴンズダークネス)の効果は全能力の底上げ、それも魔力を籠めるほど強くなる。

 長い歳月をかけて作り出した本気の装備だ。


 黒竜と闇竜という2回の災厄を食い止めた俺が、その素材を存分に使った結果がこれと黒死無双(こくしむそう)であった。


「でーりゃー!」

 俺は懐かしのライバルストライカーの様に叫びながら全力で切りつける。


 黒死無双(こくしむそう)を打ち付ける度にバギンと音を立てる結界に、徐々に煌めく傷が見え始めた。


「後一歩かなぁー?」

 歯を食いしばってもう一発!


 そう思いながらも斬撃を打ち込んでいたが、手元からペキっという心臓をえぐる音が聞こえた。

 俺は一瞬考えた末に自分を後方に飛ばす。


 手元を見ると、黒死無双(こくしむそう)の刀身にヒビが入っているのが見えた。


「うーん……やばいな……<無限収納(インベントリ)>……」

 少し冷静になってきた俺は、黒死無双(こくしむそう)を仕舞うと氷の剣、永遠之氷棺(デットエンドコフィン)を取り出した。


 同じ系統なら打ち負けないかな?

 単純にそう思っての事だった。


 永遠之氷棺(デットエンドコフィン)は所持している風系統では最強の剣だった。

 魔力を籠めれば吹雪を起こせるその半透明の刀身を眺める。


 硬度もそれなりに上げてある為、後一息と思われるアレを壊すには耐えることができるだろう。

 それに、万が一これなら壊れたとしても……まあ、ちょっと惜しいかな?


『クロ、ジュリア回復』

「そうか、ありがとな……、で、アレは倒しても問題ないのか?」

『死ねばまた生まれる』

「なら、殺ッてみようかな?」

『がんば』

 短い応援を口にしたリズはまた姿を消した。


 俺は目一杯の魔力を手に持つ半透明の刀に吸わせる。

 グビグビとエールを飲み干すように魔力がどんどん抜けてゆく。


 無尽蔵の魔力を持つ俺も、この大量の魔力を引き抜かれる様な感覚が続くことには慣れはしない。


 たっぷりと魔力を吸ったソレの周りには魔力が迸りはっきりと青白い刃が大剣の様に巨大に可視化されている。


「はぁーっ!<風の壁(ウィンドウォール)>、全っ開!ぶっ飛べ!<氷の棺(アイスコフィン)>!」

 水の精霊に魔力全開で真っ向勝負を持ち掛けた俺は、永遠之氷棺(デットエンドコフィン)で底上げされた氷の棺(アイスコフィン)を、全身が痛むほどの勢いで叩き付ける。


「運が良ければ!来世で、会おう、ぜーーー!!!」

 ゴリゴリと結界を削り続けた次の瞬間、周囲が凍り付くような冷気がさらに強く吹き出した。


 巨大な氷柱を地面に生えさせ魔道兵器の全てを氷に閉じ込める。


 刀に凝縮された全魔力が精霊諸共飲み込むように叩きつけられ、精霊の張る氷の結界を木端微塵に吹き飛ばし、精霊も、背後にいた鬼人族や奴隷達も纏めて氷の棺に閉じ込められた。

 同じくして、永遠之氷棺(デットエンドコフィン)の刀身は砕け、光の結界に交じってキラキラ煌めいている。


 俺は息を荒くしながら顔を歪めて膝をつく。

 だががこのままで良いはずが無い!そう思って重い腰を上げ得物を取り換える。


無限収納(インベントリ)黒炎之断罪(デビルジャッジメント)

 その大きな鎌からは、空間属性という珍しい属性の混じった赤黒い光が揺らめいている。


「これは脆いからな……だが仕方ない!」

 俺はその鎌を全力で振り下ろす。


「死ねよ精霊!一刀両断!|裁きを受ける時が来た!黒き炎に焼かれろアターック!」

 魔道兵器を飲み込んでいた氷の棺ごとぶった切る。


 氷は真っ二つに切断され……とはならず、かろうじて精霊を真っ二つに分断したところで止まる。

 当然の様に砕け散る黒炎之断罪(デビルジャッジメント)の刃を見ながら、俺はどれに対する悲しみなのか分からない涙を流した。


 切断された氷の中から、強い熱気が立ち込める。

 精霊からは怒気と共に噴き出るような水蒸気が飛散する。


「死んではいないってことか……」

 精霊が死んではいないことに驚くが、それに対する恐怖や不安はない。


 精霊を拘束した枷はもう無いのだ。

 その怒りが俺に向くことは……無いよね?ちょっぴり不安。


「リズ、後はなんとかできるだろ?」

 刃を無くした鎌の柄を支えに片膝をつきながらそう呟いた。


『まかせろ多分大丈夫』

「多分かよ……」

 さらに不安が込み上げてきたが、目の前には精霊が五体満足でその姿を見せると、ニッコリと口角が避けるような不気味ば笑みを見せている。


『・・・・・』

 鬼人族の方に向き直った精霊から聞き取れない声が聞こえると、さらに多くの水蒸気が魔道兵器から発生し、覆っていた氷の全てが一気に蒸発した。


「ひっ!」

 鬼人族が悲鳴を上げる。


 すでに背中しか見えない俺でも正直悲鳴を上げたいほどの恐怖を感じる。

 当然の様に白目を剥いてひっくり返る鬼人族達。


「これ、放っておいても死ぬよな?」

『絶対死』

 俺は鬼人族への興味を無くし、その背後の奴隷達に視線を移す。


 薬か魔道具か、終始意識が微睡んでいる様な表情で立ち尽くしていた奴隷達。

 何人かは戦闘中に倒れた様だが、まだ半数以上は立っている。


 そっちについては精霊の気が済んでから考えようかな?

 操られていない精霊は矛先がこちらに向けば、正直俺如きが何とかできる相手ではない。


 リズに全部丸投げしてしまおうかな?


「クロ様ー」

 リズに丸投げを考えていた俺に、背後からナディアの声が聞こえた。


 視線を向けると、ナディアに支えられながら青い顔をしたジュリアがやってくるのが見えたので、ダッシュで迎えに行った。


「ジュリア!大丈夫か!」

「ああ。しくじった……もう大丈夫だが、まだフラフラするな。これはいっぱい性あるものを喰わなくちゃと思うんだ」

「何かニュアンスがおかしく聞こえるが、暫く大人しくしておけよ。かなりの出血があった様だからな」

「そうする」

 力なくそう返事したジュリアはその場に胡坐をかいた。


「クロ様、ジュリアさんは私を庇って負傷したんです」

「ああ。さっき自分で懺悔してただろ。聞いてたよ」

「私はどう償えば……」

 またも泣いているナディアを見て、頭にポンと手を置いた。


「ジュリア、ナディアを恨んでるか?」

「そんな訳あるかよ。俺が自分で庇ったんだぞ!俺はナディアより強い!だから守るのは当然の役目だ!」

「だってよ……」

 ナディアは顔を歪ませジュリアの胸に顔を埋めていた。


 それを見て、俺も埋まりたいなと思ったのは内緒だ。


 そんなことをしていると、気付けば目の前に水の精霊がボーっと立っていて悲鳴を上げかけた。

 青く透き通るような長い髪、真っ白か顔が幼くも整っていて吸い込まれそうな美貌だ。

 さっきまでの不気味な笑顔を鳴りを潜めていた。


 プロポーションも適度に出る所はでているし、最低限隠されている胸や下半身に思わず目が行ったところで、俺の尻が強烈な痛みを感じるのだった。


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