39.冒険者クロ、精霊仕込みの魔道兵器と対決
「ジュリアも、今回は勘弁してやってくれ。<治癒>」
渋々ナディアを降ろしたジュリア。
治療するとまた腰をクネクネを腰を動かし始めたナディアには、少し強めのデコピンをしておいた。
「あうっ」
痛みに呻きおでこを押さえながら蹲るナディアを放置し、王都の門を攻撃する何かを観察する。
「さて、あれは……やばいな」
巨大な氷柱が無数に生成され、城の壁を破壊しようと次々に落ちてゆく。
「先頭に磔にされているのが精霊様か?」
『そう!水の精霊!あいつ等殺す!』
ジュリアの言葉にリズが姿を現し怒りを口にする。
かなり本気で怒れるリズの形相には震えがくる。
「リズ、あれは止められそうか?」
『無理、リズは全の精霊。威力強い』
リズの返答になるほどと納得する。
リズは全ての魔法を使えるが、相手は水の精霊で水系、今回は氷属性の攻撃だが、そう言った得意属性の攻撃をされるとリズは太刀打ちができない。
「クロ様、奴隷たちが既に何人か事切れています……」
荷台には檻の様に囲いが設定され、そこに居るのは首輪をはめられた奴隷達だ。
ナディアの言う通り、すでに何人かは倒れているので精霊から魔力を全て吸い尽くされたのだろう。
俺達は近づきながらも観察を続けていたが、精霊と荷台との間に数人の鬼人族が座っているのが見えた。
「取りあえずあそこを破壊したいな」
精霊と荷台を分断さえできれば後は何とかなるだろう。
そう思って魔力を籠める。
「貫け!<業火の槍>」
俺の頭上から生成された巨大な炎の槍が鬼人族が座る連結部に叩き込まれた。
「まじかー」
炎の槍はキラキラした結界に守られキーンという高音を響かせ消えた。
「あれは?」
『氷の結界』
「なるほどね。連発したら攻撃が止むと思うか?」
『無理』
「だよなー」
微動だにしないそれに、ほとんど利いていないのだと結論づけた。
だが次の瞬間、俺の背筋には冷や汗が流れた。
目の前の精霊を張り付けた魔道兵器とでもいうモノが、攻撃を打ちながらゆっくりとこちらに展開してくるのが見えた。
その展開により辺りに氷柱がばらまかれ、地面に大きな穴をあけていた。
「ジュリアとナディアは下がっててくれ。リズは2人を頼めるか?俺の魔力を使っていいから……」
『りょ』
「まってクロ!私も――」
「クロ様私だって――」
文句を言い終わる前に2人は風に押され後退し、リズの結界により閉じ込められた。
リズも攻撃を受けるぐらいなら持つだろう。
そう思いながら目の前に大きな岩壁を作る。
黒死無双を握りしめながら魔力を注入すると、黒い炎が刀身に纏われる。
そのタイミングで岩の壁はあっさりと破壊され、精霊と目が合うぐらいに向かい合う。
「うわっ!やばいって、ちょっと!待って!」
氷柱を避けながら避けきれないものは黒死無双で切り刻む。
数が多いがなんとか捌き切れるようだ。
背後をチラリと視ると流れ弾はリズの結界で十分守られているようだ。
だが油断はできない。
俺は少し距離を取りながら、開けた草原へ少しづつと移動する。
精霊の怒りに満ちた表情は精神的にきついが気にしている暇はない。
「<断罪の棘>!<鋭氷の嵐>!<超重力>!<鋭砂の嵐>!<千の断裂>!」
使い慣れた極大クラスの魔法を放って見るがやはり効果は感じられない。
だが、四肢を張りつけられている精霊からはさらに強い怒気が感じられ体が硬直しそうになる。
次の瞬間、氷柱はさらに大きく、そして鋭いネジの様な形状に変化して回転しながら飛んでくる。
「ぐっ!こ、これはきつい!」
黒死無双で弾き飛ばすように薙ぎ払っているが、一振りごとに腕に痺れを感じる。
これだけの苦戦を強いられたのはいつ以来だろう?
そんなことを考えていると、精霊の固定されている背後から鬼人族の奴等がこちらを覗き込み、ニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を向けてくることにイラっとしてしまう。
「あー!もうマジでムカつく!お前達、全員ぶっ殺してやるからな!」
そう叫ぶ俺を他所に、精霊からあさっての方向に特大の鋭い攻撃が飛んで行く。
俺はハッとしてそれが飛んだ方に目を向けると、その攻撃により破られたリズの結界と、その先で横っ腹を削られたジュリアの姿は見えた。
「<風の壁>」
全力でジュリアの方へ飛び、自らの後方に巨大な岩の壁を何枚も作り上げた。
「ジュリア!」
『ごめん』
リズからの謝罪の言葉が聞こえないぐらいに興奮した俺は、ジュリアに何度も治癒をかける。
「クロ様!ここは私が……」
そう言って俺の間に割り込み治癒をかけ始める涙目のナディア。
ナディアは何度も謝っている。
「なんで……私を庇うなんて!バカじゃないの!」
涙声で叫ぶナディア。
『ごめん』
リズが再度謝ると、やっとそれに気付いた俺が魔力の塊を作りリズに差し出した。
「俺こそごめん。もう少し引き付けるべきだった……余裕があると思って出し惜しみをするべきじゃなかった……ジュリアを、頼む……
<全能力強化>、<風の壁>!」
俺は破壊されてゆく岩壁の音を聞きながら、全ての能力を強化し、空高く飛ぶ。
「<無限収納>、完全武装、闇之竜装!」
高く飛んだ俺の全身は、無限収納から飛び出した黒いフルプレートアーマーに包まれる。
その全身からは周囲に恐怖を撒き散らす黒いオーラを立ち昇らせている。
「<風の壁>」
風に弾かれる様に移動した先は、魔道兵器と化した精霊の元だった。
握る黒死無双でさらに多くの魔力を籠め叩き付ける。
その一太刀が煌めく氷の結界にヒビを入れる。
「こっちだ!正気を忘れた馬鹿者が!」
その声に反応したかは分からないが、この場を離れる為に飛んだ俺を、精霊がギロリと目だけで追いかける。
「意識はありそうだな」
そう呟きながら発動している風の壁を操作して飛ぶ。
その後をさっきより早い速度で移動してくる魔道兵器。
乗っている鬼人族の慌てている様子も見え、ちょっとスッキリするが絶対に許さないことには決定事項だ。
「これだけ離れれば良いだろう?」
東門からもかなり離れた場所まで引っ張ることができた俺は、心置きなく全力を解放した。
ブクマ、評価、励みになります。感想お気軽にお書きください。




