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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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37.冒険者クロ、酒場でケモ耳お姉さんに遭遇


「ここが拠点となる酒場か……」

 街の中心地、2人で賑やかな店内へと入っていくが……


「普通の酒場だな」

「鬼人族……いないけど?」

 店内を見渡すと、人族や獣人族と思われる店員が酒や料理を運び、忙しそうに動き回っている。


「なあ、今日は鬼人族の人達はいないのか?」

 席へ案内しようと近づいてきた店員にそう尋ねてみた。


「ああ、今日はなにやら所用があるって話で、鬼人族の方々はお休みなんですよ?お目当ての方でもいましたか?」

「いや、そう言う訳じゃないが……じゃあ、店長さんとかも今日は不在なのか?」

「そうですよ」

「そうか……困ったな……」

「まあそう言う事なので、そう言うのは今度にしてくださいね。2名様、席へと案内しまーす!」

 俺はどうしようか思案しながら席へと案内された。


「これとこれ、他にもすぐ出せそうな料理ならドンドン持って来てくれ。酒もあるだけ持って来てもいいぞ?」

「えっ!お兄さん昼間っから凄いね!なんなら直接倉庫行って樽でも持って帰る?」

「いいのか?じゃあ飯をつまんだら案内してくれるか?」

「うん!じゃあ料理持ってくるね!」

 ケモ耳な獣人女性は笑顔で奥へ戻って行った。


「クロ……ああいうのもタイプなのか?」

 ずっと黙っていたジュリアが目を潤ませて俺に聞く。


「ちょっと待て。勘違いするなよ?そう言うのじゃないって」

「ホントか?」

「ああ。俺はジュリアしか見えないからな。変な考えは捨てるんだ」

「分かった」

 俺は緊張からか少し汗を掻きながらジュリアを説得した。


 ケモ耳は何度見ても癒されるというのは仕方のない事だと思う。

 それにしても、今日に限って鬼人族が全員いないなんてな。


 仕方なく運ばれてきた料理を摘まみつつ無限収納(インベントリ)に入れてゆく。

 それには料理を運んできた獣人のお姉さんも目を見開いて驚いていた。


 酒はグラスで1杯つづ頂いたが、後は樽でとお願いしておいた。

 それでも強い酒は旨いが量は飲めそうにない。


 次々と種類の違う料理が運ばれてくるので、一通りの料理を早く出せる順で提供するつもりなのだろう。


 元々無限収納(インベントリ)には、ジュリアと2人なら数年は暮らせるだろうという量が入っているが、こういう時に種類を増やすのは旅の醍醐味というものだ。

 それが雑多な居酒屋料理であっても、よっぽどのハズレな店でなければ自堕落な生活をする時には重宝するものだ。


 暫くすると、やっと料理が一巡したようでケモ耳のお姉さんが倉庫に案内してくれると言ってきた。

 料理を全て収納し終えている俺は、ジュリアと共に席を立ち、お姉さんの後ろをついて歩きだしたが、どうしても目の前に揺れる柔らかそうなしっぽに目が行ってしまう。

 金色の触り心地の良さそうなしっぽに、狐人さんかな?と思っていたら、横から俺の腕に手を絡ませたジュリアが頬を膨らませていた。


「いや、狐かな?って思って見てただけだから」

「そうなんだー」

 ジュリアの目が少し冷たく感じた。


「私、狐と猫のハーフなんです。どう?触り心地良さそうでしょ?」

 振り向き様にしっぽの先を手に持ち笑うお姉さんに、俺はそうなんだーと返しながら苦笑いするしかなかった。


「酒樽はここにあるのが全部かな?さすがに全部持ってかれると明日から休業になっちゃうからダメだけど、20樽ぐらいなら良いんじゃないかな?」

 倉庫の棚に並べられた4斗樽であろう樽酒は、凡そ100程度であろう。


「旨い酒だったし、お言葉に甘えて20樽を頂こうかな?」

「じゃあ、1樽40万ルビーだから……800万ルビー?あと料理は20万ルビーだし、えーっと……」

「じゃあこれでどうだ?釣りはいらんぞ?」

 俺は、滅多に使わない白金貨を取り出した。


「え?いいの?御釣りも出すよ?」

「いいよいいよ。あまった分は他の人と美味しい物でも食べて」

「お兄さんありがとー!私、気前の良い人って大好き!……今晩どう?」

「ははは。遠慮しとくよ」

 俺は背後から怒りのオーラを感じ、冷や汗をかきつつ冷静に断った。


「<無限収納(インベントリ)>っと」

「すっごいねー!お金持ちだし凄いスキル持ちだし……彼女さんは幸せ者だね」

「えっ、あっ、そうでしょ!クロは凄いんだー」

 樽を収納した後、お姉さんが空気を呼んでジュリアに話を振ると、ジュリアは戸惑いながらも気分を良くしていたようだ。


 さすが接客業。

 できれば最初から察して欲しかったけど……


「さて、戻るか」

「うんうん。私も戻って働かなきゃ!今日は本当に忙しすぎてさ。でもこんだけ売り上げれば後はさぼっても良いって思わない?」

「まあそれは、頑張れとしか言えんな」

「そうだ。頑張って働け」

 俺の腕にしがみ付きそうな様子のお姉さんの間に入り、シッシと手をふるジュリア。


 お姉さんは楽しそうに笑っているので、ジュリアを揶揄っているのだろう。


「ん?なんだ?」

 店内に戻ろうとと言うところで耳のピアスが反応した。


「<無限収納(インベントリ)>、えっと、エドモンドさんだ」

「父上から?」

 通信カードに表示されたのは昨夜番号を交換したジュリアの父、エドモンドだった。


「クロです。どうしました?」

『クロくん済まない!屋敷の周りを鬼人族と、他の住民も集まって来ていて暴動に……』

 エドモンドの言葉と共に、背後から悲鳴や爆発音なども聞こえていた。


「クロ!」

「ああ。エドモンドさん!今行きますから!」

 俺は、通信を切ると、事情を聞きたそうにしているお姉さんに謝って、急ぎ屋敷へと向かった。


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