36.冒険者クロ、侍女に誘惑され困惑する
薄暗い部屋の中。
侍女に抱き着かれた俺は困惑する。
「普段ここには誰も来ませんから……クロ様の欲望、私に全部ぶつけてくれてもいいんですよ?」
そう言いながら侍女は上着を開け、胸の上部をさらけ出す。
「おっとっと、ごめんね?俺、ジュリア意外とそう言う事はする気ないからさ?別の人を探してよ」
「えっ!」
俺は支えていた侍女の肩を押し体を離す。
「私、こう見えてもエッチなんです……見かけによらず凄いねって言われてるんです。誰にも言いませんから、クロ様のお情けを下さいませんか?」
目を潤ませ顔を赤くした侍女は、さらに上着を降ろしたわわなモノがさらけ出された。
「<無限収納>」
俺は大きなタオルを取り出すと、侍女の胸元を隠すように被せた。
「ごめんね。君は魅力的だって言うのは間違いないよ?でも俺にはジュリアがいるから……」
「でも……」
『もう良い』
部屋の隅から突然男の声が聞こえ、俺は驚き肩をビクリとさせた。
心臓に悪すぎる。
死んだらどうするんだ?不死だけど。
「はあ……」
侍女はため息をつくと上着を治し俺にタオルを丁寧に返してくれた。
「これ、かな?」
先ほどの声の方を確認すると、棚の影になる位置から半分こんにちわしている人形のような置物があった。
『クロくん、と言ったね。試すような真似をしていすまない』
「これ、音も映像も見れる魔道具かな?」
『そうだ。本当にすまない……こんなことをしておいて何だが、少し話せないか?良ければ今度は本当に部屋に来てほしい……』
「分かりました」
俺は頭を少し下げてから侍女に視線を送る。
「クロ様、失礼いたしました。旦那様のお部屋はこちらです……」
俺は今度こそちゃんとエドモンドの部屋へと案内され、部屋に入ると向かいのソファへと座るよう促された。
目の前には表情を固くさせたエドモンドがいる。
「まずは非礼を詫びよう。クロ殿、すまなかった!」
部屋に入るなり、エドモンドはソファから腰を上げ頭を下げた。
「いえ、親が子を思う気持ちはある程度分かりますので、ですが俺はジュリアを一生かけて愛すると決めてますから、エドモンド子爵様とも懇仲良くできたらと思っています」
「ふふ。クロ殿は恥ずかしげもなく愛などと口にできる男なのだな」
「ええ、まあ長く生きてますので……」
「だが私は、娘と良い仲であろうとも、子爵としての立場を使いクロ殿に便宜を図ろうとはしないつもりだ……」
エドモンドはどことなく疲れた表情で俺を見る。
「俺は、誰の力も必要としません。ですが貴方は他ならぬジュリアの家族です。子爵様の悩みも……俺が近日中に解決してみせますよ。<無限収納>」
真っ白なカードを無限収納から取り出すと目の前のテーブルに置く。
エドモンドはテーブルの上の真っ白なカードを訝し気に見ている。
ジュリアの父、ましてや街の領主であれば良いだろう。
俺はカードにそっと魔力を流し込む。
「こ、これは……まさか黒霧……」
「さすが領主様、すぐにご理解いただけたようですね」
エドモンドは理解はしているはずだが信じられない……そういった感情なのか表情を何度も変えながら俺とカードの間で視線を泳がせていた。
「俺はもう200年以上この世界で生きてます。過去に色々ありまして、もう恋なんてしないと誓ったつもりでした……ですが、そんな俺の心はジュリアに救われ、また人を愛する気持ちを思い出したんです」
「くく、良くそんなに、甘ったるい言葉を……よほど愛してくれているのだな」
「はい、自分でもどうしようもなく。ですから、ジュリアが悲しむのなら、目の前の全ての障害を叩き壊すのは俺の役目です」
エドモンドはジッと俺を見る。
「鬼人族はすぐに潰します」
俺の言葉にエドモンドはハッと驚きの表情と共に、目からは涙が零れていた。
「す、すまない……知って、いるのだな。ジュリアは?」
慌てて侍女がハンカチを手渡すと、涙を拭っているエドモンド。
「ええ、俺もジュリアもある程度は。ですが全てではないかもしれません。何かあれば教えてくれませんか?」
「分かった。全ては私の罪だ。事が終わればどのような処分でも受けよう!」
エドモンドの言葉に戸惑ってしまう。
「子爵様、俺は国の調査機関とかそういった組織に属しているとかではないんですよ?」
「では、見逃すと?」
「俺はただ、ジュリアの家族が困ってるので助ける……それだけです」
「ふふ。クロ殿、ありがとう」
こうして、ジュリアの父と打ち解けた?と思われる俺はエドモンドの持つ情報を確認した。
ナディアが集めた情報に概ね間違いはなかった。
だが、街中の情勢はかなり厳しいようで鬼人族は彼方此方で素行の悪さを発揮し、元々の住民達が暴動を起こしかねない状況のようだ。
エドモンドは今回の件で右往左往した結果、30キロほど体重が落ち、げっそりとしてしまったというが……元々はパンパンだったとのことで今は少し調子が良くなったとも言っていた。
「不甲斐ない領主ですまない……手を、貸してくれるだろうか?」
「任せて下さい。すぐにこの地を平和にしてみせますよ!」
「クロ殿!」
俺は、エドモンドと手を取り合い見つめ合った。
途中、かなり臭い言葉を放った俺は、ちょっと雰囲気にのまれた感もあるなと反省した。
だが、反省をしつつも後悔はしない。
俺はエドモンドと一緒に仲良く食堂に戻るとジュリアに声をかけた。
「ジュリア、戻ったぞ」
「クロ!」
入り口にいる俺に駆け寄るジュリアを抱き止めた。
「ジュリア、良く帰ってきてくれた。そして、クロ殿を射止め連れて参ったことに感謝する!本当に良くやった!ハーハッハ!」
「父上?」
大笑いするエドモンドに戸惑うジュリア。
「クロ?父上はどうしたと言うのだ?」
「いやー、話してみたら俺、御父様に気に入られてしまったようだ。鬼人族についても確認したがナディアの報告以上に状況は悪いようだから、すぐに潰さないとと思ってる」
「クロ?潰すって話は良いが、それよりもだ。気に入られたって方をもう少し詳しく話して欲しいんだが?」
さらに戸惑うジュリアに成り行きを説明する。
もちろんあの誘惑事案については全カットしての説明だ。
そうは言ってもただ単にジュリアへの愛を告げ、黒霧とばらし、鬼人族を潰すと言っただけだがな。
エドモンドはエドモンドで、チェチーリアとオルランドにそれとなく説明をしているようだ。
その後は豪華な部屋に案内された。
歓迎ムードは夜遅くまで続き、美味しい夕食と広いお風呂に心も体も癒していた。
思いのほかリラックスした休息を取り、明日の襲撃に備えることができた。
翌朝、まだ歓迎ムードが収まることは無く、朝食も終わらせ出発すると玄関に出れば、屋敷の者達が総出で送り出されことになった。
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