35.冒険者クロ、ジュリアの実家で値踏みされ
子爵邸が見える少し離れた場所に立つ2人。
「よし、入ろう」
「お、おお!」
ぎこちない動きで屋敷に近づくと、門の前には2人の護衛兵が立っていた。
年配の兵がハッとした顔をした後、もう一人の兵に話しかけ姿勢を正していた。
「「おかえりなさいませジュリアお嬢様!」」
「た、ただいま?あ、こちらクロ。俺の、大事な人」
照れながらジュリアが俺を紹介する。
2人の兵は俺をジロジロと上から下まで眺めていた。
「どうぞこちらへ」
暫くすると年配の兵が門を開け、俺達を屋敷へと促した。
その顔は笑顔だが、俺へ向ける視線はどことなく冷たかったように思えた。
「お嬢様!」
バタンと玄関のドアが開き、白髪の執事然とした男性が駆けてきた。
「お嬢様!お元気そうで!」
「うん!フィエロも元気そうで良かった!」
フィエロと呼ばれた男性は、目頭を押さえ顔を歪ませていた。
背後には先ほど別れたアニタもおり、同じように顔を歪ませている。
ジュリアは2人に挟まれるようにして屋敷内へと案内され、俺もすぐ後ろをついて歩く。
屋敷に入ると広いロビーに何人かの侍女がいて、俺達を見てどことなくそわそわした空気を醸し出していた。
フェイロ達に連れられ、二階へと続く目の前の階段を無視して左側の通路へと移動する。
通路にあるドアの1つをノックしドアを開けると、その大きな室内の中央には大きなテーブルがあり、その前に寛いでいる様子で椅子に座る3人の男女がいる。
部屋はその見た目から食堂であろう。
時間的には少しお昼が過ぎた頃。
座っているのはその身なりから恐らくジュリアの両親と弟君なのだろう。
3人共ジュリアの顔を見て固まっていた。
「姉上!」
「ジュリア、なのか?」
「ジュリアちゃん!」
数秒後、3人がガタリと音を立て立ち上がりジュリアに向かって声を上げる。
弟君であるオルランドがはじき出されたように駆け寄ると、ジュリアを優しく抱きしめていた。
「大きくなったな、オルド……それにお母様もお父様も元気そうで……」
オルランドの背丈はジュリアより少し大きいが、その顔は幼く美少年と言っても良いだろう。
俺も弟君だと言われていなければ嫉妬に狂っていたかもしれない。
「ジュリアちゃん、元気でやってるのね?」
「はい。俺……私は、元気でやっております母上、父上」
傍まで来たジュリアの母親に複雑な表情をみせる。
ジュリアから改めて紹介される。
父は領主でもあるエドモンド・デ・サンクティス子爵、母はチェチーリア、弟はオルランドだという。
エドモンドはその間も視線を逸らし明後日の方向も見ていた。
「お嬢様もクロ様もこちらへどうぞ。昼食はもうお食べになりましたか?まだであれば如何でしょうか?」
「アニタさん、ありがとうございます」
「ありがとうアニタ、頂くわ」
アニタの案内で席へつく。
そのタイミングでエドモンドが無言で席を立ち食堂を後にした。
それを見てジュリアは顔を曇らせていた。
「ジュリアちゃん、あの人は驚いてしまってまだ心が追い付いていないのよ。許してあげて?」
ジュリアの向かいに座り直したチェチーリアは寂しそうに笑いそう言った。
「そうです!父上もいつも姉上の事を心配だと申しておりました!」
隣に座るオルランドがそう言ってジュリアの手を握っていた。
俺はジュリアの頭に手をおき優しく撫でる。
少しして、2人の侍女がワゴンに料理をのせ運んできた。
「ささ、冷めないうちにお召し上がりを……」
執事フェイロに促され、目の前の食事を頂いた。
食事が終わってもジュリアは4人と楽しそうに話をしていた。
「クロ様、でよろしいでしょうか?」
「え、あ、はい」
ジュリアを眺め寛いでいた俺に、侍女の1人が話しかけてきた。
「よろしければ少しお時間良いでしょうか?旦那様がクロ様をお呼びです」
「ん、分かった。ジュリア?」
「ん?なーにクロ」
ジュリアが4人との話を切り上げ俺に寄りかかるようにして体を預ける。
「領主様が俺達を呼んでるってさ」
「いえ、旦那様はクロ様だけをお呼びです。もしよろしければ、ですが……」
「えっ、なんでクロだけなんだよ!俺も行くぞ!」
「それは……」
どうやらエドモンドは俺にだけ用があるようだ。
「ジュリアは積もる話もあるだろ?俺だけで行ってくるから、ここで待っててくれないか?」
「あ、でも……うん。じゃあ待ってる……後で何を話したか教えてくれる?」
「はは。まあそれは内容次第だな」
そう言ってまたジュリアの頭に手を置いた。
ジュリアは嬉しそうに目を細め、頭にのった俺の手を握ると胸の前に抱きしめる。
「また後で」
「ああ」
ジュリアは俺を笑顔で見送ってくれた。
さて、未来の義父様だし……何を言われるか少しドキドキしつつ、声をかけてきた侍女の後をついて案内されるまま階段を上ると、2階にある部屋の1つへと入った。
「ん?ここは?」
そこはうっすらと明かりがついた窓のない部屋だった。
照明が淡いピンクで怪しい雰囲気が漂っている。
「あの、クロ様は御強い冒険者様なんですよね?」
「あ、うーんそう、かな?」
「私、強い人が好きなんです……」
「あーそうなの?へー」
目を輝かせ胸の前で祈るように手を組む侍女は、ピンクの明かりに照らされとても魅力的に見えた。
「それに、クロ様は見た目もとても整っていて、でもミステリアスで……素敵です!ほんの少しで良いんです!私に、幸せな夢を見せて頂けませんか?」
「おわっ!」
侍女はそう言って俺に抱きついてきた。
侍女のたわわな胸が押し付けられ、思わずゴクリと喉が鳴ってしまう。
うーん、どうしたものか……思い悩む俺を他所に、侍女の手にはギュッと力が入るのだった。
ブクマ、評価、励みになります。感想お気軽にお書きください。




