34.冒険者ジュリア、生まれ故郷で物思う
冒険者ギルドへ向かう俺達。
やはり視界は悪いが昨日よりは周りが見えている。
このニヴルヘイムではほとんどの時期を霧に覆われている為、年中涼しく避暑地としても人気があるようだ。
街の北側には小規模だが別荘地もあり、暑い南側の領主貴族達が毎年夏になると涼みに来ると言う。
そんなニブルヘイムの街中で、ジュリアが小さく声を上げ足を止める。
目の前には年配の女性がこちらも見て同じように固まっていた。
「ジュリア、お嬢様……」
その声に返答は無かったが、明らかに動揺しているジュリアを見て、知り合いではあるが気まずい関係なんだろうと察する。
だがお嬢様?ジュリアは御貴族様か商家の出なのか?
「お元気そうで何よりです」
「アニタも……」
ジュリアは少し俯きながらのアニタと呼ばれた女性に小声で返していた。
「ジュリア、良ければ紹介してくれるか?」
「う、うん。こちら、俺の乳母だったアニタ」
「アニタです。よろしくお願いします」
ジュリアの紹介する言葉に合わせ、アニタは頭を下げている。
「アニタ、この人がお、私の、クロ」
「アニタさん、俺はクロと言います。ジュリアとは仲良くさせて頂いてます。冒険者をしていて、今回は所用もあってジュリアと2人で昨日この街にやってきたばかりなんです」
ぎこちなく返答する俺に、アニタははにかむように見ていたが、冒険者と言う部分で少し顔を曇らせていた。
「やはり、お嬢様は冒険者におなりになったのですね……」
「うん。楽しくやってるよ」
「そうでしたか……屋敷には、顔を見せてあげてはくれませんか?」
「それは、無理、かな?」
ジュリアの返答に顔を伏せるアニタ。
「ジュリア、もし良ければ少し時間とったらどうだ?」
「え、いやいいよ。俺は……」
「クロ様、お気遣いありがとうございます……お嬢様?少しだけ、オルランド様の事だけでも……」
「うっ……分かった。クロ?ごめんね?ありがとう」
目を潤ませ俺を見つめるジュリア。
その頭をポンポンすると、アニタの案内で個室があると言う食堂へ移動した。
「何か適当に、余ってもいいからジャンジャン持って来て」
店員にそう言うと早速と言う様子でアニタが話し始めた。
話の後、涙目のジュリアを抱きしめる。
アニタの話では、ナディアの資料に記載があった通り、鬼人族はこの街の領主、デ・サンクティス子爵と繋がっりがあるようだ。
その繋がりというのが、鬼人族により子爵家が強引に脅されて便宜を図らなくてはならなくなっているようだ。
その話にジュリアが顔を歪めている。
その領主であるデ・サンクティス子爵がアニタの主、つまりはジュリアの父であったからだ。
ジュリアは16で婚約者の隣街の領主の息子の元に嫁ぎ、やがて子爵を継ぐ弟と共に街を発展させるというのが父の計画だったようだ。
もちろんそれはジュリアの事を考えて、幸せになる為の至って普通の方法でもあった。
だが、冒険者に成りたい夢を捨てきれなかったジュリアは、弟に家を任せ14で家を飛び出した後、ライラで念願の冒険者になった様だ。
ジュリアはそれから一度も家には戻らすにいたと言う。
一方ジュリアが家を出た後は、弟のオルランドが家を守ると奮起して、16になるとすぐに領主である父エドモンドを支え、公務もこなすようになり立派に成長していたらしい。
だが、その子爵家に鬼人族の族長グロッシがやってきて、街の困りごとを一挙に引き受けるから金を寄こせ、経営している施設の税を免除しろなどと言ってきた。
当然エドモンドは断ったのだが、翌日からは屋敷の周りで暴漢が暴れたりボヤがあったり、エドモンドやオルランドが公務に出た際にも付近で騒ぎが起きたりと続いたらしい。
2週間後に再び屋敷にやってきた鬼人族に、エドモンドもさすがに察して抗議したのだが、グロッシはどこに証拠があるのだと言って逆に慰謝料の請求もされ、結局は家族や領民を守るため、定期的に金銭を渡し税や法整備に便宜を図っているそうだ。
「益々鬼人族を潰さなきゃならなくなったな」
「クロ……」
俺は不安そうなジュリアの肩を抱く。
「アニタさん、俺達、元々この街には鬼人族を潰しに来たんですよ。ジュリアの身内にちょっかいかけてるなら……こちらも本気で相手してやりますよ!」
「クロ様……」
アニタが手を合わせて俺も見る。
「そうと決まれば、まずは子爵邸にご挨拶にでも行くか?」
「いや、それはちょっと……」
もじもじするジュリア可愛い。
「いいじゃないですかお嬢様!きっと皆さんお喜びになります!」
「うう、でも……」
「行こうぜ!俺も御両親に挨拶して、認めてもらおう」
ジュリアは顔を赤くしてコクンと頷いていた。
その後、運ばれてきた大量の食料を無限収納に収納し俺達は屋敷へと……と思ったが、まずは冒険者ギルドだと思い出し、アニタと別れ移動する。
アニタには俺達が来るまでジュリアの事は内緒にしてもらうよう伝えておいた。
今のところこの街では迷宮に入る気は無いし、面倒ではあるがもしかしたらギルドからも情報を貰えるかもしれない。
何より報連相は大事だからな。
そう思ってギルドを目指す。
その数分後、冒険者ギルドにたどり着いた俺達は、3人の色黒マッチョな鬼人族の女達が受付にいる立ってを見て、ギルドに報告をすることを躊躇した。
隅の方にいた気弱そうな冒険者にそれと無く聞くと、どうやら数年前に職員がガラリと変わり、今ではギルドマスターも鬼人族なのだと聞き、報告を諦め子爵邸へと向かう事にした。
もしかしたらこの街は、鬼人族が至る所に入り込んで乗っ取っているのかもしれない。
そんな不安を抱えながらの訪問だった。
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