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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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32.冒険者クロ、ニヴルヘイムを目指す


 早朝、宿の前に止まっていた豪華な馬車。


 宿を出るとその馬車の前で笑顔のナディアが立っていることにドン引きしている。


「おはようございます!クロ様!」

 元気よく挨拶するナディアは、いつものふわふわゆるゆるなドレスではなく、タキシードのような恰好をしている。


「おい、なぜお前がいる」

「長旅になりますので、御者としてサポートさせて頂きます!」

 俺は、帰れと言いかけたが御者としてか……


「いいだろう!だが、俺達の邪魔はしないように!」

 俺がそう返すとナディアは「ひゃっほーい!」と奇声を上げながら飛び上がり、くるりと回り馬車のドアを開けた。


 馬車に乗り込むと、後ろをついてきたジュリアが立ち止まり、殺意を籠めた視線でナディアを睨んでいた。


「ジュリア、ナディアが御者をしてくれるなら中で一緒にイチャつけるぞ?」

「あっ!」

 俺の言葉に嬉しそうに笑顔に変わったジュリアは素早く馬車に乗り込むと、俺の隣にエヘヘと言いながら座っていた。


 今度はナディアが悔しそうに歯噛みするのが閉められるドア越しに見えたが、自分の意思で着いてきたのだから自業自得だろう。

 それよりも今は……


「ジュリア、何か心配事でもあるのか?」

「へ?」

 昨日から少し元気が無い様に見えるジュリアに聞いてみた。


「昨日からなんだか元気が無い様な気がしてな。勘違いなら良いんだが……」

「うっ……いや、勘違いじゃない、かな?」

 そう言うジュリアは俺の肩に顔をポスンと凭れかけてきた。


「実は、ニヴルヘイムは……俺の故郷だったりしたり?」

「ほお」

「それで、ちょっと気まずいなーって」

「家族は存命なのか?」

「あー、俺が家を飛び出したのは14の頃だからな……その頃は両親と、弟も元気にはしていたよ」

「そうか。何かあったら言えよ」

 俺は、ジュリアの腰に腕を回し抱き寄せた。




 ジュリアの肌の温もりを感じつつも馬車は進む。


 ニヴルヘイムまでは順調なら2泊3日の予定である。

 お昼を少し回った頃、道の先に開けば場所を見つけたのでナディアに声をかけ馬車を止めさせる。


 食事をどうしようか?と思ったら、御者席から飛び降りたナディアが馬車の扉を開けた。


「クロ様……と、ジュリア、さん、あちらで食事にしましょう」

「お、おお」

 広場に向けて手を翳すナディアと、それを目を細めながら見ているジュリア。


 2人から漂う気まずい空気に戸惑いながらも馬車を降りる。


「こちらで良いですよね。<αποθήκευση>」

「うお!」

 ナディアが手を翳した場所へ椅子が4脚、可愛らしいレースのクロスがかけてあるテーブル、そしてその上には豪勢な料理が乗っている。


 良い肉の匂いに空気を大きく吸い込んだ。


「いっぺんに出せるのはすげーな」

「テーブルなどはセットで纏めて収納するとそのまま出せますので、後はその上に料理を乗せるイメージを持てば一度に出すことができます。どうです?便利ですよね?私を侍女に……いえ、嫁にぜひ!」

 確かに便利だが、別々に出せば良いだろう?と思っていたら、ジュリアが悔しそうにテーブルの上を見つめていた。


 うーん、空気が悪くて要らぬストレスが……


「なあナディア、空気を悪くするなら帰れよ?」

「そんな!クロ様、私はただ……」

「いちいちジュリアを見て睨んだり、今の様に得意気な顔を向けるのはやめろ……ジュリアも、対抗しようとしなくても良いからな?俺の一番はお前なんだから」

 そう言うと、ジュリアは恥ずかしそうに席へと座った。


 対するジュリアは「くっ」と声を漏らした後、何度も深呼吸をしていた。


「クロ様、お邪魔はしませんのでこの旅路だけでも御傍において下さい。クロ様のお役に立ちたいんです!」

 落ち込んだ様子のナディアだったが、そう言って笑顔を見せる。


「ああ、頼むな」

 そう言いながら頭にポンと手を置くと、嬉しそうに「はい!」という返事と共にダッシュし、テーブルの上のポットから紅茶か何かを人数分注いでいた。


 その後は特に問題なく進む。

 夜営についても以前使ったベール状の結界装置を設置してやり過ごした。

 ナディアは空間魔法で中が広いテントを使っている。

 鍵付きなのでテントに押し入ろうとしても結界に拒まれ、かなりの攻撃を繰り出さなければ壊せないタイプの物だ。


 それを少しだけ羨ましく思いつつも、いずれちゃんとしたのを作成(クリエイト)しようと思いながら、ジュリアと食後の運動をしつつ朝を迎えた。




 旅は順調に進む。

 途中で一度だけ野盗に絡まれたが、常闇所属では無いのを確認したナディアが一瞬で焼き尽くしていた。


 3日目のお昼過ぎ、昼食は取らずにそのまま街へと入ってゆく。

 周りはすでにうっすらと霧が出ていて視界が悪い。


 まずは宿だと大きめの宿をとる。

 そこで食事を終えると、部屋に移動し少しだけと言われナディアも入室を許可した。


 部屋に入るとテーブルの上に数枚の紙の束を置いたナディア。


「これが、鬼人族のアジトや力関係の概要です。何かあれば連絡を頂ければお手伝い致しますので……では、クロ様、楽しい旅路をありがとうございます」

 そう言って頭を下げ、部屋を出ていこうとしたので俺は声をかける。


「ああ、助かったよ。また頼むな」

 そう言って頭を撫でる。


「クロ様!御用があれば、無くても!いつでも呼んでくださいね!ではでは、<τηλεμεταφοράς>」

 そして、廊下に出たジュリアは転移で消えた。


「なんだが可哀想な気もするな」

「気にすんな。……まあ、今度はもう少しかまってやるか……作成(クリエイト)でアクセサリでも作っとくか……」

 聞き分けの良いナディアに少しの罪悪感を感じつつ、置き土産の紙を眺めていた。


 ナディアに対する気遣いは要らぬことだと悟るのはもう少し後だった。


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