31.冒険者クロ、鬼人族のアジトを聞く
後書きにマップをご用意いたしました。
夕食を終えやっと作成に没頭できる時間となった。
インナーには魔力吸収効果が付与できた。
俺には不要な効果だが、反射効果を持たせたくて素材を少し変えたが無駄に終わった。
ジュリアの業火之舞鎧には魔力反射が追加で付与できた。
少し悔しい。
だがこれで魔法攻撃はそのまま反射……とはならない程度であったが、耐性と共に魔法のダメージを受けにくくなっている。
ジュリアのマントについては動きやすいように俺の強運之外装と同様、ペリースにして左肩に装着できるタイプにしてみた。
余っている花崗岩も追加して、赤黒く輝くマントができた。
効果は熱耐性になったので、装着するだけで砂漠地帯でも涼しく過ごせるものができてしまった。
正直俺も似たような性能の物も持っては居るが、ジュリア用のマントはそれを軽く超えるものとなった。
ジュリアと話し合った結果、新たなマントは防熱之外装と名付けた。
いずれ防寒性能を付与したいという思いも込めた良い名だと思う。
精霊石がもう一つあるので調子に乗った俺は閃覚之籠手にも付与を施した。
結果、耐魔が付与されたので、慣れれば攻撃魔法を殴ることもできるかもしれない。
最後に、運良く手に入ったスネークアイをこねこね作成していたら、視覚強化の指輪ができてしまった。
深い意味は無いがジュリアの左の薬指にピッタリサイズになったので、装着してやるとジュリアはうっとりとそれを眺めていた。
「この指輪、名はどうしよう?」
そう聞くと「二人之誓でいいんじゃないか?」とぼーっとした顔で言うのでそうしようと思う。
深夜遅くに終わった作成作業だったが、その後は指輪を眺め終わったジュリアに押し倒されることになり、翌朝は昼間で眠った俺達だった。
お昼過ぎ。
ベッドサイドに置いた通信カードが反応し、寝ぼけたままそれに出る。
『クロ様、あなたのナディアです!』
「切るぞ?」
『待ってください!鬼人族の今の拠点が分かりました』
「そうか。とっとと吐くんだ」
『では、今クロ様はどちらに?すぐにそちらに―――』
「くるな!」
慌てて叫んでしまったが、その声でジュリアも起きたようでこちらをジッと見ている。
もちろん宿は教えていないから大丈夫ではあるが、今は2人とも一糸纏わぬ姿なので来られても困る。
「よし!30分後、前回のギルドマスターの部屋で待て」
『分かりました!すぐに参ります!』
ナディアの返事に「おい!30分後だぞ!」と返したが、すでに通話は切断されていた。
アレッサンドラにも言っておかないと面倒になると言うのに……
そう思いながらアレッサンドラに連絡する。
「おい、今大丈夫か?」
『ちょっと待て!今忙しい!アホな幼女が不躾に現れたからな!説教中じゃ!』
『クロ様!お待ちしておりまいたっ!何すんのよこのババァ!』
『なんじゃと!見た目だけはいつまでも変わらぬクソ幼女が!』
俺は、取り込み中の様なので黙って通話を切断した。
「ジュリア?ギルドに行くから服着ような?」
「はーい」
俺もこのまま二度寝したい気持ちを抑え着替えを始めた。
昨日作成した装備を身に纏うジュリアはとても綺麗だった。
「良いな。とても似合ってる」
「クロ!もう少し寝ていく?」
「ああ、俺もそうしたいと思ってるんだけどな?さすがにアレサが怒るからな。帰ってから考えよう」
「うん!」
こうして、ベッドに泣く泣く別れを告げ冒険者ギルドまで移動する。
ギルド内は閑散としていたが、すでに連絡をしている事もありクラウディアの案内は断り直接部屋を訪ねた。
「おーい、来たぞー!」
「よく来たな!やっと決着がついたところじゃ!」
「ひーん!クロ様ー!」
ドアを開けると正座させられていたナディアが飛びついてきたが、横からジュリアの手が伸びまたも体が宙に浮いていた。
すでに藻掻く元気がなかったからか、ブラーンとしているナディアはソファにホイっと投げ捨てられた。
「さて、知ってることを話してもらおうか?」
ぐったりしているナディアにそう言いながら頭にポンと手を置くと、すぐに復活したナディアは正座で情報を話し始めた。
鬼人族が拠点にしているのはここよりさらに王都に近い位置、霧の街と言われるニヴルヘイムという街だ。
そこに酒場があり、それらを仕切っているのが鬼人族の長だと言う。
他に酒場が存在しない事、鬼人族特製の高級酒を扱っている事もありかなり賑わっているようだ。
それらばかりではないが、かなりの資金をつぎ込んで妖精や精霊を研究しているらしく、過去にも精霊を怒らせて多数の鬼人族とそれに組する輩達が死亡したこともあるが、それらは公にはされていないようだ。
次の行先は決まった。
ニヴルヘイムへ向けて明日の朝一で出発することを決め、今日のところは宿へ帰ることにした。
「ナディア、情報ありがとな。帰っていいぞ」
「クロ様ぁー!」
また飛びついて来ようとするナディアだったが、すでにジュリアが身構えていたので動きを止めた。
泣き出しそうな顔に少し可哀そうかもと思った俺は、無限収納から何かないかと装備を物色する。
「これがいいかな?」
そう言って黒い腕章をナディアに投げ渡す。
「闇属性の耐性と使用効率が大幅に上がる奴だ。今回頑張ってくれたからな。また頼む」
「クロ様!私、頑張ります!何かあればいつでも連絡してくださいね!」
正直使い道が無くて持て余していた物だが、喜んでもらえた様なのでまあ良いだろう。
さて行くか、と思っていたが涙を流し腕章に頬ずりしているナディアの背後に、物欲しそうな顔をしているアレッサンドラが見えた。
うーん、何かあるかな?
仕方なしに無限収納を探り細い腕輪を放り投げる。
「ク、クロ、これは?」
「火属性強化の腕輪」
「ほ、ほお……なかなか良いじゃないか」
アレッサンドラはその言葉とは裏腹に頬を緩ませ腕輪を装着していた。
「クロ、望みは無いか?」
「じゃあ、ニヴルヘイムへの馬車を頼めるか?」
「そんなので良いのか?明日の朝、宿の前で待たせておくのじゃ」
「ああ。じゃあ今度こそ本当に帰るぞ、アレサも短い間だったが世話になったな。ナディアはまた何か頼むかもしれんからその時はよろしくな」
そう言って部屋を出るが、背後からはナディアの「はい!喜んで!」というどっかの居酒屋っぽい声が聞こえた。
こうして早めに戻った俺達は、明日の出発に備え早めのシャワー、早めのイチャを経て眠りについた。




