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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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28.冒険者クロ、子爵邸で語らせる


 子爵がいると思われる部屋のドアを蹴り飛ばす。


「何事だ!実験にでも失敗した、か?……ん?誰?」

 ドアがあった場所に叫んでいた男は、俺と顔を合わすと首を傾げていた。


 どうやらその老年の男が子爵なのだろう。

 貴族然とした恰好から予想がついた。


 決して分析(アナライズ)で名を確認したから分かったわけではない。


「お前が、迷宮で可笑しな実験をしていた奴等の親玉だな」

 その一言ですべてを理解した子爵は悔しそうに顔を歪ませている。


「ではお前が……おい、お前達!何をボーっとしている!身の程知らずを返り討ちにしてやれ!」

 室内にいた男達に声をかけるが、その声に反応する者はいなかった。


「どうした?かかってこないのか?」

 挑発してみるが、室内の男達はゆっくりと距離を取る。


「何してる!早くこいつを―――」

「無理です!こいつ、あの二人組だ!上級冒険者にかなう訳がない!」

 男の1人がそう叫び、周りの男達も首をカクカクと首を上下させている。


 それを見た子爵は、がっくりと肩を落とし顔を下に向けた。

 よし!これで任務完了。

 こいつらをギルドに引き連れていけば解決だろう。


 そう思った時、急に気配を感じた俺は身構える。


『やっと、みつけた』

 ゾッとする何かが籠っている声に体は震える。


 俺の横をスーっと通って出てきたのはあの魔道具に捕らえていた妖精だった。

 その口はまたもガバリと開いている。

 俺は心臓がギュッと締め付けられたように感じ全身から汗が噴き出る。


『ケケケケケケケケ!』

 子爵に向かってゆく妖精から聞こえる笑い声に頭が割れそうになるが、ここで子爵達が殺されれば何も分からぬまま終わってしまう。


「リズ、頼む」

『おけ』

 なんとか絞り出した俺の声に反応して現れたリズが手をかざすと、妖精の周りに薄い光の幕が出現する。


「ナイスだ!」

 ご褒美に塊を放り投げておく。


 すかさずジュリアもご褒美を追加すると、両手で魔力の塊を持ちクルクル回っているリズ。

 その表情は相変わらず無だが喜んでいるようだ。


 リズの結界の中の妖精がこちらを向いて怒りの表情でガシガシと光の膜を叩いている。

 目を背けたいのに目が離せない恐怖に不安を感じる。


「怖い怖い!何その顔!リズ、リズ様?なんとかして!SAN値がガリガリ削られちゃってんの!」

 俺に背後にはジュリアが震えながらくっついている。


 正直この世界に来て一番の恐怖だと感じたのが昨日だ。

 それが早くも更新されてしまう。


 精霊であるリズなら妖精を宥めるぐらい朝飯前だろ?と思って頼んでみたが、頼みのリズは妖精と自分の手に持つ魔力の間で視線を彷徨わせている。

 ガチガチと歯が鳴るほどの恐怖の中で時間だけが過ぎてゆく。

 子爵が白目を剥いてひっくり返っている頃、リズがふわふわと妖精の前まで移動した。


『お前、ジャマ』

『精霊様、なんで邪魔する?』

『クロ、話してる、リズ、これ喰ってる』

『でも、あれ、殺したい』

『後でやれ』

『わかった』


 そんな会話の後、妖精は結界の中で正座をして子爵をジッと眺め始めた。


 俺はようやく安堵し、リズに特大の魔力を献上した。

 ジュリアも涙目で頑張って魔力を絞り出していた。


 俺の出した特大の魔力の塊を床に置き、それに乗りながら三つの魔力を順番に操りガリガリと齧るリズ。

 もはやそっちに注視したいところだが、早々に聞きださなければまた妖精がぐずるかもしれないと気持ちは逸る。


「おい!起きろ!」

 気絶したローブの男達に蹴りを入れ、意識を引き戻す。


 意識を取り戻し怯えた様子の男達に確認する。


「お前達は真世界の救世ワールドサルヴェイションという組織で良いだな?」

「は、はい!その通りです!」

「返事はサーセイエッサーを付けろ!」

「はい!サーセイエッサ!」

 男の返答を聞き、これならすぐに終わりそうだと安堵した。


 男達はペラペラと話し出す。


 大方予想通りだったが、ここでは妖精を使ったあの装置が本部からと送られてきて、その効果を測定していただけの様だった。


 だが実際にあの魔道具に魔力を籠めて起動させたのは子爵だった。

 本部には記録を報告していたがそれ以上の指示は無く、本部がどこにあるのか、何をやっているのかも分からない様だ。


 ただ、妖精を装置ごと運んできたのは褐色の肌の露出が激しい男だったそうだ。


「うーん、大した情報はないな……子爵にも聞いてみるか?」

 俺の言葉に男達は何度も頷いている。


「おーい、いつまで寝てる?」

 子爵の顔をつま先で軽く蹴って意識を引き戻す。


「ぐっ!おのれ……この私を子爵と知っての狼藉か!」

「今それ?やばくない?知らんで来る訳ないだろ?」

「私に手を出せば、王国が黙っていないぞ!」

「だめだこりゃ……貴族を廃して平等な世界に……じゃなかったのか?まるっきり御貴族様の言い分じゃねーか?」

 俺の言葉に悔しそうに歯噛みする子爵からは何も返ってこなかった。


 その後、何度か殴りつけ話を聞くが、結局それ以上の情報は得られなかった。


「よし、もうここに様は無いな」

 その言葉に子爵を始め、黒ローブの男達も顔を明るくした。


「じゃあリズ、解放してやれ……お前も、待たせたな」

 そして解き放たれた妖精が、こちらに顔を向け口角をグイっと上げ子爵の方へゆっくりと飛んでいった。


「よし!帰るぞ!」

 俺は子爵たちの悲鳴が聞こえる中、逃げるように屋敷から出て冒険者ギルドへ向かった。


 全身に嫌な汗を掻いたので本当は今すぐ宿に戻ってシャワーを浴びたかったが、確実に寝てしまうだろうと予想できてしまうので我慢する。


 ギルドへ入るとすぐにクラウディアに案内される。

 今回は待ち構えていたアレッサンドラに、子爵家で起こったことを報告し、話を聞いたアレッサンドラは頭を抱え悲鳴をあげるのだった。


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