26.アレッサンドラ、詳細を知り項垂れる
冒険者ギルドでは、ギルドマスターのハイエルフが頭を抱えデスクに突っ伏している。
ほんの数分前、クラウディアに案内された俺達は迷宮の奥で見たことを包み隠さず報告した。
「迷宮には最初に発見された当時から厳重に監視をして、限られた冒険者以外は入れてはおらなんだ……」
「つーことは、やっぱりあいつ等が最初からいた、という事になるのかな?」
俺は他人事の様に予想される状況を口にする。
「あー、そうじゃのー。だが妖精が闇落ち?聞いたこともないわ!」
「リズ、俺の精霊から聞いたから確かな情報らしいぞ?」
ため息をつくアレッサンドラはデスクに引っ付けた顔を横に向け、面倒だーと唸っていた。
「とりあえずあの場は封鎖する。後は報告して国からの指示を仰ぐとしよう……クロ、ご苦労じゃったな」
「ああ、結局午後からの片手間で終わっちまったからな。気にするほどの事じゃない」
俺は言葉通りにそう言ったのだが、なぜかキッとこちらを睨むアレッサンドラ。
「そうじゃ!奴等が作り出したと思われる赤い魔物はまだいるのじゃろ?危険なので一掃しておいてくれんかの?報酬は……なんかあったかのぉ?」
そう言いながらゴソゴソとデスク周りを漁り出すアレッサンドラ。
「あっこれなんてどうじゃ?」
引き出しに入っていたと思われる石ころを、アレッサンドラは結構な威力で投げつけられた。
もちろん俺は難なくキャッチして余裕の笑みを浮かべると、アレッサンドラは悔しそうにしている。
だが、投げ渡された拳大の石ころは、闇結晶の塊であった。
ごつごつと黒光りするそれは、闇属性の上位の魔物が稀に落とすドロップ品だが、このサイズは俺も見たことは無い。
加工が難しいと言われるが、高い吸魔性能を秘めている為、ローブなどに上手く練り込めば魔法攻撃への耐性が大幅に向上するものだ。
「これは……いいな!ありがとう。明日は迷宮を消滅させる勢いで狩ってくるわ!」
「そこまでせんで良いが、まあ任せたのじゃ」
アレッサンドラの言葉に半分だけ耳をかたむけつつ、俺はこの闇結晶の良さをジュリアに説明していた。
ジュリアのインナーにこれを付与して……それでもこの大きさなら余りそうだから同じようにマントを作るのか?俺の分もインナーぐらいはできるかな?
そんなことを話しながらギルドマスターの部屋を出る。
背後から「お前らー!ホント、そういうところじゃぞ!」と叫ぶ声が聞こえたが、それには手をヒラヒラさせて返しておいた。
部屋へ戻ると深夜を過ぎていた為、今日のところはとすぐにベッドへ潜り込む。
イチャイチャしたい気持ちを抑え、抱き合いながら眠りについた。
翌朝、精神的に疲れもあったのかまた寝坊してしまった。
どうしようかな?とも思ったが、赤い奴等がもう増えないと言うのであれば午後からでも大丈夫だろう。
そう思った俺はジュリアを起こさないように静かに起き、シャワーを浴びることにした。
結局ジュリアも途中から入ってきてイチャついてしまったが、なんとかお昼前に迷宮へ向かうことができた。
迷宮の周りでは、兵士の近くに昨日の冒険者達が座っていた。
嫌な予感しかしない。
俺は念の為、索敵と分析を使い辺りを警戒した。
「ん?」
俺は脳内マップの端にレッドマークが2人いるのが見えた。
そちらに視線を送ると木の影からこちらをこっそり覗く男の顔を見えた。
良く見ると昨日の奴等が来ていた黒いローブを着ている……手がかりゲット!思わずガッツポーズしそうになった。
「ジュリア、あっちの端はあまり見ないようにな」
「ん?ああ。分かった」
そう言いつつチラチラ挙動不審に視線を送るジュリア。
「ジュリアはここに居てくれ。俺はあいつ等を捕獲してくる」
「ああ。気を付けて?」
「<能力強化>」
小首を傾げるジュリアを残し、俺は小声で脚力を強化して覗き魔を強襲した。
◆◇◆◇◆
フヴェルゲルミル某所。
豪華な調度品が並ぶ一室で、椅子に腰かけた白髪の男が目の前に立っている男達を睨みつけている。
「まだ連絡はこんのか?」
「はい。今朝も定時連絡をと試しましたが、反応はありませんでした」
緊張しながらそう答えた男。
昨夜から何度も通信具に魔力を注ぎ、連絡を試すも反応が返ってこないことに焦りを感じていた。
「やはり、ギルドで何か対策をされたのかもしれんな」
「数日前から2人組の冒険者のみが入ることを許されたということで、他の冒険者は待機命令が出ていたそうです」
「待機?で、その2人組の冒険者は何者だ?」
「分かりません。最近この街にきて、バルハラに泊まってるようです」
「バルハラ?となれば高ランクの冒険者だろうな」
男達の言うバルハラとは、クロ達が止まっているこの街で一番の高級宿である。
「順調に進んでいるとは思ったが、何かあったのなら奴等も始末しなくてはならないな……」
「そんな……」
男が言う奴等、とは泉の近くに出来た新しい迷宮内で作業中の男達の事である。
数週間前、いよいよ実験結果を試す機会に恵まれた。
組織から捕獲して魔物の合成装置と化した妖精を受け取ると、目立たない場所だとあの場所を選んで設置させた。
成果としては想定通り、新たな迷宮が数日で出来上がる。
そこから下へとドンドン育っていった迷宮が、"遂に30階層まで到達しそうだ"と報告を受けたのは3日前の事である。
頃合いかもな。
そう考えた男が計画通りに魔物合成の装置を設置させた。
数々の魔物の素材を収納した魔物の合成装置……迷宮から生み出された魔物とその素材を順に合成魔物として迷宮に解き放っていた。
合成魔物は迷宮を彷徨い、他の魔物を喰らいまた別の種へ進化するように作ってある。
もちろん安全は担保している。
ローブに仕込まれているある素材により合成魔物は同じ種と判断して襲わないようになっている……理論上はという言葉が付け加えられるのだがそれは些細なことであろう。
鑑定持ちの男にはどの素材との合成が効果的かを見極め報告を上げさせていた。
同時に、妖精の衰弱具合なども報告させている。
ギルドがうろちょろしだした様だが、かなり下層にまで育っている為、すぐには勘付かれないと思っていたが……
「お前とお前、直接確認して報告しろ」
白髪の男は目の前の男達を見てそう命じた。
「ですが、昼夜問わず兵士達が厳重に見張ってるのですよ?無理です無理です!」
「誰も中に入れとは言ってないだろ!それに、どうせ入れたとしてお前等に30階層までたどり着ける運を持っているをは思えんし、少しは考えろ!」
「それは、そうですが……」
「兵士達の様子を見張れ!今朝から連絡がないなら、すぐには上がってはこれんだろう。もし捕縛されているなら面倒だから皆殺しにでもしたら良い。分かったらすぐに確認に行って来いよ!」
命じられた二人の男は、おおきな声で返事するや否や部屋を出ていった。
「大丈夫、でしょうか?」
「あまりゴタゴタするのなら、奴等が死んでた方がマシだな。ある程度のデータはすでに本部に送っている。私も暫く大人しくしているさ……ほら、お前等も早く戻れ」
シッシと手を振り追い出した男は、ベルを鳴らすと部屋にやってきた侍女に食事の用意をさせるのであった。
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