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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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25.冒険者クロ、妖精との会遇


『クロ、危険』

 29階層、ゴールが見えてきたところでリズが突然顔の前に現れ足を止めた。


「どうした?」

『妖精、穢れてる』

 相変わらずの真顔ではあるが、こちらをじっと見ているリズに何か良からぬものを感じた。


「妖精って、リズより下級な奴等だろ?穢れてるってのはどう言う事だ?」

 リズに説明を促している間、周りから迫ってきているキメラについてはジュリアが派手に狩っていた。


『妖精が穢れて闇落ち』

「闇落ち?」

『何か、黒く染まってる、恐怖で泣いて、怒ってる』

「妖精がどうにかなってるって事しか分からないが、この先にそう言った妖精がいるってことだな」

『そう』

 リズの話では分からないことが多いが、人間もいることだし行けば分かるだろう。


「リズ、一応ジュリアを頼む」

『わかうま』

 放った魔力をキャッチしてジュリアの肩に乗りガシガシするリズは、迫ってきていたキメラを指から出したビームの様な物で粉砕していた。


「リズ様すごい!」

 ジュリアは大喜びでリズを拝みながら自分の魔力の塊を捧げていた。


『両手にうま!』

 珍しくテンションの上がったリズを無視して先を急ぐ。


 こっそりと人の集まる空間を覗くと、そこには黒いローブを着た集団が中央に向かって何かやっているようだ。


「―やく――れ」

「―――た―」

「―げよ!あ―――――――――れな―」


 黒ローブ達の声は良く聞こえないので聴力を強化する。


「<能力強化(ドービング)>」 

 耳周りを意識して使ったので一瞬キーンとなるが、すぐにそれは治まった。


「もう良いんじゃないか?」

「ああ。もうギルドが騒いでる」

「急げよ。とりあえずの実験データが取れればいいんだ」

「ならもう十分だろ?」

「どうせなら30階層まで行かない?」

「いやもう無理だろ」

「妖精はこのままでいいんだよな?」

「ああ、いずれ朽ちて消滅するからな」


 ああ、これは駄目な奴だ。


「<千の鎖(サウザントチェーン)><だまれ(ディスペル)>」

 俺は間髪入れず目の前の5人の黒ローブを拘束した。


 目の前で簀巻にされて転がる男たちがウーウーと唸っている。

 そして、剥き出しになった中央部には、羽の生えた見るからに妖精という存在が張りつけにされていた。


 俺は咄嗟にその拘束を外そうと手を伸ばすが、目の前を結界により阻まれた。


『クロ、それだめ』

「マジか……どうしたら良い?」

 リズからの返答はなかった。


「ひでーことするな!」

 妖精はどす黒いオーラが可視化できるほどの何かを放っている。


 四肢は挟まれるように黒いピンの様なもので交差して押さえつけられている。

 その口は黒い糸で雑に縫い付けられている。

 妖精の目は虚ろに彷徨うようにころころと視点を変えている。


「お前達、これはどう言う事だ……説明するか死んだ方が良い苦痛を味わうか選べ!」

 男達に巻き付けられた魔力の鎖を口元からずらすと、殺気を向けながら事情を聞いた。


「俺達は―――」

 男の1人が口を開いたタイミングで妖精を拘束している魔道具から伸びた装置から黒毛熊(ブラックベア)もどきが現れる。


「邪魔っ!」

 俺は間髪入れずそれを上から切り捨てた。


「まずはこの装置を止めろ!」

「それは、止められないんだ!俺達は、ただ言われた通りにやっただけなんだ!頼む、見逃してくれ!」

 俺はイラっとしながら黒死無双(こくしむそう)で装置を切り裂いた。


 男達から絶叫と言っても良い悲鳴が聞こえた。

 必死で身をよじって逃げようとしている。


『クロ、そっちに』

 リズが壁の方を指差すので、ジュリアと共に壁際に移動する。


 リズが妖精のところまで移動すると、妖精の顔面に手を向け燃やす。


「おい!」

 思わず叫んだが、炎が消え妖精はバックリと大きな口を開けると、言葉にならない声を発してその衝撃でジュリアを抱く様にして頭を抱える。


 ものすごい嫌悪感に吐き気がした。


 振り返り妖精に視線を向けると、拘束具はボトボトと地面へ落ち、自由となった妖精がゆらゆらと男達の上を飛んでいる。

 その口は大きく開いているが、笑顔に見えるが笑ってはいないのだろう。


 直後にまたあの嫌な声を発したので耳を塞ぐ。

 薄目を開けながら見ているが、男達は痙攣しているように見える。


 暫くすると男達は泡を吹き白目を剥いて動かなくなった。

 妖精はこちらを見てニタっと笑った後、消えていった。


 俺は、何とも言えない恐怖を覚え暫くジュリアと抱き合いながら固まっていた。




 俺が動きだしたのはそれから10分程度時間が経った後だった。

 気付けばリズが鼻先に張り付き、両手でパスパシとリズミカルなメロディを奏でていた。


 それにしても、長く生きていて初めて感じる心の底から湧き出る恐怖だった。


 その感覚は魔物達も同じだったようで、あの二度目の声の時にはマップに表示されているレッドマークが、一斉に遠くに離れて行くのが確認できた。

 俺達が動けなかった間も一切こちらには近づかない様だし、正直俺も漏らすかと思ったぐらいだ。


「リズ、結局あれは何だ?」

『呪い』

「あの男達が妖精に呪いをかけて何かやってたってことか?」

『そう』

 俺は、分析(アナライズ)により既に死亡している男達を見ながらため息をついた。


「リズはあんな恐怖感を煽る声は出せるのか?」

『当然、あんなもんじゃない』

「そ、そうか……頼むからやめてくれな」

『チャンスがあれば使う』

「マジでやめてくれ」

 そう言いながら魔力玉をほいっと投げた。


 結局あいつらが魔物を生成してたってことだけは分かった。

 この迷宮がすぐに深く育ったのもきっとあいつ等が何かやったのだろうとは思うが、やはりそれは憶測になってしまう。

 せめて1人でも生き残ってくれたら……そんな後悔が残ったが、相手は妖精だ。

 人間の都合なんて知ったことじゃないんだろう。


「もう知らん。ギルドに報告したら後は勝手に何とかしてくれるだろ?」

 俺は小部屋に戻るのも億劫になり、この場をマーキングして脱出すると、ギルドに報告に向かう。


 全てを丸投げにする為に……


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