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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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24.冒険者ジュリア、新装備にはっちゃける


 夜が明ける。

 お腹の音で目を覚ます。


 時間は少し寝坊をした程度の時間帯。

 俺はのそりと起きるとテーブルにしがみつく様にして朝食にと具だくさんの野菜スープを取り出した。


 夜食も取らずに頑張った胃に優しい味だった。


 これでも飲んどきゃ少しは落ち着くだろう。

 そう思いながら啜っていると、ジュリアが悩ましい声をあげ俺を呼ぶ。


「うーん。クロォ、美味しそうな匂いするー」

 俺は頬を緩ませ別のスープを取り出しスプーンですくうと、目を擦りながら眠そうにしているジュリアを待つ。


 パクリとスプーンを加え込むと、コクリと喉を動かし声を漏らすジュリア。

 もっとと言いたそうに口を開けるので、ついついスプーンを動かしてゆく。


 すでに目も覚めたのだろう。

 俺からスープの器を受けとると、スプーンも奪い胃の中に流し込んでいた。

 俺はそれを眺めながら自分のスープを飲み干した。


 俺達が眠りについたのは空が明るくなる少し前だった。


 装備の名を決めその興奮状態のまま2人で頑張ってしまった。

 それもまあ良い思い出、と思いながらも眠気に負けた俺達は、もう一度ベッドに入ると二度寝した。


 新装備はインナーが黒百合之衣、腕輪は薔薇之女王、籠手は閃覚之籠手プレモニションガントレットと命名した。


 全てを装備したジュリアはきっと可憐で美しいだろう。

 そう思いながら俺は昼過ぎまで眠りについてしまった。




「クロ!試し狩りに行こう!」

「もうあまり時間はないぞ?」

「大丈夫だって!ちょっと行ってサクッと狩って戻ってきたらいいんだ!」

「まあその気持ちは分かるが、仕方ない!行ってみるか!」

 待ちきれないジュリアに背中を押され、新装備を着こなしたジュリアをべた褒めしつつ宿を出る。


 迷宮に到着すると2組と思われる冒険者パーティが入り口近くに座り込んでいた。

 嫌な予感を感じつつも昨日と同じように兵士に軽く挨拶を交わし中へと入ろうとするが、予想通りに大声で怒鳴りつけられた。


「おう!どうなってる!」

「そいつらが入れて俺等が入れないのはどう言う事だ!」

「どうせドロップ無しなんて嘘なんだろ!」

「迷宮を独占するのは流石に看過できないな!」

 俺達に向かって唾を飛ばしながら詰め寄ってくるのは4人の前衛職と思われるガタイの良い男達。


 背後には他のメンバーも腕を組んだりしながらこちらを睨みつけている。


「自己責任で入ったらいいんじゃないか?」

 面倒になって言った俺の言葉に、冒険者達は一瞬何を言われたか理解できない様子で口を開けている。


「ま、待って下さいクロ様!それは私達が怒られてしまいます!」

 兵士達は戸惑いながら、昨日話しかけてきた1人が泣きそうな顔でそう言った。


「いいよいいよ。何かあったら俺が許可したって言っておいてくれ……どうせ俺達は28階層だ。こいつらにゃまだ無理だ」

 そう言いながら冒険者達に視線を向ける。


「お前達、死んでも自己責任だからな。伝えたぞ?」

「伝えたぞー」

 俺は睨みつける様にそう言うが、それに合わせてジュリアが馬鹿にしたように付け加え煽っていた。


 ジュリアのそう言うところも好き。


 俺はキュンっとしながらも、入り口をくぐると昨日記録した28階層へ転移した。


「よし行こう!」

 ジュリアは躊躇せず小部屋から出るので、俺も慌てて脳内にマップを作り出した。


 すぐに複数のレッドマークがこちらに迫るように動き出す。

 このキメラ達は何を感知して襲い来るのだろうか?


「ジュリア、もうすぐ2体くる」

「ああ!何となく分かった!スゲーなこれ!」

 そう言いながら左手を覆う閃覚之籠手プレモニションガントレットを見るジュリア。


「てい!」

 そろそろ、というタイミングで灼熱之牙を振り抜くと、二又に分かれた尻尾の斑な毛を持つ黒毛狼(ブラックウルフ)もどきの腹を下から火柱が撃ち抜いた。


 そのまま惰性で向かってきたそれを叩き切る。

 当然の様にドロップは無い。


 そのままくるりと回るように灼熱之牙を横薙ぎにすると、横に分断されたもう1体の黒毛狼(ブラックウルフ)もどきが弾けるように光となって消えた。


「これはヤバイ!凄いぞクロ!俺の為に作られた俺だけの装備!……クロの愛を感じる!」

 俺は喜ぶジュリアの様子に頬が緩む。


「ジュリア、もう少し降りてみるか?」

「そうだな!」

 黒死無双(こくしむそう)を握り締めた俺は、ジュリアの前を歩きだし下への階段まで移動した。


 何度か黒毛狼(ブラックウルフ)もどきに遭遇するが、近場に動きのないレッドマークがあるので寄ってみる。

 3体固まっているその場には赤大鬼(レッドオーガ)が2体の黒毛狼(ブラックウルフ)もどきに喰われていた。


 ジュリアは顔を歪ませ、俺は吐き気を堪えた。

 3体まとめて切り伏せると、オーガの爪のみがドロップする。


 俺はため息をつきながら精神的にきついなと思った。


「このまま別の街に逃げたい気分だ」

「ふふ。だがクロはそうしないのだろう?」

「まあ、そうだな」

 一度知ってしまったのなら、その後に何かあれば目覚めが悪い。


 またも出てしまうため息にげんなりしていると、笑顔のジュリアに頭を撫でられた。

 悔しいので正面から抱きしめる。


「やめろよこんなところで!我慢できなくなるだろ!」

「よし!その一言でジュリア成分が満たされた!」

 俺はパッとジュリアを離し先へと急いだ。


 29階層へ移動しようと階段を降りてゆく。

 そこには多数の魔物達が早く降りてこいと言いたげにこちらを覗いていた。


 集まってきたのは黒毛熊(ブラックベア)黒色大鬼(ブラックオーガ)のもどきだった。

 

「咲き誇れ、<断罪の棘(ジャッジメントローズ)>」

 目の前の魔物達が地面から生えた巨大な棘により串刺しになってゆくのを見ながら、29階層へ足を踏み入れた。


「クロ!今のスゲーかっけーな!」

「そうだろそうだろ!」

 俺のオリジナルの魔法にジュリアが興奮しているが、あまり褒められすぎると恥ずかしくなる。


 ネーミングから効果まで何年もかけて考えたものだ。

 突き出た棘が消える際には黒い薔薇の花びらが舞うというエフェクトまでついている。

 当然大量の魔力を消費する魔法だが、俺に魔力の節約なんて発想は皆無だ。


 なんせ<無限の魔力>なのだから。


 階下に降りると何体かの打ち漏らしをジュリアが華麗にかたずけていた。

 ふんふんと興奮した様子のジュリアに注意を促す。


 注意しとかないとこのまま一人でどっかへ突撃しそうな雰囲気だった。


「さて、この階層も魔物はかなり密集しているようだから、サクっと狩ってしまおうか?」

「おう!」

 ジュリアが灼熱之牙を持つ腕を回しながら駆け出した。


 俺は慌てて追いかけるが、すぐに集まってきたキメラ達に囲まれ、それを返り討ちにしていた。


「ジュリア、どうやらこの階で打ち止めのようだぞ。だが一か所、多分だがそこがゴールだ。時間はまだ少しあるしそこに向かおう!」

「ゴール?分かった!」

 俺は脳内マップに複数の青い点が存在する大きな部屋のような場所を目指した。


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