20.冒険者クロ、顔見知りの女が現れて
ニヤニヤした5人を目の前に、イラっとした俺は取りあえず一人は殴ろうと拳に力を籠める。
「クロが何の用だと聞いてるんだけど?あっ、人間の言葉は理解できないのかな?可哀想にな」
俺より先にジュリアが切れて煽っていた。
「てめー!」
後ろにいた背の低い男がジュリアに殴りかかってくる。
よし今度こそ俺が!と思ったがやはり時すでに遅く、ゴツンという大きな音と共に床に立て組み伏せられている男が苦悶の表情を浮かべていた。
その光景に俺は"痛かろう"と顔を歪ませる。
「おい!女だからって許されると思うなよ!」
「生きてることを後悔させてやるからな!」
ジュリアに凄む男達を見て、どこにでも相手の力量を分からないアホがいるんだなと、この世界に来てから何十回目のテンプレにため息がでる。
「はいはい、死にたくなければ……そこをどけ」
男達に殺気を飛ばす。
4人は怯んで後ずさり、床に寝そべっている男だけはジュリアに向かって悪態をついていた。
次の瞬間、ボキリという嫌な音の後、男の泣き叫ぶ声が響いた。
「ちょっと力入れただけなんだけど?」
「鍛え方が悪かったんじゃないか?」
「そうだな」
そんなことを話しながらひるむ4人を見ていたが、その4人を散らすようにギルドの制服を来た女性がこちらにやってきた。
「何をやってるんだ!」
気の強そうな……豊満なお姉さんだった。
俺は正直タイプです!と一瞬頬を緩めるが、横から伸びたジュリアの手により俺の腹筋は捻りあげられ悶絶した。
「こいつらが絡んできたからこうなった」
若干不機嫌なジュリアにそう言われ困惑するお姉さん。
俺はすかさず立ち上がり、私はこういうものです!と礼儀正しく冒険者カードに魔力を籠め手渡した。
黒く光るカードを一瞬確認すると即座に返される。
「こちらへ」
その一言でお姉さんの後を追うが、そこで4人から文句が飛び出した。
「どこへ行く!」
「ひでーことしやがって!謝れ!」
「慰謝料だ!治療費払え!」
そんな声が聞こえたが、お姉さんが振り返るとその声は止まった。
「剥奪しますよ?」
その一言で男達は下を向いた。
俺はお姉さんを見てニヤニヤし、またも悶絶することになった。
カウンター裏の廊下を抜け、階段を上る。
「俺、お前に一生を捧げて良いか不安になった……」
「いや、俺はジュリア一筋だから!一生愛するから!」
目を細めて俺の言い訳を聞くジュリアの肩には、同じような目をしたリズが乗っていた。
お姉さんはクラウディアと言うようで、一応サブマスターをしている様だ。
「マスター、お客様です!」
クラウディアが部屋をノックした後、おおきな声をドア越しに投げかける。
「アポなしじゃろ?話を聞いておけ!我は忙しい!」
「クロ様です」
クラウディアの返答に室内からガタガタガランゴロンと大きな音がした。
「は、入れ」
その声と共にクラウディアがドアを開け、一礼すると室内の端に移動した。
「久しいの」
「ん?……あー、王都の」
なんとなく見たことあるなと思ったが名前が出てこなかった。
見目の良い顔立ちで淡いグリーンの髪が輝いているその女性、ハイエルフのなんたらさんは額に手をあてため息をついていた。
「アレッサンドラ・デ・ガスパリス」
「そうだ、アレッサだった!」
「我は、王都のアレに嫌気をさしてこの街に来たのじゃが……本当に見た目が変わらんとは……本当にエルフではないのじゃな?」
「いや、人間だって分かってるだろ?精霊憑きだがただの人間。前も教えただろ!」
またため息をつくアレッサンドラ。
「クロ、また違う女が出てきたけど……俺はクロを信じても良いんだよな?」
「ジュ、ジュリア?俺があんなぺったんこ相手にするはずないだろ?」
俺は慌ててジュリアの機嫌を取る。
「<λεπίδα αέρα>」
「うぎゃ!」
俺はアレッサンドラから放たれた何かを掴むが、その左手がずたずたに切り裂かれ血が滲んでいた。
「いててて……<治癒><浄化>」
「真空刃を素手で受け止めるなんて……」
「受け止めなきゃ死んでるだろ!」
口元に手をあて驚いているアレッサンドラに反論して睨む。
隣ではジュリアがアレッサンドラを睨んでいた。
「今のはそなたが悪い!我とてあるのじゃ!ペッタンではないのじゃー!」
驚いていたアレッサンドラは思い出したように怒り始めた。
「あの、マスター、私はこれで……」
クラウディアがそう言って頭を下げ、部屋を出ていった。
「こほん……でじゃ、まずはそこの女。クロの何で、どこまで知ってる」
「俺はクロの女だ!黒霧についてとかは聞いてるぞ!」
ジュリアは得意気に胸を張り答えている。
「左様か。では、クロが我を訪ねてきたということのであれば、近頃の地殻異変について詳しく聞きたい。ということで良いのじゃな?」
俺は首を傾げるしかなかった。
「えっ?」
「ん?」
アレッサンドラも同じように首を傾げる。
「おぬし……たまたまこの街に来たということではあるまいな?」
「そういうこともあるだろう?」
俺の返答に歯をギリギリと噛みしめるアレッサンドラ。
「<ντουέτο με λεπίδα αέρα>」
「<結界>」
真っ赤な顔をしたアレッサンドラが見えない刃を飛ばすので、とっさに結界を張って防ぐ。
「アレッサ!良い加減にしろよ!」
「おぬしが紛らわしいタイミングで来るのが悪いんじゃ!」
フーフー言いながらこちらを睨むアレッサンドラ。
「はー、なんか問題あるのか?言ってみろ。聞いてやらんこともな……いや、やっぱ聞いたなら俺も解決に向けて力を貸そう!だからな、その手は降ろそう。物騒なことはやめような」
アレッサンドラに事情を聞こうとしたが、途中でまた怒り出しそうだったので丁寧に対応してみる。
俺は、椅子に深く腰掛け深呼吸で落ち着こうとしているアレッサンドラを見て、早く帰りたいなと思っていた。
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