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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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19.冒険者クロは転移を練習する


 室内の空気を変えたい俺は、別の話題を提供する。


「そ、そうだナディア!転移(テレポート)、もう一度教えてくれ!」

「クロ様、何度も言ってますが、あれを人族が操るのは多分無理なんだと思いますよ?」

「今ならできるかもしれないだろ!」

「そこまで言うなら……」

 俺の転移(テレポート)は目視で見える場所にしか転移できない。


 だがナディアの使う転移(テレポート)は、俺の良く知る漫画などに出てくる一度行った場所に移動できるやつだった。

 以前も教えてもらったが、俺にはどうしてもうまく使えなかった。


「まずは場所のイメージです。正確に場所を思い浮かべて、その場に人がいるならそれを避けるという強いイメージで……<τηλεμεταφοράς>」

 目の前から消えたナディアの気配が俺の真後ろに感じられた。


「ティエモタポラ!ティエモダポラ!ティエモタポラァ!」

「τηλεμεταφοράς」

「何が違うかさっぱり分からん……」

「τηλεμεταφοράς、私の舌を見て?」

 そう言って口を軽く開け、何度も転移の呪文を口遊むナディア。


 俺はそれをじっくりと観察するが、うーんわからん……

 暫く見ていたが結局正しい発音は分からなかった。

 だが、背後からジュリアの圧がかかっていることだけは分かった。


「仲が良いのですね」

「ジュ、ジュリア?俺はな、これが使えたら、2人の旅も便利だなと思ってな?」

 振り向きながら言い訳をするが、笑顔でこめかみをピクピクさせているジュリアに下半身がキュっとなった。


「τηλεμεταφοράςは自分しか転移できないですよ?」

「おいナディア!」

 余計なことを言うナディアを睨みつける。


「へー。そうなんですね」

 ジュリアからは冷たい声が返ってきた。


「いや、違う!そうじゃない!これを使えれば、もし離れ離れになってもすぐに駆け付けて……」

「行き先が分からなければ意味は無いですけどね」

「おい!いい加減にしろよ!」

 一々痛いところを付いてくるナディアを再度睨みつけるが、ナディアはすでに仲間の男の背後に半身を隠すようにしてこちらに顔を向けていた。


「よし……帰ろう」

「あん!クロ様待って!200年後!200年後に添い遂げましょう!」

「ねーよ!行こうかジュリア」

 俺はジュリアの腰に手を回し、解放されているドアから外へ出た。


 建物の外には、案内をしてくれた男が馬と馬車を用意してくれていた。

 良い感じの普通の馬車だった。


 その男に御者を頼むとジュリアをエスコートして馬車に乗り込み、馬車はゆっくりと街まで移動を開始した。

 深夜ということもあり、2人寄り添いいつの間にか寝てしまっていた。




 明け方、フヴェルゲルミルの簡易な門の前に止まった馬車。

 その外から声がかけられ俺は目を覚ます。


 ぱちりと目を覚ますと、まさに今、リズが俺の鼻に張り付こうとして視線が合った。

 リズはチッと舌打ちをした後、目の前から消えた。


 俺はまだ隣で寝息を立てているジュリアを揺り起こしながら、掌に魔力を集めるとそれにリズが噛り付いた。

 ウマウマと噛り付いているリズに小言を言った後、外に出ると男も交え朝食を食べる。


 男はブルーノと言った。

 短く雑に切りそろえられた青い髪にほっそりとして体形。

 身長はやや小さめで筋肉はなさそうだ。


 ブルーノは最近常闇に入ったばかりで、今回が初仕事だったようだ。

 元々は商人見習いで、数週間前に襲われた商隊の生き残りらしい。

 薄汚れてはいるが少し良い服を着ているのは、商人見習いの時の服をそのまま着続けているのだろう。


「無様に命乞いをしたら殺されはしませんでしたが……まさかこんなことになるとは、人生は儘ならないものですね」

 そう言って力なく笑うブルーノを見て、まあこいつは出頭しなくても良いかな?と思った。


「なあ、このまま俺の雑用でもやって一緒に旅でもするか?」

「えっ、いいのですか?」

「ああ。お前はまだ更生の余地がありそうだ。だが暫くあの街にいる予定だから、従者の様に雑用をやってもらう感じだが……それとも出頭するか?」

「いえ!御傍においてください!なんでもします!」

 目を輝かせながら器用に涙したその姿に、こいつは指示されたら殺しでもやっちゃうぐらい流されやすそうだな、と不安になった。 




「よし行こう!」

 俺達はまた馬車に乗り込み、フヴェルゲルミルの簡易な門から中へと入って行った。


 ブルーノにこの街で一番良い宿を確認するように言いつけると、馬車から降りたブルーノは慣れた様子で情報収集を開始し、何人かに声をかけると数分ほどで戻ってきた。


 俺も一度だけ来たことのある街だったが、正直何も覚えては居なかった。


 その短時間で宿はもちろんギルドなどの場所も確認してきたそうだ。

 俺は自分の目が正しかった事を実感し、うんうんと頷いていた。


 宿に馬車を預け二部屋取る。

 昔、雑に作って無限収納(インベントリ)の肥やしになっていた収納バッグをブルーノに手渡すと、またも目を輝かせ「一生ついてきます兄貴!」とお礼を言われるので、たまにこういうのも良いなと感じる。


 ブルーノに食料の買い出しを頼みジュリアと2人冒険者ギルドに移動する。

 ギルドの中は朝方という事もありそれなりの人数が騒がしく動いていた。


 いつも通りカウンターに向かうが、一番並んでいない列でも10人程並んでいるので少し時間がかかりそうだった。

 もちろん横から直接カードを出せば最優先で取り次いでくれるし、なんならギルマスの部屋を確認して直接出向いても許されるのだが、それをやればまた騒動になってしまう。


 大人しく並んでいると、丁度受付か何かを終えたであろう男がこちらにじろじろと視線を向けている。


 さっさと通り過ぎれば良いのにな。

 そんなことを思ったが、そうやらそれは難しい様で俺の前に立った男の周りには4人程の冒険者が並んでいた。


「何か用か?」

 俺の質問にはニヤニヤした5人から蔑むような笑いが漏れただけであった。


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