16.冒険者クロとジュリア、野宿の夜に
真夜中、俺は満面の笑みでジュリアの横のマットレスに寝ころんだ。
作成で作成したのはベールの様に周りを囲む結界装置だ。
一般的に売られている魔道具のテントは中を少しだけ広く拡張し、魔道具などを入れておく収納バッグの様な物があるが、それは大商人が使うようなものであった。
それも作れないこともないが、素材が足りなさすぎるので無理だった。
かと言って、御者が使っていたであろう"ワンタッチで設置できるただのテント"といった魔道具は作りたくなかった。
悩んだ末に作ったのがこの結界装置で、ベール内を隠し防音も付与済みの空間を生成するもので、手持ちの材料でなんとか2人の周りを囲う程度の物ができた。
もちろん防音も完璧で、結界を破壊するならそれなりの攻撃が必要だ。
その出来に満足している。
だが、すでにジュリアは寝息を立てている。
「今日は我慢して少しでも寝ておくか……」
そう思って近くに設置していたランプを消し、毛布をかぶり目を瞑った。
「おい!起きてくれ!クロ、これなんだ?外に出てもいいのか?おいってば!」
外からうっすらと光が差してきた頃、俺はジュリアに起こされた。
「ん?ああ、周りを囲う結界装置だ。外からは見えないけど、外に出るならそこを開けっぱなしにして……」
ジュリアは顔を真っ赤にして少し汗を掻いているようだ。
「トイレ、か?」
コクコクと頷くので慌てて角に携帯トイレが置ける程度の仕切を作る。
くっ、と声を上げた後、ジュリアはその仕切の裏へと移動した。
携帯トイレは砂袋を入れて使うトレーの上に蓋が付いたものだ。
冒険者はそれを持ち歩き影に隠れて使ったりする。
臭いも吸収してくれるので、使い終わったら袋に包んで持ち歩き、数回は使える必需品であった。
ジュリアも買い出しの際に数個購入し、恥ずかしそうに収納バッグに放り込んでいた。
そんなことを思い出している間に、まだ顔の赤いジュリアが仕切裏から出てくると、隅の方で手から水を出し洗っていた。
「クロ、これってどう言う奴なんだ?」
隣のマットレスに座るジュリアが結界装置について聞いてくる。
俺が説明し終わると、"少ししたら入れてくれ"と言って出口部分のベールを上げて出ていった。
ベールを戻せば完全に入れなくなるはずだ。
少し待ってからベールを上げると、ジュリアが飛び込むように入ってきた。
「凄いなこれ!これなら……いや、なんでもない……」
恥ずかしそうにするジュリアに満足し、もう少しだけ眠ることにした。
ジュリアはマットレスをぴったりくっつけると、隣に寝ころんだ俺の腕を引っ張り腕枕を要求した。
俺の胸に収まるジュリアはすぐに寝息を立てていた。
「ぶほっ!」
俺は息苦しさに吹き出して体を起こす。
リズが鼻を塞ぐようにして抱きついていた。
「もう朝か、一応だがありがとうリズ。もっと優しく起こしてくれたらもっと嬉しいんだがな?」
俺の抗議に一瞬嫌な顔をしたリズはスッと姿を消した。
その後、ジュリアも起こして寄り添いながら軽く朝食を食べる。
食べ終わってから結界装置を無限収納に収納すると、体をほぐしながら荷台付近まで移動した。
乗合馬車は問題無く進む。
2日目の夜も少し離れた場所でお腹を満たした。
結界装置を設置して2人で熱い夜を……と思い立ち上がった俺は、同乗者だった男が広場の結界装置を操作しているのが見えた。
結界は消え、木陰から一斉に男達が雪崩れ込んできた。
結界装置を切った男は初見で分析して確認済みで、青いマーキングだったことで油断をしていた。
男はナイフを取り出しこちらも見ているし、どう見ても盗賊達の仲間なのだろう。
「はあ。折角楽しい夜が過ごせると思ったのに」
「ホントにね」
俺とジュリアはガックリと肩を落とし、周りを取り囲む男達を見ていた。
「ひえー!お助けを!」
騒がしい声にテントから飛び出した御者は、即座に状況を把握し、悲鳴を上げながらテントを手早く仕舞うと馬車に乗り込み夜の闇に消えていった。
この世界の乗合馬車あるあるだ。
危なくなったら真っ先に逃げる。
盗賊たちは残された移動手段の無くなった者達から荷物を奪えばそれでいい。
それがこの世界の一般常識……なんて世界だ!
俺も初めの頃はそう思って叫んだこともあった。
「おいお前達!分かってるよな?」
リーダーなのかは知らないが、スラリと背の高い男が肩に剣を担ぎながらそう言ってニヤニヤと笑う。
事前に発動している索敵にはしっかりと赤いマーキングになっているので、俺が殺っても良い存在だと認識した。
周りでは命乞いをして荷物を前に捧げている者、只々蹲って泣いている者などがいる。
「おいそこの2人!ぼさっとしてないで早く荷物を出せ!……そうそう、女は置いてけよな」
まだニヤニヤしている男は、開いた方の手で俺達を指差しそう命令する。
「ジュリアは見てていいぞ?」
「うん。待ってる」
余裕の笑顔でジュリアは今朝自分のバッグに収納しておいたマットレスを出してポフンと座る。
「<分析>、ターゲットレッド、<千の鎖>」
俺は分析でマーキングを敵のある者へ切り替える。
翳した手からは無数の鎖が出現し、男達を拘束する。
悲鳴が飛び交う中、その鎖をクイっと引くと男達は積み重なるように山となった。
「なんだよお前は!」
先ほどの男が顔だけ出した状態でそう叫ぶ。
他の男達が命乞いを始めたのに中々の胆力だと思った。
「今さっきお前たちが追っ払った乗合馬車の客だけど?」
「そ、そんなことを聞いてるんじゃない!こんな、こんな魔法知らない!」
「そりゃー知らないさ。俺が作ったんだもん」
「ぐっ……なんなんだよお前ー!」
こちらも睨みつける男に、もういいかな?と思って手を翳す。
さて後はいつもの様に身勝手な人殺しと分別して……
そんなことを考えていた。
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