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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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14.冒険者クロ、注目される苦難に遭遇する


 訓練場で向かい合う3人。

 目の前の2人はかなりイラついているようで、鼻息を荒くしてこちらを睨んでいる。


「怪我して泣くなよ!<硬化(タフネス)>」

 ロレンツォがそう言った直後、盾で体を覆うようにして突進してくる。


 このまま殴り倒しても良さそうだが、備品を壊すなと言われているのでヒラリと躱す。

 だが、ロレンツォの横をすり抜ける様に避けた俺の体を目掛け、大剣がグルンと弧を描いて迫って来ている。


「うわっと!」

 ちょっと気を抜きすぎだなと反省し、腰を引いて大剣を躱す。


 がら空きの背中を殴っておこうとしたが、そこに石礫が飛んできたのでさらにその場から飛び退いた。

 身体強化で聴力も上げているのでエリンコの小声での詠唱が聞こえてはいたが、それなりに飛来速度が速く、経験を積んだ魔導士だと言うのが分かる。


「アイツ、結構すばしっこいぞ!」

「ああ。正直舐めてたが、真面目にやらないと恥をかきそうだな」

 警戒した様子で話す2人。


「大地の怒りを知れ!<石の雨(ストーンレイン)>」

 エリンコの詠唱に呼応して地面が盛り上がり俺に向かって無数の石礫が飛んでくる。


「<風の壁(ウィンドウォール)>」

 俺は下から吹き上げる風の壁でその石礫をそのままはじき返す。


 威力を失った石礫は巻き上げられエリンコの頭上にパラパラと降り注ぎ、エリンコは悲鳴を上げながら頭を抱えうずくまっている。

 それは、石の雨(ストーンレイン)に追随してこちらに向かってきていたロレンツォにも振り注ぎ、あわわと戸惑いながら盾を上に構え小さくなっていた。


 俺は石の雨が止んだのを見計らいそんな2人の首筋をトンと軽く叩いて回る。

 そして元の位置にゆっくりと歩いて戻る。

 首筋を叩かれ息を詰まらせ唸る2人は、何が起こったのかと不思議そうな視線をこちらに向けるが、やや暫くして状況を理解したようで顔を下げた。


「この勝負、クロの勝利でいいな!」

 無責任なダミアーノの一言に、野次馬の歓声が聞こえ、ジュリアがこちらに走ってきたと思ったら、飛びつく様に抱き着いてきた。


「ぐへっ!」

 抱きつかれた俺は、息を詰まらせ無様に呻き地面に倒された。


「勝者、ジュリア!」

「なんでだよ!」

 ダミアーノの余計な宣言に突っ込む俺は、これでまた平穏な日常に……戻れるわけがないなとため息をついた。



「「すまなかった」」


 声を揃えて謝るロレンツォとエリンコ。

 俺はいいのだが、さっきからジュリアがふんぞり返り過ぎて後ろに倒れそうだ。


「ジュリア、その辺にしておこう?」

「いーや、もっと深く頭を下げて!クロにひれ伏さないと!」

 そんなジュリアに2人は体を小さくして無言を貫いている。


 肩がぷるぷるしてるのでまた面倒になりそうで不安である。


「俺が悪かった……」

「ああ、俺も2人になって少し稼ぎが落ちてきてたから……イライラしてしまったのもある」

 小さい声ながらそう答える2人が少し可哀そうに見えた。


 良い年の男が野次馬に囲まれる中で繰り広げられる今の状況に、虐めているような心苦しさを感じ、早く終わってほしいなと願いを籠めて口を挟む。


「なあジュリア、もういいだろ?それか、場所を変えるか?さすがにここじゃちょっと可哀想だろ?」

 俺の言葉に2人がバッと顔を上げる。


「ク、クロさんの言う通りです!」

「そうですよジュリア!クロさんのお言葉通りにしましょ?」

 変わり身の早い2人を見て若干の恐怖を感じてしまう。


「そうだな!お前達もクロの良さが分かっただろ!」

 うんうんと頷く2人に満足気に目を細めるジュリア。


「よし!今日はお開きということで!」

「そうだな!そうしよう!」

 これで帰れる。そう思っていた俺はまた甘かったのだと実感する。


「なあ!お前強いんだな!俺達とも組まねーか?」

「なんだよ!抜け駆けすんな!俺達はお前達ともうまくやれると思うぞ!」

「何よ!私達、良い関係を築けると思うの!良いでしょ?」


 ジワジワと距離を詰めてくる他の冒険者達に戸惑う。

 もちろんこういった事は今まで何度も経験している。


 今まではサクッと逃げてしまっていたが、今はジュリアがいるので簡単にどっかへ逃げるという訳にはいかないなと思い戸惑っていた。


「クロは俺のだ!他の誰ともつるむ気はない!そうだよなクロ!」

 俺の横に立ち、そう言うジュリアが俺に同意を求めてくる。


「あ、うん。そうだな」

 そう言う俺の言葉に満足して周りを見回すジュリア。


 栗色の髪をした女性冒険者がチラっと装備の肩口を緩めチラリする。

 思わずそこに目を向け頬を緩ませると、その緩んだ口は横から出てきた手でギュッと摘ままれた。


「クロ?どこ見てるんだ?」

 肩でぷるぷる震わせた笑顔のジュリアを見て、俺、悪くない!と思った。


「いや、男だから仕方が……違うな、そうだ!あの子の肩口の装備が、急に緩んだみたいだから、えーっと、寒くないかなって俺は心配しただけで……」

「ほう?」

「……ごめんなさい」

「何か謝るようなことでも?」

 あれ?そうだったんだね!の流れではない?


「そうだ!ジュリア、早く宿に帰ってイチャつこう!」

 開き直った俺は、ジュリアの頬に手を添え微笑んでみる。


 口元をぎゅむっとつままれている事を気にしている余裕はもうない。

 不格好でも口角に力を籠めてギギギと笑って見せる。


「ぶふっ!クロの顔、面白くなってるぞ!」

「じゃあ、その手を離してもらっても?」

 ジュリアは手を離し両手で顔を押さえてクククと笑っていた。


 俺は、何とか難を逃れることに成功したようで、そそくさと宿まで戻り部屋でジュリアと甘く美味しい夕食を堪能した。


 冒険者ギルドを出る時に、女性冒険者数名がこちらに肌をさらしてウッフンポーズをしていたのがチラリと……本当に一瞬だけ目に入ったが、俺はそれを鉄の意思で振り切ってジュリアの手を引き連れ出したことが今回の勝因と言えよう。


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