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[完結]世界で唯一の精霊憑きの青年は、自由気ままに放浪する  作者: 安ころもっち
第一章

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10.冒険者ジュリア、クロとの未来を思い描く


翌朝、久しぶりに多幸感を感じながら目を覚ます。


隣ではまだジュリアが寝息を立てている。

俺は、起こさないようにそっとベッドを降りると朝の支度を始めたが、ジュリアはすぐに目を覚ましてしまった。


「おはようジュリア。起こしちゃったな」

「いや、寝すぎたぐらいだな」

「今日は休みにしようと思ってるから、ゆっくり寝てていいぞ?」

「だ、大丈夫だ。あの程度の……クロ、少し手加減というものをだな?」

 布団を体に巻き付けるようにしているジュリアが顔を赤くする。


「そりゃ、俺も久しぶりだったし?」

「そう、か……」


 気まずい。

 忘れかけていた事後の気まずさをどうしたら良いのかと考える。


 付き合い初めなら朝からキャハハウフフとくんずほぐれつしたら良いのだろうか?

 いや、ジュリアはそう言ったタイプではないはずだ。

 恥じらいを持ってぎこちなく過ごし、少しづつ慣れてくるタイプだろう。


 経験不足な分野ということも忘れ、そんなことを自分勝手に分析している俺の顔に、何かがぶつかり「うぉっ」と声が出た。

 それはジュリアが投げつけた枕だという事に気付き、ひょっとして嫌われてしまったのだろうか?と悲しくなった。


「クロ、顔でも洗ってきてくれ……そこにいたら、着替えづらい……」

「あ、そうだな。うん。そうか」

 俺は嫌われたわけでは無い事を理解し、枕を投げ返して洗面所に移動する。


 ジュリアはまだ起きたばかりだからつまりは着衣が必要だという事だ。

 だが待てよ?それなら風呂で体を綺麗にしてから……


 そう思って振り返るとまた枕が投げつけられ、それを顔の前でキャッチした。

 俺は枕で顔を隠したまま声をかける。


「ジュリア、シャワーでも浴びたらどうだ?」

「そうだな。よし!クロはそのままで動くなよ?」

 ジュリアの返事の後、ドタバタと音がして俺の横を何かが通り抜け……バスルームの方からバタンとドアが閉まる音がした。


 よし俺も!と枕をベッド上に投げ、バスルームへ向かう。

 だが、ドアを開けようとするとドアノブのレバーがガチャガチャと音を鳴らすだけに終わり、何度かジュリアに声をかけてみるが結局そのドアが開くことは無かった。

 どうやらまだ一緒にお風呂、と言うイベントは発生しないようだ。


 それから10分程度後、ようやく支度を終えたジュリアがバスタオルに包まれ出てきたので、入れ替わるようにしてシャワーを浴びた。


 その後、ルームサービスで大量の朝食を頼み、部屋で雑談しながらお腹を満たした。

 ここの飯はやっぱり旨い!そう言いながら一部を無限収納(インベントリ)に収納した。



「なあ、ちょっといいか?」

「ん?なんだ改まって」

 食事を終えた後、真剣な表情をしているジュリアにそう言われ、ほんの少しだけ身構えてしまう。


「少し考えたんだが……」


 そう言ってジュリアが話し始めたのは、少し先の未来についてだった。


 ジュリアは現在25才。

 冒険者として活動できるのは頑張っても後30年程度だろう。

 だが俺は違うのだろう?と……


「その時……俺は、どうしたら良い?」

 ジュリアが不安そうな顔で俺に聞く。


「大丈夫、俺は、お前がその生涯を終えるまで傍にいる。もちろんお前が俺を嫌いにならなければだが?」

「嫌いになったりしない!だけど、俺はどんどん老いて、おばーちゃんになるだろ?そしたらクロは、俺と一緒に退屈な老後を送ることになるじゃねーか?」

 泣きそうなジュリアの頭を撫でる。


「長く生きた俺に2、30年まったり過ごすなんて些細なことだ。俺は、お前がいてくれればそれで良い。ちゃんと最後を看取ってやる……

 まあ、看取った後はお前を思って暫く泣き暮らすだろうがな」

「泣き暮らすって……嬉しいじゃねーか……」

 寒いジョークで返してみたが、どうやらお気に召したようだ。


 ジュリアが俺に体を預けてくる。

 またベッドに連れ込もうか迷ってしまう。


「俺に嫌気がさしたら言ってくれ。俺は男と付き合った経験もない。何かあれば、いつでも捨ててくれて構わないからな」

 顔だけ上げてそう言うジュリア。


「俺がジュリアを嫌になることは無いけどな」

 そう言いながら、俺は甘えん坊になったジュリアを撫で続けていた。


 俺は、過去にあった愛しかった者を思い出す。


――― あなたはなんで一緒に老いてくれないの!

――― このままじゃ、私がどんどん惨めになるじゃない!

――― こんな思いをするなら、クロと出会うんじゃなかった……

――― もういっそ、殺してよ……


 愛しかった者はそう言って泣いた翌日、部屋の片隅で自死していた……


 今度は大丈夫だ。

 大丈夫なはずだ。

 そう自分に言い聞かせながら、幸せそうな顔をして俺に体を寄せるジュリアを撫で続けた。




 昼食後、明日からの迷宮探索について話し合いを始めた俺達。


「なあ、クロはどこまでならいけそう?」

「ここの迷宮はあまり入ったこと無いが、王都の中央迷宮は何度も攻略しているぞ?」

 ジュリアはドン引きしていた。


 王都の中央迷宮はこの街の迷宮とは比べ物にならないぐらい深く攻略は難しいと言うが、俺にとってはあまり差違を感じられない程度だ。

 もちろん分析(アナライズ)で確認すればその差は歴然なのだろうが……


「じゃあ、とりあえず行けるとこまで行ってみようか?」

「そうだな、だがジュリアの力量に合わせた階層までにしないか?俺は補助に徹する感じで」

「ああ、分かった」

 俺一人が無双して迷宮を進むのは味気ない。


 金を稼ぐだけなら他にいくらでも方法はあるからな。


「じゃあ、まずは装備だな……<無限収納(インベントリ)>」

 そう言って俺は無限収納(インベントリ)からいくつかの素材を取り出した。


 そして、1人ブツブツと言いながら作成(クリエイト)を使って彼是と作り始めた。


『またムダ使い』

「リズ、これはジュリアに必要な装備だ。無駄じゃない」

『ふーん』

 いつの間にか胡坐をかいた俺の膝に乗っていたリズに話しかけながらジュリアに似合いそうなマントなどを作成してゆく。


「クロ?今、誰と話してる?独り言ってわけじゃないよな?」

「へ?」

 ジュリアの言葉にようやく気付く。


 リズの事すら話していなかったことを……


「あー、リズ?ジュリアにも見えるようにできる?」

『たやすい』


 リズが小さく光った後、ジュリアが驚きの声をあげる。


「なんだそれ!妖精?」

『失礼な女』

 妖精と言われたリズは腰に手をあて怒った様にそう言うが、相変わらずの無表情だった。


「リズは精霊だ」

「精霊?」

『そうだ。リズは精霊。女、リズと契約して無限の力を獲ないか?』

 リズはそう言って右手を前に突き出した。


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