01.精霊憑きと呼ばれる唯一人の存在
このアストランという世界には、精霊について3つの言い伝えがある。
1.精霊は、自然豊かな場所にひっそりと存在する。
2.精霊と契約した者は、体内の魔力を吸われ瞬く間に衰弱死する。
3.精霊と契約した者は、あらゆる魔法を十全に操ることができる。
誰が言い出したかは知らないが、上の二つは真実だ。
だが、最後の3つ目の真偽は誰も知らない。
そんな精霊についてプロフェッショナルな俺から言わせれば、3つとも真実だ。
そして俺は、4つ目も知っている。
精霊と契約した者は、永遠の命を獲ることになる。
という真実を……
◆◇◆◇◆
王国から南東にある辺境の街エーリュ。
「懐かしいな」
俺は独り言を言いながら街並みを見ていた。
「兄ちゃん、旅の者かい?」
「ああ」
街の入り口では門番であろうラフな鎧を着こんだ男が立っており、声を掛けられる。
「ずいぶん若く見えるけど?」
「18だ」
「そうか。で、こんな辺鄙な街に何しに?」
「ちょっと観光?ふらりと寄っただけさ」
「そうかい。まあ、迷宮以外は何もないとこだけどゆっくりしていきなよ。まっ、冒険者には見えんから迷宮以外でな」
「はは」
俺は軽く愛想笑いをしてその場を後に……
「あっ、兄ちゃん!東の洞窟付近には近づくなよ?盗賊が徒党を組んで根城にしてるから、付近は最近ちょっと物騒だから気を付けな」
「そうなんですね。気を付けます」
俺は今度こそその愛想の良いおじさんと別れ……東に向かった。
話に聞いた通り東には洞窟があった。
盗賊か……
そう言えば以前来た時も、この洞窟は同じように盗賊のアジトになってたな……こんな縁起の悪い洞窟、ぶっ壊してしまえばいいのに。
そう思いつつも、俺は無警戒に入り口に近づいた。
とりあえず周りに人の気配を感じないな。
「<索敵>」
ぼそっと呟き魔法を発動し、洞窟内の構造が脳内に描かれる。
「こんなに広かったっけな?<分析>」
依然と比べて……と思ったがあまり覚えていないので何となく広くなっていると感じただけの俺。
索敵で脳内に描かれている洞窟内の構造の誰かを示すマークが、悪意を持って人を殺したことの有無で赤と青で綺麗に選別されてゆく。
これが分析の効果だが、便利すぎて面白みに欠けるなといつも感じてしまう。
「<眠れ>」
入り口から右手を内部に向けてかざすと、キラキラと光る鱗粉のような何かが内部にスッと溶け込むように入ってゆく。
少し待ってから中へと入り、地面に倒れている盗賊と思われる男達を見下ろす。
俺は、分析のマークを頼りに、倒れている男達の首筋を短剣で次々に突き刺してゆく。
盗賊と思われる姿の青いマークもいくつかあったので、そいつらは放置しておく。
迷宮産の無限の短剣(毒)。
ざっくりと突き刺せばほぼ必中の毒が付与され、数分で全身に毒が廻りその命を刈り取る優れものだ。
無限シリーズは他に麻痺、氷が無限収納に入っているが、特に使い道は無い。
「あらら。結構ため込んだもんだ。<無限収納>」
途中で保管所のような場所があったので全部収納しておいた。
「ここが最後かな」
俺は最後の部屋を覗き込み顔を歪ませる。
「ひどい有様だ……<断裂>」
広めの空洞の中には、鎖につながれた女達。
俺は3人の女性の足の鎖を断裂で切断し、そして、5人の女性の亡骸に手を合わせた後、彼女達を無限収納に収納した。
「<浮遊>」
俺は、眠りについている3人の女性達を浮かせ、洞窟の外へ運び出した。
「リズ」
『なーに?』
「この子達の嫌な記憶を消してくれ。あと、妊娠してるなら堕胎を頼む」
『りょ』
いつの間にか俺の肩に留まっている白いドレスを来た少女。
リズの方がこういった事は得意だ。
俺はどうしても女性相手だと照れてしまい、精密な操作ができない場合がある。
特に精神を扱う魔法を使うには危険を伴うのでリズに丸投げが一番だ。
そんなリズはれっき歴とした精霊だ。
しかもかなり高位の精霊様だ。
『終わた』
「ありがとう」
リズの頬を指でなでると気持ちよさそうな顔をする。
『また呼んで』
リズはそう言って目の前から消えた。
背後に眠る女性を浮かしながらのんびりと待ちへと戻る。
冒険者ギルドへ着くころには俺の周りには人だかりができていた。
ギルド内に入っても俺の前に立つ冒険者がいた。
「おい!お前は何なんだ!なぜ女達をそんな風に浮かせている!」
「カウンターに行くので、どいてくれます?」
ここに来るまで色々声を掛けてくる奴らが多かったが、そう言った感じで説明を後回しにしていた。
何人か怒り狂って殴りかかってくる奴もいたが、優しく放り投げて軽く睨みつけると大人しくなったくれた。
怪我しない様、細心の注意を払っている俺に感謝してほしい。
ギルドの受付を見ると、若いお姉さんが驚いた顔で固まっている。
さて、どうしたものか。
冒険者カードを出してみる。
俺の持つ何も書かれていない真っ黒なカードだ。
お姉さんは不信気にカードを確認する。
「あのー、これは?」
そう言われたのでしっかりと行き届いた情報伝達が成されていないことにため息をつく。
「ごめんね。ギルマス出してくれる?そのカード持ってっていいから」
「はぁ?」
「いいから早く。後ろの状況、早く何とかしたいでしょ?」
「分かりました、けど、伝えるだけですよ?」
そう言ってお姉さんは奥へと入って行った。
数分後、バタバタと走ってくるハゲたおじさんが、受付の魔道具にカードを通して操作した後、俺の前で土下座した。
カードを俺に手渡すとギルマスに部屋へ案内されるので、浮遊で浮かせていた女性達をそっと降ろした。
「後はよろしく。何人か手伝ってやって」
目を丸くしているお姉さんと、後でソワソワしている女性冒険者達にも声をかけておいた。
ギルマスの部屋に案内され事情を話す。
「来て早々なんだけどさ、東の洞窟の盗賊共やってきた。盗賊達は中に放置してあるから後かたずけをお願いしても良いかな?何人かは人は殺してないみたいだから眠らせただけで放置したけどさ」
「なっ……分かった」
ギルマスが一瞬ソファを立つが、すぐに座り直した。
「ついでに洞窟つぶしといたら?昔もあそこで盗賊たむろってたでしょ?」
「あ、ああ。洞窟つぶす件も検討する。それでよ、念の為に聞くんだが、冒険者クロ、黒霧でいいんだよな?」
「そう呼ばれてるようだな俺は」
「そうか」
「そうだ。洞窟内には戦利品いっぱいだったから回収してきた。どこに出せばいい?」
「こっちだ」
洞窟内にあった品々を出す為、倉庫へと案内された。
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