04/19 ①
ふと目が覚めると窓から陽射しが差し込んできていて部屋の中が明るくなっていた。ゆっくりと体を起こし窓の方を見るとメイドたちの動く影が見え、かすかに人の話し声や歩く音が聞こえてくる。
その声に耳を傾けながら伸びをしてそのままベッドの上でぼんやりしているとドアの方からノックの音と
「お嬢様、入りますよ!」
という朝という時間の割になんとも元気のいい声が聞こえた。
続いて私がどうぞと返事をする前にさっさとドアは開かれ、その奥から制服の黒いスカートを翻しながら一人の女性が入ってきた。栗色の髪を頭の後ろでぴっちりひとまとめにしていかにも仕事人、というようなオーラを身にまとっている彼女こそ、昔から私のお世話係をしてくれているメイドのアンナである。
「もうお嬢様だけですよまだ寝ているのは!ほらさっさと起きて!」
今日顔を合わせて第一声はお小言だった。
「まだそんな時間じゃないでしょ…。」
寝起きでまだ覚醒しきっていない頭で言い返そうとしたが「ぐずぐず言わないの!もう!」と十倍で返され、一喝されてしまった。
いかんせんアンナは私のことを小さい頃か見ているせいで未だに私のことを子ども扱いしている節があって最早メイドと令嬢というより母親と娘のようになっている。
怒られてむすっとしながらそっぽを向いていたが、アンナの方から物音がするのでそちらを横目に見るとてきぱきとティーセット一式を広げていた。
その中からカップを右手に取り、更にエプロンのポケットからスプーンの先っぽくらいの大きさをした丸いオレンジ色の石を取り出したかと思うとその二つをこつん、と軽くぶつける。するとその石はカップに当たると同時にほんのり発光し、数秒後その光は消えた。
その光を見届けるとアンナは満足げににまっと笑いながら紅茶を注ぎ、そっぽを向いている私の目の前にずいと差し出した。
「ほら、紅茶を入れましたよ。」
勢いに押されて受け取ったカップは暖かく、じんわりと熱が手のひらを通して伝わってきた。こうしてアンナの入れたお茶を飲むのが毎朝の習慣になっている。この一杯を飲んでこそ、目が覚めるというものだ。