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第九話  護国の王

 ◇◇◇◇

 護国の王

 □○○□


 神玉しんぎょく


 それはてのひらに収まるほどの団子である。金の粉がまぶしてあり、今台座の上に置かれたそれは、陽の光を跳ね返して輝いている。


 場はオグ国国王が開く御前会議。

 国王は庭園に面して開かれた部屋にある御簾みすの裏側。

 庭園は白砂が敷き詰められている。その中央に朱く上等な五畳ほどもある布がひかれ、そこにうやうやしく置かれた台座の上にだんごはあった。


 その団子から距離を置くように会議参加者がコの字に居並ぶ中、一人、団子の前にあぐらで座る若者がいた。この者は王弟だ。


 これは団子を賭した御前会議である。






 神玉を一つ食べると郷を統べる。


 神玉を二つ食べると国を統べる。


 神玉を三つ食べると護国を統べる。


 護国とは、御山を中心に広がる五つの国をまとめて呼ぶときの通称だ。護国とは即ち五国。その外は砂漠または海または山に隔てられ、辺境の地とされた。


 護国は長らく戦乱の時代を余儀なくされていたが、それを統べることができたのが護王である。元の名は大成たいせい

 彼は御山の頂きに住まうとされる御鹿神様より神玉をまさに三つ授かりそのすべてを食べ、護国統一の力を得た。神力を授かったのだ。


 その故事になぞらえ後の人々も御山で神玉――つまり神様だんごを手に入れ、自らも力を得よう、……王になろうとするようになった。


 一つ食べるのは存外容易(たやす)かった。


 御山に登る人は多く、道はやがて人々の足によってならされ、山に満ちる神力に耐えられる程の輪力を持ち合わせる者であれば、登頂する者は多くはないものの珍しいというほどではない。

 登頂した者の中で運が良ければ、団子に巡り会えた。仮面稚児が現れてからは団子が用意されている頻度も上がった。


 しかし、二つ食べるのは難しかった。


 山に住まう浮き者ーー地に足をつけない生き物たちも、神力を取り込みたがった。そのため、団子によって神力をその身に宿した者は、浮き者たちがむらがってくるようになる。その様子は山に嫌われたと表現される。


 それでも輪力を練り上げ、神力をも自らのものとし、何とか二度目の登頂を成し遂げる者も、いないではなかった。そこまでして登った者であるため、団子が出るまで山頂で耐え忍び、数人が二つ目を食べることを成し遂げた。


 三つ食べたのは護王のみとされる。


 彼は三度登ったのではなく、ひとたびに三つ振る舞われたので、特殊な場合ではあったが。


 それが、護国に伝わる国の始まりの伝説。この伝説にあやかり、人々は団子を求めた。


 一番団子を手にすることが多かったのは仙下人せんげにん――墨教における最高位の人間。彼らは自己研鑽をつみ、輪力を独力で極限まで高めることで神力の満ちる御山を登る力を得た。

 そして一途な信仰心によりそびえる壁のような山を登りきった。


 信仰に篤い彼らは、しかし二つ目の団子を食べることを嫌った。御山に嫌われることを恐れたのだ。彼らにとって参拝が二度とできなくなることほど恐ろしいことはない。


 そして得た団子は、振る舞い団子として地元に持ち帰られることとなった。その団子を食べるのは同塾のものと考えられていたが、それはやがてそう時を経ずして権力者が食べる流れとなる。


 食べるだけで国を治める団子。


 その神聖なる食べ物が生むのは、争い。


 今御前に置かれた団子は、オグの国の統治者――オグ国国王によってめつけられるように見つめられていた。それを同じように見つめるのは、国王の弟。


「兄上。あなたはもう二つ団子を食べているではありませんか。私はまだ一つです。ここは私が団子を食べることで、共に国を統治しオグの地の護りを強固にするのです」


「何を言う。オグの地は私の輪力と神力でしかと守られておる。それよりもようやく護国を統べる力を得ることができるのだ。この機会を逃すわけにはいかない」


 つまり、一つしかだんごを食べていない弟とすでに二つ食べた兄。次はどちらが食べるべきかで争っているのである。


「護国王はすでに隣国のアグ国王がなっています。新たに兄上が護国王に名乗りを上げるということは、争いを招くということ」


「いや、アグ国王はすでに五十余年も護国を統治しておる。そろそろ次代を担う者が必要なのは自明の理」


 お互いに正論と思われる言葉を述べているが、その視線の端はしっかりとだんごを捉えている。


「一つしかないこの貴重な団子だ。仲良く二人で分けることもできない。それでは半端な力しか得られないと伝え聞く。我が食して護国王となり、弟のお前は我らが故郷のオグの郷を守ればいい」


 アグの王はそう笑う。


 一つしかない、大切な団子。手のひらに乗るほどのこの小さなだんごが世界を変えるほど大きな力を及ぼすのだ。集まった人間は皆真剣に王と王弟のやり取りを見守っていた。


 ふいに、天から、いや屋根の上から何かが落ちてくる。神聖な団子に大事があってはならないと護衛が動く暇もなく、団子に、全く同じ形の団子が降ってきた。


 ひとつしかない大切なだんごが、ふたつ……?


 皆がそう思って不思議に見つめている中、立て続けに三つ四つとだんごが降り注ぐ。


 次いで、()()()おちてきた。

登場人物紹介

オグ国の国王……野心家。愛国心が強い。弟のことは大事に思っている。

オグ国の王弟……行動力がある。民に慕われている。

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