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第七話 坊主と塁君

 △△△△△

 坊主と塁君

 □□□□□


 三日待ったけれど、入山門は開けてもらえなかったし、帰る方法も思いつかなかった僕は、あきらめることにした。


 いままでも突然寝床がなくなることはよくあった。


 門の前に座っていると優しい人が食べるものとかをくれたりする。けれど、ここで待っているのもつまらない。

 入山門前の広場にはたくさんの人がいた。ふとその中にスズに似たような人影を見る。やることもないし行くあてもないから、追いかけてみることにした。






 せっかくスズを見つけたかと思ったのに、途中から駕籠かごに乗り始めてしまって追いつけなくなってしまった。これだとスズにも会えないし、かといって御山に戻ってもどうすることもできない。


 とりあえずまっすぐ進めばいつかスズに会えるかもしれない。そう思い前を向く。


「なんかこの道汚いなあ」


 御鹿様のお寺が綺麗だったのに慣れてしまって、道が葉っぱや小石だらけだったのがとても気になった。

 ここはちゃんと掃除しないと害蟲がたくさん寄ってきてしまう。御鹿様とは離れてしまったけれど、やっぱり掃除が僕の仕事だと思うから、道を掃除しながらまっすぐ進むことにした。


 やがて日が暮れ、眠ることにした。


 いろいろな人からもらった食べ物はもうなくなってしまっていて、お腹がクーと鳴る。手持ちの団子はなくなってしまっているので、空腹を忘れようと、さっさと寝床の準備をした。

 準備と言っても小さめな樹木の近くの地面をならして横になるだけ。御鹿様がくれた立派な帯飾りを外して、その帯飾りは箱みたいになっているから枕にした。


「なんかこの箱、いいにおいがする」


 御鹿様のお団子みたいな。そう思ってクンクンにおいをかぎ、箱を開けてみると、やっぱりお団子が入っていた。


「御鹿様のお弁当だ!」


 僕のことを心配して、御山で迷子になった時用にお団子を隠して持たせてくれていたのだ。数えると、縦に三個、横に三個並んでいた。


「えっと、いち、に……きっと七個かな」


 お団子と一緒にお札の束も入っていた。


「これはきっと、箱の元々の持ち主の忘れ物だろう」


 僕はそう思う。なぜなら、御鹿様はあまりお札には興味なさそうだから。そして僕が着ているものはほとんどが登山者が置いて行った服。この帯飾りも忘れ物。


「お札があってよかった! これは便利なんだ。お皿にもなるし、お便所行くときも便利」


 嬉しくなって、お札を抱えながら、お団子が入ったお弁当箱を枕にして眠った。


「お団子は起きてから食べよう」


 明日は楽しみがある! そう考えて幸せな気持ちで眠ることができた。






「ねえねえ、君。こんなところで寝ていてはだめよ。獣に襲われてしまうよ」


 朝、誰かの声で起こされた。昔のお寺のお兄さん坊主たちに起こされたことを思い出す。


 目をこすって重たいまぶたを何とか開けて声の主を見ると、僕よりも大きな男の子が。心配そうに眉を八の字にして、かがんで僕の肩をそっとゆすっていた。


「君だあれ?」


「僕はるいだよ。君こそ誰なの? こんなところで」


「僕? 僕は僕だよ」


「名前は?」


「う~ん。オチビとか、坊主ってよばれてるよ」


「それは名前じゃないよ」


 塁と名乗った男の子はそう言って笑うけれど、僕は僕の名前を知らない。お父とお母がなんか呼んでいたこともあった気がするけど、昔過ぎて覚えていない。僕が困っていたら、塁も困った顔になった。


「まあ、いいよ。おチビちゃんって呼ばせてもらうね。僕はこれから御山に登るつもりだったんだ。おチビちゃんの親はどこ? 連れて行ってあげるよ」


「おや? お父とお母のこと? いないよ」


「……いない? 誰かおチビちゃんを世話してくれてた人は?」


御鹿様おしさまだよ」


「御師様? お師匠様がいるの?」


「ちがうちがう、お、し、か、様!御鹿様おしさま!」


「おチビちゃん言えてないよ? 御鹿様か~。御山には御鹿神様がいらっしゃると聞くけど、熱心な信徒は鹿のお面をつけるのかな? さすが御山周辺地だね」


「ちがうよ! 御鹿様は耳もちゃんとピコピコ動くし、お面じゃないよ」


「そうなのか。すごいね」


 きっとこれは信じていない顔だ。塁は僕の話を全部は信じてくれなかったけれど、大体は聞いてくれるし優しいから、一緒について行こうと思った。


「じゃあ、おチビちゃんの御鹿の師匠はどこにいるの?」


「御山のてっぺん!」


 そういうと、塁は門番と同じ顔をした。てっぺんにはいないと思うよと塁は言うけれど、いるのだと何度か言うと半分信じてくれた。


「とりあえずおチビちゃんの目的地も御山か。でも、さすがに僕がおチビちゃんを連れて御山に登れるとは思えない」


 道端に腰を下ろして塁が話してくれたのは、彼が集落の期待を背負って御山登頂に挑みに来たのだということ。

 彼は輪力とやらが強くて、一人ならいいところまで行けるだろうと考えていたこと。

 でも、自分より小さな子を連れての登山は無理があるということを丁寧に教えてくれた。

 道も半ば以上来たところだったのだという。


「……。よし、決めた。ここからおチビちゃんを何の準備もなしに御山に連れて行くわけにはいかない。せっかく自力でここまで来れたのに残念だけど、集落に戻ることにするよ。そこでおチビちゃんを連れていけそうな人のいる塾に任せるところまでは面倒を見てあげる」


 なんだかとても悪いことをしている気がしたけれど、塁は『これもきっと神のお導きなのだろう』と言っていた。


 こうして、塁君は御山詣でを諦めて、僕を彼の家まで送り返してくれることになった。

 塁君は物知りで、いろいろなことを教えてもらいながら進む道中はとても楽しかった。

登場人物紹介

塁君……努力家。

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