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第四話 悪人の話

 △△△△

 悪人の話

 ■■■■


 アクラおじいちゃんとスズ君という男の子が参拝に来てから数日後。おもてなしをしようとしたのにすっごく『恐縮』されてしまったけど、スズ君と少し話せたのはいい思い出。


 すぐ下山してしまった二人にまた会えないかなと思いながら、僕がいつものように山巡りをしていると、山の中腹、本道とは逸れたところに転んで動けなくなっている登山者を見つけた。


「どうしたのですか?」


 近寄ると、その人はのっそりと顔を上げた。


「ああ、よかった。道に迷って動けなくなってしまっているところだったのです」


「そうなのですか。それでは途中までお手伝いしましょう」


 登山者はとても大変な修行をしてからこの山に登ってきているのだとスズ君が言っていた。なので、できるだけ丁寧な言い方で話をした。

 でも僕も忙しいから、下までは行けない。だって今日はまだお団子を作っていないから。


「ここらへんでもう大丈夫ですか? この先は道がなだらかです。白い木がたっているところは気の流れというのが穏やからしくて歩きやすいそうです。一人で進めると思います。僕はもう帰りますね」


「いや、あと少しだけ頼みます。足首が痛むのです」


 そこから何度も、そろそろ帰りたいと伝えたのに、この登山者はあと少し、あと少しとどこまでも手伝わせてくる。


「そろそろ帰らなきゃ御鹿様おしさまが困ってしまいます」


「いやいや、あと少しなのです。人がいるところまで一緒にいけたら、それだけで助かるのです。()()()にはあとで説明をしてお礼を伝えましょう」


 今までお山に登ってきた人たちと比べて、この人の笑顔はなんだかニヤニヤしていて嫌な気持ちになる。それでも人助けは大切だと、付き添ってあげる。

 話し方もだんだん慣れ慣れしくなってきた。


「ところで稚児様ちごさまはお山の上まで登られたのかな。ワシはあと少しのところで頂上まで行けなんだ。お稚児様のもらった御札をワシにくれんか? なに、稚児様がたとえ頂上まで行けていなくても大丈夫だ。このお山に入った時から神力はお札にわずかにでも宿っていく。ワシのような素人には区別がつかないから、それでかまわない」


「御札ですか?持っていません」


 お山で遊ぶのに邪魔だから。


「そんなとぼけないでもよい。随伴者も御札を持って御山を登るということは知っているのだよ。なに、全てでなくても良い。少量もらえたらそれでいいのだ」


「でも僕、本当に持ってないのです」


 やっぱりこの人なんだかしつこい。いやになったので、人助けはここまでにして帰りたくなるけれど、がっちり手をつながれていて離れられない。

 お札は参拝者が地元に戻ったときに仲間に配るのだと聞いたことがある。お土産ということかな。

 この人もお土産がないと困るのかもしれないけれど、持っていないものは持っていない。


 結局振り払えずに、お山の下の方まで来てしまった。

 僕はこの先は行ったことがない。それなのに、この男はたやすく入山門(いまはお山を出るから下山門?)をくぐってしまった。

 門の外は思っているよりも人が多く、目が回る。


「僕、本当に帰らなきゃ」


 とても困って、涙が出そう。


「いや、こんなところまで連れてきてしまって申し訳ない。稚児様のお師匠に会って詫びよう。お師匠が下りてくるまで一緒に待っていようか。お札もお師匠に聞いてあげるから気にしなくていい」


 表面上は礼儀正しく優しいことを言っているけれど、僕の手首をつかむ手はとても強く痛い。


「お師匠様は来ません……」


 僕の場合はお師匠様ではなく御鹿様おしさまだから。お師匠様を御師様おしさまという人もいるから間違えたのだろう。本当は御鹿様おしかさまだけど、僕はうまく言えなくて、御鹿様おしさまになってしまう。


「なに?」


 とたんに顔をしかめる登山者の男の人。それでも僕は驚かなかった。そんな感じはしていた。元々はこの顔なんだろう。嫌な気持ちのする顔だ。


『なんだただのはぐれ稚児か。とんだ無駄足だ』だの、『計画違いだ』だのとぶつくさ言って僕の手を乱暴に離すもんだから僕は転んでしまった。

 そして起き上がったときにはもう男はいなかった。


 呆然となったけど、お山に帰ろうと振り返ってから気が付く。


「入山門が閉まってる……」

登場人物紹介

悪人……その後の行方は知れず

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