第二話 お団子の話
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お団子の話
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御鹿様に許可をもらった日から、僕は毎日お団子を食べられることになった。
これを食べると元気が出てくる。一日中でも山の中を掛け回れる。少し飛び跳ねただけでも木になっているビワみたいな木の実を取ることもできるからとても楽しい。
毎日お寺の掃除をして、裏庭の畑の手入れをお鹿様と一緒にして、お団子を作って食べる。
やることはあまりなくて、好きに過ごしていていいから、お仕事が終わったらお山で自由に遊んでいた。
お山の頂上のこのお寺まで登ってきた人がいる時は、なるべく顔を出さないように気をつけた。
前にいたところのお師匠様が、お客様が来るときは下がっていなさいと言っていたから。
御鹿様は何も言わないけど、下がっていることにした。でも気になるから戸の隙間からちょっと覗いちゃう。
お山には結構ボロボロの人が登ってくることが多い。服も、髪の毛も泥まみれ草まみれ。
ここに登るのは大変なんだって、登ってくる人たちが道中話していたのを聞いたこともある。『この御山を登るのは大変だ。やはり命懸けだ』そんなことを言いながら登っていた。
僕はそれを木登りして木の実を食べながら見ていたけど。僕ならお団子を食べた日は一日で下から上まで何往復もできる。大人は体力がないんだなと思った。
登ってきた人たちは、皆お寺の正面の拓けたところに置かれた小さな机みたいなところの前に座ってお祈りしていく。お寺の中まで入ってくることはない。
お祈りするために上ってきたのかな? 自分のおうちにお祈りの台がないのかな? そう不思議になる。
もしかしたら、お団子を食べたくて登ってきたのかもしれない。それならわかる。だって御鹿様のお団子はとてもおいしいから。
でも御鹿様も毎日お寺にいるわけではない。お散歩していることも多い。一度お散歩に出るとなかなか帰ってこないこともある。
御鹿様がいるときなら、新しいのを作ってもらって古い団子を僕が食べるけど、いない時は古いお団子は置いたまま。
そうすると、お団子は置いたままになっているから腐ってしまっていて、残念なことになっている。
そしてそんなタイミングでお山を登ってきた人たちはとても残念そうな顔をする。
何回かそんな残念な顔をした人たちを見かけてから、御鹿様が居ない日は僕がお団子を出してもいいか聞いてみた。作り方も覚えたし、涼しいところにおいてある作り置きもいくつかあるし。
御鹿様は『いいぞ』と言ってくれた。
前のお寺のお和尚様はお客様の前に顔を出さないようにと言っていたし、僕もちょっと恥ずかしいから、お面をかぶってお団子を置きにいくようにした。
あんまり人に会うことはないけれど、たまたま会っちゃったお客様とかは驚いてひっくり返っていた。腰をしこたまぶつけていそうで痛そうだ。
それでもお団子を食べ始めるとみんな嬉しそうにする。中には泣きながら食べる人もいる。腰をぶつけた人も、痛みが取れたと喜んでいた。
そのうち、山を登ってくる人たちが「お山の仮面稚児に出会えると運がいい」と言いながら来るようになったので、ちょっとはずかしかったけど、多分喜んでもらえているということでいいのかな。
僕のお仕事はお寺のお掃除とお団子を出す係ということになった。
登場人物紹介
寺の坊主……寺の掃除担当。お団子を出して食べる担当。
御鹿様………散歩が好き