第一話 坊主の話
ーー御鹿様の寺の見習い坊主、知らず神食を毎日食し、知らず国一番の神力を得る。
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坊主の話
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僕が今住んでいる場所は木でできた小さなお寺。僕のお仕事はその掃除。
廊下は米ぬかを使って掃除をする。まず箒ですみずみまできれいに掃いて、濡れ雑巾で丁寧に拭いておく。古くなった布に米ぬかをくるんで、よ〜く絞った雑巾で挟んで廊下を拭く。この仕上げ磨きをするとピッカピカになる。
これは前に住んでたところで先輩坊主に教えてもらった技。
あちこちの部屋も掃除する。引戸の桟には蠟燭の蝋をこすりつけるといい。これも先輩坊主に教えてもらった。
あまり塗りすぎると、滑りが良すぎて戸が勢いよく開くので限度が大事。
もうすぐ御鹿様が帰ってくると思うけど、掃除が終わっていなくても怒られない。だからここでの暮らしはとても好き。
坊主の朝は早い。
僕は朝起きてすぐ、冷たい井戸水で顔を洗う。
思わずその場で足踏みをしてしまうくらい冷たい。
一人騒いでいると御鹿様が来る。
「御鹿様。とても冷たいんです」
すると御鹿様が『そうか』と返事をする。
御鹿様は顔が鹿で体がマッチョ。被り物とかじゃないから、鹿のお耳が時折ピクピク動いている。甚平を適当に羽織り、ズボンはちゃんとはいている。
最初見たときはびっくりしたけれど、すぐに慣れた。前にいたお寺に飾ってあった鹿のお人形と似ていたからかな?
顔を洗って、服を着替えて、お手洗いに行ったらお部屋の掃除を始める。御鹿様に言われたわけではないけれど、それが僕のお仕事。
僕は元々違う場所にいた。そこでもお父とお母はいなくて、孤児たちが集まるお寺に僕も出入りしていた。掃除をしたりお手伝いをしたりするとそこでご飯がもらえる。
ある時裏山のお堂の掃除をしていたら足を踏み外してどこかに落ちてしまった。
でも誰も僕のことを探しに来ることはないと思う。お寺にはいろんな子どもが出入りしていて、いつの間にか増えたりいつの間にか減っていたりしたから。
とにかく、お堂で転んだら変なお山に移動していた。どこが変って、木がなんか違う。その前までいたところは木や草や苔がたくさん生えてたし、ジメジメしてた。
でもいま暮らしているここはほとんど何も生えていないし、生えていても細くて小さめな寂しい木ばかり。葉っぱが付いていない木が寂しくあっちにぽつん、こっちにぽつんと生えている。それに見たこともない木や動物にあふれていた。
その時はここがどこだか全然わからなくて、適当に歩いてみたら小さなお寺みたいなところにたどり着いた。そこが今暮らしているこのお寺。
未だにここがどこなのか、わかってはいないけど。ここで暮らしていた御鹿様がぼくを拾ってくれて、ここで暮らすことになった。眠れる場所があってよかった。
僕のお仕事は掃除。御鹿様に言われた訳じゃないけれど、前いたところでそうしていたからここでもそうしようと思った。
ご飯はたくさんはないけど、とても美味しくて好き。今まで食べたこともないような真っ白なお米と、お庭で取れるお豆、食べられる葉っぱ、ちょっと小さななんかのお芋。そして、お団子。
前いた所では七つになってない子はお粥とかしか食べちゃだめだったから、とても嬉しい。
御鹿様は山に登ってくる人のためにお団子を作っている。手は鹿ではなく大人の人の手をしているから作れるみたい。でも、毎日人は登ってこない。
人が来なかった日は、お団子はおいたままになっていて、そのうち腐ってしまったり、カピカピになったりしてしまっていた。
もったいないから食べてもいいか聞いてみたんだ。
『いいぞ』って。そう言うから、その日から、誰も来ない日のお団子は僕のおやつになった。
登場人物紹介
寺の坊主……この物語の主人公
御鹿様………鹿の頭をもつマッチョ