創作小説 アプリ「書く習慣」2023/10/7お題「力を込めて」
「あっ!しまった!用紙配り忘れた!」
そう言葉を発したのは担任の先生であった。
「えっ?何を?」
「来週以降三者面談の希望日を募らなきゃいけないんだけどその用紙だ…うわーしまった、三連休なのに!」
まだ教室には大勢残っているがササッっと帰ってしまった生徒も居る。
私は窓の外を見て同じクラスの者が居ないか探した。
「あ!いるいるいるいる」
私は思い切り叫ぶ。
「おーーーーーーーーーい!!!プリント配り忘れたーーーーー!!!」
下を歩いていたクラスメイトはビクッとしてこちらを振り返る。
「でかいでかいでかい声がでかい」
「プリント渡すから戻って来てー!」
「そこから落として良いよー!」
えっ?
教室に居た全員が、えぇ…?と言わんばかりの空気になっている。
「早く帰りてぇから早く落とせ!」
「本当にいいのね?」
先生が言う。
「キャッチする!」
ひらり。
とプリントが落ちていく。それを彼がキャッチする。
「サンキューまた来週〜」
「たはは…」
それで良いのか、という空気が教室に溢れる。彼は何となく不思議な感じの人だ。
私は思わず大きな声で呼び止めてしまったが、彼を驚かせてしまっただろうか。それでも、彼がこちらを向いてくれた事が、何となく脳裏に焼き付いてならない。
彼に対して恋愛感情は無いが、何となく、この日のこの出来事は、一度は忘れるものの、ふとした時に思い出すのではないかと、私は不思議な感覚を覚えた。