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なんだこの子。
もしかしてとんでもなく痛いやつだったりするのか?
顔はものすごく可愛いのにいまいちときめいて来ないんだよな。なんでなんだろう。
「こりゃ助けて損したかな……」
「ところであなたは誰なのですか? いきなり現れてなんだかすごく気安いです。は! もしかして私を襲おうとしてるのですか!? そ、そうはさせません! 断固抵抗させていただきます!」
少女は戦闘態勢をとった。
だがその構えは本当に弱そうだった。
「襲うってそんなことするわけないだろ。まぁ殺そうと思えばいけるのかもしれないけど」
「や、やはり悪党!」
「俺これでも今まで生きてきて一度も悪いことしてきてないんだ、ガチのマジでしてないんだ。それは宇宙ができる前から決められた当たり前のことなんだ」
もうあれだな、こいつとやり取りすることに合理性を見いだせないな。
こんな精神病異端者とはこの辺で別れておくのが無難だよな。変に関わるとろくなことにならなそうだ。
「まぁなんでもいいよじゃあもう俺は行くから」
「どこへ行くというのですか! ラーメン屋ですか?」
「ラーメン屋なわけないだろ。この世界にもラーメンあるのかよ。とにかくお前を助けてやったんだ、それだけで十分だろ」
「助けられた覚えはありませんね。私の邪眼でふっとばしたのです」
「怯えて目瞑ってたけど」
「念力を使っていたのです! 完璧な角度で、念力が相手にクリーンヒットしてふっとばしたのですよ。伝説級の一撃です」
「本当にそんなことできるのかよ。ちょっと付いてきてみろよ」
俺は半信半疑だったので、彼女を呼び止めた。
「何ですか? そうやって言葉巧みに私を操ろうとしたって無駄ですけど、なんとなくついていってあげますよ」
俺は化け物たちが浮かんでいるところまで歩いていった。
「ここが一体なんだというのですか」
「ぎぎぎいぃいいいいい!」
「ひっ、こ、声が聞こえます!」
「上だ」
「上?」
少女が上を向いた。
目をひん剥いて転げ回っていた。
「で、でたあああああああああ! 魔物が降ってきたあああああああ!」
「降ってないぞ、浮いてるんだ」
「へ?」
しばらく反応を堪能した後、教えてあげた。
「ほ、ほんとですね。なんで、なんでこんなことが……」
「多分空を飛びたかったんだと思う。こいつらには翼が生えていないだろ? だから空を飛びたかったんだ」
「願いが叶ったというわけですね! キラキラ! ってそんなわけないです! 騙されませんから!」
「うーん、じゃあお前の念力で浮いてんだろ」
「私の虚勢を利用してきた!? いや、虚勢じゃないですけど、本当ですけど。うぅ、でも念力なわけないです! と常識的にツッコめば私が念力を使えると言ったことが嘘になり、その通りこれは念力です! と言えばこの変質者のくそ適当な冗談に乗っかる安い女みたくなってしまう……くそう! これは強い一手です……!」
なんか勝手に地面を叩いていた。
「訳の分からないことのたうち回りやがって、一生そうやってろ。本当にじゃあな」
「ちょ、ちょっと待ってください! あなたがやったんですよね! 絶対そうですよね!?」
「なんだよいきなりちょっと普通になりやがって。気持ち悪いな」
「仕方ないので私の子分にしてあげます。いえ、私のパートナーにしてあげますよ。なんなら私が犬になってもいいです」
「一瞬で下僕から支配者に成り上がった!」
「いいですね、リズムがいいです、その調子でしたら私の相棒も務まると思います。とりあえずここは危険です。クエグサの街に戻りましょう」
「街だと? 何言っているのかまったくわからないな」
「ついてくればいいのです。そうすることであなたは幸せになります。私の頭のようにね」
「ハッピーにはなりたくないな。全くもって」
そんなことを言って少女はこっちですと言って歩き出してしまった。
えぇ、今のやりとりのどこに俺がついていく要素があった? なんか普通に先導し始めてるんですけど。えぇ、やだよこんなやつについていくの。はっきり言ってやばいよこの子。俺が今まで見てきたどんな女の子よりもやばいかもしれない。いや、まぁ別に今までの人生で女の子と関わった瞬間がそもそも壊滅的なのはあるんだが……
「でも街かぁ」
今の俺にやることもないしなぁ。
空を飛んで夢も叶えちゃったし、試しにひょこっと付いていってみるか? 今すぐ死ぬという選択肢もあるが、せっかく異世界に来たんだからこの世界をいい感じに生き抜いてみてもいい気がするし。
そもそも異世界要素を求めて飛んでる最中だったような? うん、そうだな、そうだ、仕方ない。ここは一つ童貞……ではなく童心に返り異世界パラダイスというものを満喫してやりますか!
「まぁ仕方ないな。そこまで言うんだったら暇だしこの俺が……」
「ひぃえええええええええええええ!」
と、そこでさっきの女の子が走ってきた。
そして俺の後ろにすっぽりと隠れた。
「何してんだよ。なんかいたのか?」
「いえ、なんとなくこうしてみただけです。なにか出てくるかと思ったでしょう」
「マジで頭おかしいわ。やめろよな」
「来ました!」
少女がそう言って指をさすと、そこから白くてでかいトラのような猛獣が現れた。
いるのかよ!