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「はぁ最近退屈だなぁ」


 俺は学校の帰り道、思わずひとりごちてしまう。

 何をするにも充実を感じない日々。もうこんな日々にうんざりとしてきていた。


「おいおい、クウキ、そう悲観的になるなよ。いいことしてればきっといいことあるって」


 隣を歩く俺の親友、信介が励ましてくれる。

 いいことか、そうだよな。くよくよしてなんかいられないよな。

 涼介にはいつも助けてもらってばかりだ。


「はは、ありがとう。ガチで元気出てきたかも……」


「お、おいクウキ! あれ!」


「ん?」


 なんだと思い見てみれば、横断歩道も何もないところを一人のおばあちゃんが買い物かごのようなものを引きながら歩いていた。

 おいおい、あそこかなり通行量あるはずだぞ。

 ほら、今だって凄いスピードで車が突っ込んできて……


「クウキ!」


 俺は気づけば走り出していた。

 なぜこうしているのかはわからない。

 普段は冷めきっていて、人生なんてどうでもいいなどとすら思ってしまう俺が、なぜ必死になり走っているのだろうか。


 わからない、本当にわからない。でも俺はこうするしかないと思えるんだ。

 なぜだか知らないが、俺は今この瞬間、ものすごい充実感を感じているんだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺はおばあちゃんに向かって突っ込んでいく。

 すごい速さだ。俺は正直足の速さにはもとから自信があった。

 でも今はその比ではない。

 おそらく俺は今日本で二、三番目くらいには速く走っている! これはもう絶対なんだ、そのくらいの自信なんだ。


「危なああああああい!!」


 俺はおばあちゃんを全力で突き飛ばした。

 もう助けるにはこうするしかなかった。

 これはもう完璧な突き飛ばしだった。

 ふぅ、あぶない、これで緊急回避できただろう。


 だがそう思った矢先、突き飛ばしたおばあちゃんが隣の車線で車にぶつかり撥ねられていた。

 ついでに俺もやってきた車にぶつかられ撥ねられた。

 あーあ、こりゃないぜ。この世界の神様、一体何がしたいんだ……


 俺は頭がおかしくなりながら死んでいった。











「おきたまえ、おきたまえ」


 俺はそんな声で目覚めた。

 目を開け前を見てみれば、そこには一人に男がいた。

 なんか前髪が長く、目を覗き見ることはできない。なんか根暗系? な感じだ。


「あの……誰なんです? あなたは。いや、お前は誰なんだ」


 一瞬敬語を使いかけたが、相手の存在レベルは多分俺より下なので、思いっきりタメ口で行くことにした。立場の弱い人間に強い人間は何をしてもいいのだ。


「ぼくはね、君を助けにきたんだ」


「助けに? 本当に気持ち悪いことをいうね。俺の何を助けるっていうんだよ」


「きみは死んじゃったからね。ぼくが君を助ける必要があるんだ」


「死んだって、どうかしてる。俺はこんなにピンピン生きてるじゃないか? 寝言は寝てから言ってもらえないか?」


「君は死んだよ。おぼえてないかい? 車に完璧なまでに撥ねられたんだ」


「いや、撥ねられたんだってそんなバカな話……車?」


 あれ、そういや車に撥ねられそうになったおばあちゃんを……


「ああ!」


 思い出した。そうだ、俺おばあちゃんを助けようとして犠牲に……あれ、なんかおばあちゃんが死んだ瞬間が頭に映像としてこびりついてるぞ。いやいやそんなわけないよな。よし、もう深く考えるのはやめようっと。


「それは思い出したけど、あんたは一体何ものなんだよ? なんで俺に話しかけてきてるんだ。初対面だよな?」


「そう、初対面。ぼくは神様だから。めったに人前にすがたを見せることはない」


「神様だって? どう見たってくそ陰キャやろうだぜ」


「口がわるいね。でもそんな君も素敵だよ、ふふふ」


「仮に神様だとして何の用なんだ? 結局さっきからそれがわからないぞ」


「君にはね、転生してもらおうと思っているんだ。それも異世界にね」


 異世界……だって?


「そんなものあるわけないだろ」


「それがあるんだよ。宇宙は君たち地球人が思っている以上に大きいんだ。地球と似たような星の一つや二つぜんぜんあるし、似てない星なんてそれこそ無数にある」


「はいはい、そうですか。それで、なんで俺がわざわざ異世界とやらにいかなくちゃならないんだ?」


「それはきみが地球でいいことをしたからだよ」


「いいことだって? 俺はどこにでもいる普通の冴えないくそ一般人ですが」


「きみは死ぬ直前おばあちゃんを死にいたらしめた。これはすごくいいことなんだ」


「は? 俺は人殺しなんてしてないぞ、言いがかりはよせよ」


「紛れもなくしたんだよ。おばあちゃんはきみが何もしなければ死ぬはずはなかった。でもきみが突き飛ばしたから死んだんだ。これは事実だよ」


「そ、そんなわけないけど、仮に殺したんだとして、それがなんでいいことになるんだよ」


「彼女は異世界からの転生者だったんだよ。それで地球で悪いことをしようと企んでたんだ。それをきみはやっつけてくれた。これは偶然でも広く讃えられるべき偉大な功績だよ」


「ええー、いきなりそんなこと言われましても」


 なんかよくわからないが良いことをしたことになっているらしい。なるほどな、まぁ助けた覚えしかないんだが、そういうことならそういうことにしといてやってもいいかもな。仮定なんて必要ない。求められるのは結果なんだ。


「それで? 一緒に死んだ英雄には異世界にバカンスでも行って頂戴というわけですか」


「遠からずといったところだね。バカンスと呼べるようなものではないかもしれないけど、きっと同じかそれ以上のエキサイティングが待っているはずだよ」


 男の話は最初から最後までとても信じられるようなものではなかった。

 しかし俺の奥から湧き上がる何かが、今すぐに遠吠えを上げたくさせてきていた。

 遠吠えをあげたい。でも我慢だ。それが大人というものなのだから。遠吠えは風呂で上げるのが最適だと、俺は最近学んでいた。

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