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これはデスゲームを見守る簡単なお仕事です。①-入社編-  作者: 三嶋トウカ
Stage1_C

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ウイジンキネン_コウ_3


 Bさんの主張を聞いて、ある程度方向を見定めたのだろうか。Aさんが進み始めた。Aさんが持つ武器は、長い両刃の剣と、刃の大きなハサミ。銃を選ぶことも可能だが、Aさんは選ばなかった。


 ――シャキン――シャキン――


 ゆっくりと、Aさんがハサミの刃を鳴らしている。十分に鋭利な刃物のそれは、チョキンと切れば、切った物の綺麗な断面を見せてくれそうだった。


 ――シャキン――シャキン――


「Aさんは、どちらを使いと思いますか? バニィさん」

「うーん。ハサミを鳴らしているから、気に入ったのかなと思ったんだけどね。剣の方が扱いにくいとは思うが、斬れ味は上回りそうだ。難しいけど、私なら剣を選ぶかな。Aさんも、弄んでいる感じはしない。ハサミは少し、オモチャなのかもしれないね」

「なるほど。ペシェさんはどうでしょう?」

「んんん〜。私はあまり力がないので、ハサミ、でしょうか〜。Aさんも女性ですし、きっと接近することになるでしょうから、懐に飛び込むのなら、ハサミのほうが使いやすいですし〜」

「それはありますね。敢えてあのふたつを選んだということは、状況によって使い分ける可能性もあります。ハサミで切るのも場所によってはインパクトがありますし、力もかけやすい。剣は極至近距離では使えませんから、お互いがお互いの保険……でしょうか」


 仮面を被り、ハサミを鳴らしながら歩くAさんは、控えめにいってもかなりの怖さだった。どんなに明るくても、人の多い場所でも、遭遇したら腰を抜かすか真っ先に逃げ出すだろう。こんな人物が、後ろを追いかけてくるなんて。自分だったらトラップがあるとわかっていても、パニックを起こして全力疾走するかもしれない。と、改は思っていた。こんな人間に出会いたくないし、いきなり追いかけられたくもない。『アナタを殺させてください』と、全身で主張しているのだ。


「Bさんは、一応前に進んではいるが、ゴールを目指しているようには見えないですよね。やはり、恐怖が勝っているのでしょうか。突然日常からこの場所に連れてこられたら、誰でもパニックになると思いますし。それに、これからまだまだトラップに引っかかる可能性は――」

『いっ――!!』

「これは……次のトラップだ!!」


 改が司会業を全うしている間に、Bさんはトラップに引っかかっていた。今度は一回目のように、『トラップに引っかかったが、運良く膝を擦りむいただけ』とはいかないらしい。


『ああああああああ――!!』

『死ぬ、死ぬっ……』

『痛いあぁぁぁぁ!!』

『やだっ! 痛いの!! 痛い痛い痛い!!』

『あぁぁぁぁ……!!』

『ひぃぃぃぃ――』

『くっ……ひっく……』

『痛い……』

『痛いよう……』

『うぅ……ぐすっ……』

『うえ……うえぇぇ……』

『いた、痛い……』

『うっ……うっ……』

『いぃっ……うぅぅ……』


 耳をつんざくような声がしたすぐあと、壁を殴りながら歩いていたBさんの手に、大きな棘のようなものが複数刺さっていた。金属でできていて先が鋭利になっているソレは、壁から突如押し出てきた。なんの脈絡もなく。壁を叩いたBさんに返事をするように、スッと出てきたと思ったら串刺しにしている。立ち止まり痛みに思わず手を引っ込めたBさんだったが、その痕からは血が流れていて、黒い穴のようなものも見えていた。壁に生えた棘はBさんの血を滴らせている。

 痛みに涙しながら、Bさんはまた歩き出した。しかし、もう壁を殴ったりはしていない。他の場所にも、同じようなトラップが仕掛けてあるかもしれないと、不安になったのだろう。――その心配は当たっていて、ここから先の壁には、この棘のトラップはいたるところに仕掛けられていた。……不安になったらなにかに縋りたくなるかもしれない。よろけて激突するかもしれない。もたれかかりたくなるかもしれない。もしかしたら、終わりの見えない迷路のようなこの部屋を、左手の法則で脱出しようと試みるかもしれない。そんな思惑からだろうか。


「これは痛いですね。不意打ちですから、気が付いた時は余計に」

「本当ですね~。かなり太めの棘ですし~。先も尖ってますもんね~」

「抜く時も痛かっただろうね。太いから手に開いた穴も大きい。……さすがに血は止まるとは思うが、きちんと止血しないとAさんに自分の居場所を教えることになる」

「止血できるようなものはありませんから、このまま押さえた手を伝って、血痕が残るかもしれませんね。今のこの状況で、思考がまとまるかは怪しいところです。服を脱いで押さえるにしても、次はどんなトラップが来るのかもわかりませんし。今のBさんは、先に進むしかないのかもしれません」


 穴は大きいが、肉を抉り取られたわけでもなく、挟むようになんとか押さえてBさんは激痛と出血による喪失感に耐えていた。耐えながらどこにあるか分からないゴールを目指し始めていた。

 ただ、そんな中歩くBさんを、Aさんは許さなかった。


 ――ザクッ。


『――え?』

「続けてまたトラップだ――!!」


 大きく目を見開いたBさんは、恐る恐る足元を見た。履いている靴に、先ほど自分の手に刺さったような棘が刺さっている。長さは三十センチほどだろうか。靴を貫通して顔を覗かせた先端は、既にBさんの足指の付け根の肉を突き刺していて、ジワジワと靴に血を滲ませていた。


『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあああああ!!』

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