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これはデスゲームを見守る簡単なお仕事です。①-入社編-  作者: 三嶋トウカ
Stage1_B

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モリビトノシゴト_ゼン_4


 『フー……フー……』


 解説の後ろで、鬼の荒い息遣いが聞こえてくる。ざらついたノイズ音が混ざる、生々しい音。十分経過したが、未だ鬼も子も、それぞれが誰とも遭遇していなかった。改はイヤホンを一旦外し、嘉壱へ話しかけた。


「中々、出会えないですね」

「今回はみんな移動がゆっくりなんだよね。鬼以外。警戒しているのかもしれないね。……子は、パッと見てわかるんだから、合流できたほうが有利……に見えるかい?」

「え、そ、そりゃあ、まぁ……。味方多いほうが有利、ですよね?」

「実は、そんなこともないんだよ」

「そうなんですか?」

「改君、二人しか通れない道を友人と並んで歩いていて、もし前から人が来たらどうする?」

「僕か友人か、どちらかが後ろに並んで、前から来た人が通れるようにしますね」

「だよね。今回もそうなんだよ。幾ら人数がいても、狭い道で鬼と出くわしてしまっては、複数人いたら逃げ辛いんだよ。誰が先に逃げるか、それとも立ち向かうのか。身代わり、おとり、交換条件。自分の取り分を増やすために、わざと鬼に殺させる子もいるしね」

「……殺伐としていますね……」

「そりゃあ、デスゲームだからね。……おおっと。動きがあったみたいだよ改君」


 子を追っていたカメラから、鬼のカメラへと切り替わる。


「これは、遂に一人目の子と遭遇だぁぁぁぁぁぁ!!」

「やっとですね~」

「……長い」


 にじり寄る鬼の視点で映る、酷い顔をして動けないでいる男性。この男性が子の一人だ。二人の距離は、二十メートルほどだろうか。今すぐ走り出せば鬼から逃げられるかもしれない。子が来た道は、幾つも細い道が並んでいて、袋小路はほとんどなく、入り組んでいるため上手くいけば鬼を早く巻くことができるだろう。


「この子はA君だね。若いから、体力はあるかもしれない」

「……でも、弱そう」

「すぐに死んじゃうのは、勿体ないですよねぇ~」


 改は急いでイヤホンを両耳に着け直した。


『あー……やっとじゃん。ふあぁ、欠伸出るわ。ははっ。俺の獲物、みぃつけたぁ』

『う……あ……』

『げっ。お前漏らしてんじゃん……。きったねぇなぁ……。まあ良いか。これ以上生き恥晒す前に、俺がしっかり片付けてやんよ。はー、俺ってめちゃ親切ぅ』

『あ、あぁ……あぁぁぁぁぁ!!』

『おいおい、待てよ子猫ちゃん』

『ひっ、いぃっ……あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!』


 叫びながら、子は振り返って来た道を戻るために走った。足がもつれて上手く走れないでいるが、これでも一生懸命に足を動かしている。このスピードなら追いつける、と、鬼はそう思ったのだろう。余裕たっぷりに歩いていた。


「漏らしちゃったね、あの子」

「リンリン、汚いの、嫌い……」

「怖かったんですよねぇ~。気持ちはわかります~」

「あー、こりゃ、漏らしたモンが、目印になってそうだなぁ。……そんなに漏らしたのか。全部出たんじゃないのか? ゲーム前にそんなに飲んだのか?」

「鬼、多分、気付いてる。だから、わざとすぐに追いかけない」

「ふふふ。意地悪な鬼ですねぇ~」

「――動くみたいだぞ」

「……やっとか」

「楽しみです~」


 実況の話は話半分に聞きながら、改はすっかりモニタとイヤホンの虜になっていた。このあと一体どうなるのか見てみたい。会場でどんな会話が繰り広げられているのか、聞いてみたい。――どんな死に様を誰が見せるのか、知りたい、と。恐怖は勿論まだ持ち合わせていたが、そう考えるようになっていた。


『んー。さっさと終わらせようと思ってたの、忘れてたわ』


 鬼はそう言って手首を振り足首を回すと、背中の専用の鞘に鉈をしまった。


『あいつなら、別に鉈使わなくても絞められそうだな』


 首を鳴らして、子が逃げた方向へ、一気に走り出した。


『待ってろよ? ちゃんと全員見つけてやっからなぁぁぁぁぁ!!』


 そう叫びながら、鬼は物凄い勢いで走っている。


「わぁぁ~! 凄く早いですね~! ペシェなら、すぐに捕まっちゃいそうです~」

「……リンリンも」

「こりゃさっきの子、すぐ捕まるだろうな。だがしかし。鬼は子を見つけられるのか。そこにすべてがかかっているね」

「あらあら、やっぱりあの跡を追っているみたいですね~」

「……染みになってる」

「恥ずかしい痕跡だが、盛り上がってきたぜ」


 鬼の顔が映るカメラは、時々目線を下のほうにやる鬼を捉えていた。言われているように、漏らした水分の染みを、目印にして走っているのだろう。


『……あはっ。追いついた!』

『ひぃぃぃぃぃ!! やだっ!! やだっ!!』

『うはぁ。良い声と顔。そそるねェ。……なーんて』


 尿で濡れた下半身に、涙と鼻水でグチャグチャになった顔。手に持ったナイフをブンブンと振り回して、鬼を威嚇している。


『来るな! 来るなぁ!!』

『いやー、そう言われてもさ? 俺もお前ら殺らねぇと、死んじまうんだわ。金も欲しいし。だから、お前が死ねよ』

『やだ!! 死にたくない、死にたくない……!! う、う……うあぁぁぁぁぁ!!』

『おおっと』


 ナイフを振りかざして、男性は鬼へと突撃していった。


「先制は子のほうからだぁぁぁぁ!!」

「うふふ、頑張って~」

「駄々っ子みたいな動き、だな」

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