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モリビトノシゴト_ゼン_3


 「色々その、気になる言葉はあったんですけど……。きっ、記憶処理……って、な、なんなんですか……?」

「ここで起こったことを忘れさせる処理だよ。申し込みをしたところまでは覚えていて、次に記憶があるのは、賞金を受け取って家に帰った後。漏れたら困るからね、ここの情報が。極稀にだけど、参加したことすらすっかり忘れて二回目以降参加する人もいるよ。本当に、極稀に、ね」

「安全、なんでしょうか」

「一応、生活に支障はないみたいだよ」

「そうですか……」

「気になるかい?」

「そりゃあ、少しは……。あ。逆に、記憶を持ったまま参加した人はいないんですか……?」

「今のところはいないね」

「言い切れるんですか?」

「そりゃあ、相当数実験したからな。……とても記憶を持ったままの元参加者を野放しにはできないから、参加後しばらくは監視もつけている」


 一部とはいえ、記憶が消えてしまうことは、改にとっては恐怖だった。だが、この記憶処理で消されていくのは、夢にまで見そうな恐ろしい出来事である。忘れてしまったほうが、幸せなのかもしれない。――そう思い直して飲み込んだ。


「そうだ。さっき聞いたよね。丙たちが、違う名前を名乗ったの。あれはコードネームみたいなもので、名前バレ防止のものだから。改君も、何か考えておいてね。自分の名前もじったり全然違う名前つけたり、誰かとお揃いにしたり、みんな結構遊んでるよ」

「わかりました……」


 確かに、丙は【バニィ】、もがなは【ペシェ】、りんごは【リンリン】と名乗っていた。


「……改、会場の音声、聞いてみる?」


 名前について改が考えていると、小さな声でりんごが話しかけてきた。マイクはミュートにしてあるだろうが、念のためだろう。


「超高性能ドローン、飛ばしてるから。小さい身体だけど優秀なの。よく聞こえると思うよ、向こうの音。これは、鬼を追ってるカメラだから」


 改は差し出されたイヤホンをおずおずと受け取ると、ゴクリと唾を飲んで両耳にはめた。


「……楽しんで。どうせもう、戻れないんだから」


 そう言ってりんごが指さしたのは、一番左下の、鬼の後ろ姿が映ったモニタだった。ザーザーと小さなノイズ音が聞こえ、その後途切れ途切れに現場だろう音声を拾っていった。段々音は明瞭になり、ハッキリと鬼の声が聞こえてきた。


『――クソッ!!』

『どこにいんだよ……。四人ぶち殺さねぇと、俺も死ぬんだろ?』

『はー無理無理』

『金ももらえねぇ上に死ぬとか、クソゲーにもほどがあんだろ』

『誰でも良いからさっさと見つけねぇと』

『あーイライラする』

『金をさっさと寄こせよ』

『シネシネシネシネ……』


 鬼がわかりやすくイライラしている。……正確には、焦っているのだろう。しかし、開始してまだ数分しか経っていない。鬼は移動しており、ここまで誰ともまだ出くわしていなかった。ということは、鬼が子から反対方向に向かっているか、子たちが遠い位置に配置された可能性が高い。鬼は時間内に全員殺さなければ死亡するため、対峙しなければならない人間が多い分、子よりも焦る要因に繋がっている。


「鬼は、まだ子と出会えてないみたいだねぇ? うん。今回は、速攻勝負が決まる、ということはないかもしれないな」

「前回は、鬼よりも子のほうが行動も早くて度胸もあって、出くわした瞬間躊躇いなくナイフで刺しちゃいましたからね~。早かったですよね~」

「……前回に比べたら、見応えがあるんじゃないかな? リンリンはそう思うよ?」

「でも~。このまま誰にも会えないと、ちょっと萎えちゃいますよねぇ~」

「それは、リンリンも同感」

「よし! じゃあ、子達のカメラに切り替えてみようか。鬼は端に置いて、子を次はメインに紹介するよ! まずは一人目!」


 イヤホンの向こうが静かになった時、左右から聞こえてくるゲームを実況する声。他の映像に映る、途切れることがない観客たちのコメントの嵐。モニタに映る鬼と子に、刻々と過ぎていく時間。……これは夢ではなく現実だと、否が応にも改の中の緊張感が高められていく。手のひらにはじんわりと汗をかき、心なしか身体も熱い。動向を探れるイヤホンへ、無意識のうちに耳を澄ませている。頭の中にドクドクと心音が響き、その胸に痛みさえ感じていた。


「名前は伏せるよ、仮にA君。彼は学生みたいだね。ふんふん。奨学金、親に持って行かれちゃったんだ。可哀想だね。それで、授業料のために、と。……賭ける物が大きくないかな? 大丈夫かな?」

「次は、Bちゃん。……彼氏との、結婚資金。でも、彼氏、ヒモ……みたい。リンリン、よくわかんない。ヒモって、結婚できるの?」

「Cちゃんにいきますねぇ~? ええっとぉ……。うふふ。中々の子でしたぁ~。ホストに貢いで借金して、身体壊した上にお金がないみたいですねぇ~」

「子の最後はD君だ。……最年長だね。リストラを家族に言えず出勤のフリ……。生活費とローン、ねぇ……。奥さんが専業主婦で、一応、子どもは独り立ちしているみたいだね」

「鬼は、経営者。事業が傾いて、借金だらけ」

「金額的には……どうかな? 一番必要なのは鬼、そして次がD君だろうね? 借金の額によるけど順にC、AとBは同じくらいか……?」

「学校や学部によりますよね~、奨学金。後は、どこから借りるかとか~」

「結婚式も、全部詰め込んで海外でやったら、相当高いんじゃないの?」

「あー、結婚資金にはならないと思うなぁ、私は」

「どうして?」

「だって、相手がヒモ、だからね」

「……ふぅん」

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