おつかいが冒険とは、どういう事ですか?
青龍は人に慣れない。
それは飼い始めた当初からずっと言われてた。
個体にもよるが、だいたい10歳前後で大人の龍になり、その闘争本能のみの獰猛な龍という生き物になる。
「アルー!やめるんだ!」
暴れ出した青龍のアルーは、先週壊した花壇を飛び越え、ついに村へ来てしまった。
「おいっ!ザキ、だから言っただろう早く肉にしちまいなって!」
「ウルセェぞ!タジマ!黙ってみてろ!」
着物屋のタジマがうるさい。前から言ってたが、アルーの皮で鞄を作りたいらしい。
もう来月で13歳になる青龍アルーは、子供の頃から一緒に暮らして来た。
ここ数ヶ月で確かに暴れたり夜中に咆哮したりも目立っていたが、それでも自分が行けば大人しくなった。
でも今日は違う。覚悟が必要かもしれない。
尻尾まで入れると10メートルを超えるアルーは、タバコ屋を壊し始めていた。
「俺のこともわからないのに…タバコ好きは変わらないな。」
アルーはタバコの煙が好きだった。
火を噴くことを覚えたのも、母さんが吸ってたタバコを消そうとして、それに反応したからだ。
弟が産まれた時も、兄が中央に出て行った時も、父さんが夜釣りに出かけ、2度と帰って来なかった時もアルーは一緒にいた。
騒ぎを聞きつけて火消し連中がやって来た。
「うわっ!ヤベーな。ザキ、どうする気だ?これ以上ほっとくと人死が出るぞ。」
その瞬間、アルーが振り返り火を噴き放った。
跳び退く2人。
その間から、あっという間に辺り一帯が火の海と化す。
幸い人に被害はない。今はまだ。
『クソッ…』
「槍を持ってこい、2本だ!」
ヤルしかない。
もっと早く野生に返してあげればよかった。
自分の甘さがアルーを殺す羽目に。
それは一瞬だった。
2本の槍がアルーを貫いた。
一本は喉に。もう一本は胸に。
「もう帰るのか?」
タジマはうるさい。
アルーの肉や皮で、村はお祭りだ。
とれた龍は村人で分け合う。昔からのルールに文句はない。
「背骨をマサに鍛えてもらうからな。」
鍛冶屋のマサは隣の村にいる。
龍の背骨はいい剣になる。
「そうか、じゃあこの尻尾の肉を持ってってやれ。今日はクリスマスだからな。…メリークリスマス。」
タジマは本当にうるさい。
『そんな気分じゃないんだよ…雪も降りそうだし…』
朝までには帰りたいな、とザキは月影を見上げた。
「城からモリオが来てる?」
ザキは少し身構えた。
城の忍者のモリオは2つ上の先輩に当たるが、ロクな話を持ってこない。
前に来た時は弟を中央の料理屋に持っていかれたし、中古で買った鎧は腕のカバーがすぐに外れた。
「よう、ザキ。」
「モリオ…相変わらず派手な装束だな。」
確かに全身赤は忍びとしてどうか?
「殿が風邪をひいてしまってな。インフルエンザらしい。」
「バカ殿が?じゃあ今回は遊びか。」
そうなると話は別だが。
「いや、『りん』に薬を取りに行くから一緒に行ってくれ。」
「遠っ‼︎」
『りん』は2つの国を超えさらに海峡を渡った先にある島。
「この時期、オリーブもないし、『りん』に楽しみがないんだよなぁ…」
「報酬はあの超有名中華料理店『敦煌』の中華丼!そして今回の旅には城御用達の『カガミ』の釣具一式が無料で貸し出される!」
「急に仰々しいな?まぁ『敦煌』は魅力だけど…貸し出しってなんだよ?…くれよ!『カガミ』!」
『りん』に行くことは決まったが、1つ気掛かりがある。
初詣で引いたおみくじの凶
『北に災いあり』『人の助けなし』
外は寒いし、モリオは確実に逃げるだろうし、気が乗らない。
見上げた夜空に、流れ星の銀色が掛かる。
「俺も風邪ひきそう…」
アルーの剣を握り直した。