架空遺言①
本当はこんなものを書く予定はなかった。これを見る頃には死んでいるだろうと書いても、読む相手がいない。これは自己満足だ。しかし万が一、我が妻レベッカ・クロフォード以外の者がこれを読んでいるのなら、次ページ以降を今すぐ燃やしてほしい。
なんたってただの惚気だからね。他人の君には読めないだろう?
やあ、元気かな。
一言言わせてもらうが、君の態度は昔から分かりやすい。隠し事なんて向いてないタイプなんだって、散々言ったと思うんだけどな。君らしいといえば君らしいか。
君の手腕は実に見事だった。きっとミステリーの評論家たちが挙って酷評するくらいにはね。愛人のいる夫が死ぬなんて、これほど探偵がいらない事件もない。ああ、破り捨てないでくれ。悪かったとは言えないが。
仮に私が君の思いどおりに死んでいたとしたら、警察が君という犯人を割り出すのにそう時間はかからなかったはずだ。
馬鹿な男だって言いたいんだろう。
私だって自分を殺そうとしてくる女のために自殺するなんて馬鹿げた話だと思ってるが、まあ、これが現実だ。あと30年くらいあったかもしれない寿命を少し縮めただけさ。大したことはない。
お前に、
最後に何が言いたかったのか、正直よくわからない。愛してるとも、幸せだったとも言えない。かつては最期にそう口にできる人生を目指していた。人生は一言で割り切れるものじゃないんだろう。
これは呪いの手紙になるのかもしれない。
君は結局私を殺さなかった。私のおかげで。結局はそういうことだ。せいぜい感謝してほしいね。塀の中で暮らすのは嫌だろう?
君は私を恨んで死なないようにね。
どうせこの手紙は届かないのだから。