④ 与えられた仕事
****
「……で、今回捕まえてもらう動物だが、こいつは大変だぞ。一角獣だ。知っているか?」
野外劇場のような場所で講義を聞いていた。舞台が少し高くなっていて、背面に少し崩れた壁がある。音を客席に届けるための物だったのだろうか。舞台の上で椅子に座ったダニエルが話している。椅子というか手ごろなサイズの石だけど。僕は手近な石に座って話を聞いていた。
「あ、はい。あの……角の生えた馬ですよね」
自分で言って、そのまんまだなと思う。
「私も知ってるわ。絵画で見たことがあるから」
隣にはアレクサンドラが座っていて、元気よく手を挙げて言った。
あれから自分には仕事が与えられた。それは遺跡から逃げ出した動物たちを捕まえるという内容だった。動物たちは肉体を持っているそうで、同じく肉体を持っている自分でないと捕まえることができないそうだ。ウトナとあの女性も肉体を持っているのだけれど、それをする余裕はないそうだ。
ダニエルは捕獲する動物について説明してくれるが、よく脱線してそれに関連した神話を教えてくれた。むしろそっちの方がやりたいようにも見えた。
遺跡のどこに動物がいるのかはよく判らなかった。逃げ出したくなるような場所なとは僕には、思えなかったけれど。もし猫がいるなら会いたいと言ってみたのだが、許してもらえなかった。よく働けばいつか会わせてもらえるだろうか。
自分にしかできない仕事があると言われれば少し嬉しくて、とても安心した。それは自分がここにいてもいい理由になると思ったから。もう10回ほど動物たちを捕まえている。その際はウトナから丈夫な紐を借りることになっていた。といっても動物について説明するのはダニエルなので、ウトナと僕の間に彼が入る形で、今日もダニエルから紐を渡された。この紐は上手い人が使えば、縄のように太くも糸のように細くもなるそうだ。思った通りに自在に動かせるとか……やっぱり原理は判らないけれど。
「一角獣は獰猛だが……まあ、その……なんだ」
ダニエルにしては珍しく言いよどんだ。
「もしかして美人の前では大人しくなるのではなくて?」
アレクサンドラはそういって人差し指を立てた。美人、というところでふざけたように眉を上下させる。
ダニエルは呆れた様子だったが、
「ま、大体そんな所だな。そういう認識でいい……とりあえずは」
(……なんか今回適当だな……)
「いつもナカト一人だから。今回私が呼ばれたということはそういう事なのでしょうね」威張るように胸を張った。
「そういうこと……今回はいくら動物と仲のいいらしいナカトでも危険かもしれない。いや、危険だと思っておけ。その方がいい。アレクサンドラが注意を引き付ける。ナカト、お前はその隙に紐で捕まえろ。アレクサンドラに懐いてついて来るようなら、お前は出ない方がいい。そのままウトナに引き渡せ。最後の仕上げは彼がやってくれるだろう」
「判りました」
「判ったわ」
立ち上がって早速、捕獲にむかおうと歩き出すと、背中に声がかかった。
「おい。念を押しておくが、もしアレクサンドラに危険が迫ったとしてもそれを助ける必要はないからな。俺たちは肉体を持っていない、一角獣に突かれても怪我することはない。……だがお前はそうじゃない。そこを忘れるな」
「ええ、判りました」
「美人の顔に傷がつくことはないから、お前は落ち着いて行動しろ」
アレクサンドラは顎に手を当てて見得を切って、こちらを見た。それがおかしくて笑ってしまった。
【続きます】