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E/meth --ゴーレムとピグマリオン--  作者: 音十日
Ⅰ,遠島 / cats in a strange garret
3/88

③ 7月19日夜

PM05:00


 研究所には古い潜水艇やその模型なんかを展示してある博物館が併設されていて、自分はそこの売店で働いていた。元々研究所と博物館は小さな建物だったのだが、去年買収されてからは急激に敷地を拡大していた。


 博物館のマスコットキャラクターはデフォルメされた人魚だった。人魚が深海で活動できるのかは判らないけれど、子供や女性には人気があるようだった。その割には落ち着いたデザインのキャラクターで自分も好きだった。だからパッケージの潰れた腕時計のグッズを買ってくれないかと頼まれた時も、そんなに嫌ではなかった。いくらか安く買えたし。


 綺麗な水色をしたデジタル腕時計。パッケージだと、色の名称はターコイズブルーとなっていた。バックライトを点けるとやはり水色に液晶が光って人魚のシルエットが浮かび上がる。それも気に入っていた。


(ただ、どちらかというとやっぱり……女性向けかもしれないけれど)


 猫を触っていたから、仕事の前にトイレで手をよく洗った。 


 今からの時間はいつもなら二人で回すのだが、どうももう一人のパートの方(深川さんというシングルマザー)の子供が熱を出してしまったそうで、独りで仕事をすることになってしまった。まあ仕方ない。最近は不審死の話もあるから心配だろうし、実のところ一人で仕事をするのは気が楽だった。お客さんは少なかったので最終入館時刻を過ぎたらすぐに片付けを始める。といっても掃除をしてレジを閉めるくらいで、二人いても仕方ないくらいだ。


 ……いつまで雇ってもらえるか判らないな。でもそろそろ夏休みだし忙しくなるかな。


バイトの帰り、博物館の前の自販機で500ml増量缶の炭酸飲料を買って、また少し海の方まで行ってみた。でも猫はいなかった。夜の海は危ないし、帰るか。星は綺麗だった。


 灯台の明かりがクルクルと海を照らしていた。


 

PM10:00


 家に帰ってくる。玄関の電気は点いていなかった。


 いつものことだけど、寂しいと思う。


 シャワーを浴びて着替える。何か食べようかと思ったけれど、さっき炭酸を飲んだせいか妙に腹が膨れていた。テレビで神隠しのことやっていないかと思ったけれど、そんなローカルなのは、この時間のニュースではやらないだろう。そもそもそこまで興味もないし。どうせ噂だろう。


 兄に食事(アジフライを一つ解凍した)を運んで、空いたおぼんを下げる。


 2階に上がって自分の部屋に戻る。窓を開けて、カーテンを閉める。窓際に文机、その上にデスクライトとラジカセ、畳には畳んだ布団。


 疲れた、そう呟いて布団に寝転がる。枕元にラジカセと腕時計を置く。


 ラジオで音楽番組をつけて、そのまま眠ろうとする。だが、なかなか寝付けなかった。明日が憂鬱だからだろうか。熱中症かな? そんな訳ないか。まあでもとにかく寝よう。どうせ明日は休みだけれど。起きていても仕方がないから、寝ないと。


 そう思っているうちに音楽番組が終わり、ラジオドラマが始まっていた。



―――その男は――


―――神の命を忘れ、野で獣たちと暮らしていたのです―――



 昔、聞いたことがあるような……再放送だろうか。



                               【続きます】

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