餃子を作ろうか
いつからだろう。
餃子を包むのを手伝わなくなったのは。
※ ※ ※
父は寡黙な人だ。
厳格で口数も少ない。
仕事ばかりで休日もあまり家にいなかった。
当然家族旅行なんてほとんどした事がない。
そんな父がいつかの僕に言った。
『餃子を作ろうか』
意外だった。
父は料理をしないから。
それでも幼かった僕は喜んだ。
だってそうでしょ?
餃子が嫌いな子供なんてほとんどいないから。
※ ※ ※
ボウルいっぱいの肉ダネ。
積み上げられた餃子の皮。
それと糊代わりの水。
僕らは餃子を作り始めた。
『……飽きた』
皿には不恰好に膨れた餃子が10個。
早くも飽きてしまった。
そんな僕を見て父は小さく笑った。
『なら話しながら作ろう』
それから僕は色々と話した。
小学校の出来事とか。
好きな漫画の事とか。
途中からほとんど手は動いていなかった。
それでも父は、その事を咎めたりしなかった。
※ ※ ※
それからも父は僕を誘った。
『餃子を作ろうか』
僕は器用になった。
もう昔みたいに餃子をパンパンにしたりしない。
分相応ってものを理解した。
『嫌だよ、めんどくさい』
それでも僕は断った。
だってそうだろ?
汚れた手だとスマホも持てない。
それに何より父と2人でいるのは気まずい。
『そうか』
父は咎めなかった。
背後から聞こえたその声。
弱々しいその声。
その声が耳にこびりついて離れなかった。
※ ※ ※
数年ぶりの実家。
記憶よりだいぶ年老いた両親。
実家に帰ってきたのは迷っていたからだ。
今の仕事を辞めようかどうか。
口下手な僕は誰にも相談出来ずにいた。
そんな時思い浮かんだ。
もう数年は会っていない父の顔が。
『なあ、親父』
そこまで言って言葉に詰まった。
何から話そう、とか。
そもそも話すべきなのか、とか。
パンパンに膨れた思考のせいで。
嗚呼、そうか。
今になって気がついた。
父が餃子を作ろうと僕を誘った理由を。
父はきっと僕と話そうとしていたのだ。
口下手な父なりのコミュニケーション方法だったのだ。
そうだ。
急いで全部話す必要なんてないんだ。
『餃子、作ろうよ』
バカみたいな数の餃子を作ろう。
話のタネなら、いくらだってあるんだから。
あなたはどうですか?
誰かと一緒に餃子、作ってますか?