25XX年でただ変わらなかったこと
俺のいるのは2600年を目前にした、ただのちょっとしたディストピア。
人間は赤ん坊の頃に情報との融合が当たり前になっていた。
脊椎には生体端子とナノマシンが埋め込まれ、外部記憶装置との接続による大容量のデータ通信は、人を管理の中に置く。
人の脳がネットで簡単に直結するこの世界では、ある意味では大きな自由がみんなの中にある。
人々の多くは一日の終わりか、それともずっとか、このバーチャルワールド「ライブス」に侵入する。
脊椎直結の、人の意識の融合空間。一生かかっても踏破しきれないマップに、様々なロケーション、数世代前の「ゲーム」を遥かに超えた、多分存在すべきでないユートピア。
ここで人々はため息をつくことにしている。
俺はスコル。なんとなくかっこよくてつけたライブスの中での名前。太陽のおっかけ。
ライブスの中では毎日のように屋台に通う。暗いビジネス街の外れの外れ、ほとんど誰も通らないつまらない場所に出店している小さな屋台。
ナノマシンの偽装効果のおかげで、ライブスの中であっても人と触れれば触感を覚えるし、酒を飲めば酔える。
腹は膨れないけど、リアルより美味しいものが食べられる。その辺で勘違いしたやつが毎年何人か死んでる。
「よっ。来たよ」
客はめったにいない。どこにいても、何を飲んでも自由なら、もっと人がいる場所でみんな過ごす。
「おっ、いらっしゃい~」
でも俺はこの店が好きだった。店員は2人。
「スコルちゃん!!」
元気があって、お団子にまとめたヘアスタイルが特徴的なネイと、のんびりしていて、包容力があって、とても可愛いラィム。
このライブスでは意識はたしかに人間だが、見た目は全員理想形だ。ライブスの中では全員が偶像だ。
俺はラィムが好きだった。彼女のおっとりしていて、音の高い特徴的な声を聞かなきゃ眠れない。
「それでね、ネイちゃん、さっきの続きだけど……」
ラィムは俺にいつもの酒を出すと、構わず隣のネイと話を続けている。俺はいつもそれを聞いて、相槌を打ったり笑ったり、たまに口を出したりして、茶化したりされたり。
何かを相談したり、逆にされたり、普段の話をしたり聞いたり。客商売じゃない、飲み仲間みたいな関係で。とにかく、ここに来てラィムと話す事が俺の大きな幸せだった。
それがある日の事、ライブスのデータが破損した。それによってライブス内のキャラクターは大きく変化する。突然老け込んだり、大人だったはずが子供のキャラクターになっていたり。これは世界規模のトラブルで、誰もが大混乱だった。
「ネイはちょっと大人っぽくなったよな」
「スコルちゃんは変わらないね!!」
「ねー……。いいなぁ、私なんてライブスの中なのにお化粧しないといけなくて……おばちゃんだよぉ……」
「ラィムさんだけなんでだろうね」
最初のうちは誰も原因や要因がわからず、管理側のバグだと思われていた。だが長い間修正されないと、人々は段々と感づいてくる。
キャラクターは、リアル側にいる人間の年齢を反映して変化したのだと。
後々にわかったのは、ライブスのキャラクターに生体情報の一部が組み込んでしまったということ。それがキャラクターの年齢を修正して反映させていた。
本当にアイドルをしていたキャラクターは引退騒ぎに繋がったり、街では少し嫌な賑わい方をしていた。ジジイにババアにガキがどうと、俺はそれを他所に、やっぱり屋台に変わらず通うだけ。
「いらっしゃい。今日も用意してあるよぉ」
「スコルちゃん!!!」
原因がわかってきた時には「本当はそういうことなんだ」とは思ったけど。
それでも俺がここに来ると、俺の倍くらい老けているラィムと、いつも元気なネイがいる。
「ありがとう。今日は何の話?」
「今日はね、ネイちゃんが……」
彼女は音の高い特徴的な声もまったりのんびりとした話し方も変わらない。
少し驚いたけど、結局変わらなかった。
やっぱり素敵だ。それだけの話。
夢で見た話を誇張して文章化してみたらこんな感じでした