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98.私も一緒に戦いたいの

「形式は妨害ありの1on1、スコアアタック! 一機ずつでどれだけドレイクを落とせたかが勝敗を決める! 記録はあのスコアボードに乗るよ!」


 ボートに乗ったガレルが指し示す先には、パネル式で得点を表示するスコアボードがあった。だいぶ古びた感じがするが、ちゃんと動くんだろうな?


「ボードの操作は部下にやらせるが、審査は厳正だ! このガレオンズ船長の名に誓って不正はしないと誓おう! 一匹落とせば得点に1がつく! アタシもあんたもそれは変わらない!」


「それを聞いて安心したぜー! だがよぉ、ドレイクはあんたんとこの一人が全部狩っちまったじゃねえか! 俺らが競うための獲物がいなくなったぜ!?」


 俺はドラッゾの背中の上で声を張り上げる。近づきすぎると船とドラッゾの羽がぶつかっちまうからな。仕方ないとはいえこの距離で話すのは、どうにも喉が疲れるぜ。


「そっちも安心しな! 進行方向をよく見るんだ!」


 進行方向だと? ガレルから船の舵の先へ視線を移せば……向こうから段々と見えてくる影があった。


「あれは、またドレイクの群れか……!? しかもさっきのよりも断然数が多いな!」


「そう、さっき狩ったのは餌を獲るために小分けにされたグループのひとつであって、群れの本体じゃあない! ブラックドレイクの群れってのは今見えてるデカさの集団のことさ! アタシたちはあそこへ突っ込んで、全てのドレイクを落とす! 最後の一匹まで狩りつくして、その時点でスコアの高かったほうが勝ちだ!」


 俺が勝てば、ヤチを引き抜いたうえでポレロへ帰ることができる。


 ガレルが勝てば、問答無用で俺のガレオンズ入団が決まり、ヤチも今のまま小間使いとして残ることになる。


 まさに今後の人生を賭けた大博打だな。だがただ玉がどこに転がるかを見守る運任せじゃなく、自分の手で勝ち取る勝負だってのはある意味で救いだぜ。そっちのほうが闘志が湧くんで俺好みだ。


「停船用意!」

「アイアイ!」


 ガレルの号令で船が空中で停止する。それに合わせてドラッゾもその場にとどまった。飛び出すのは同時じゃないといけないんで、その合図を待つんだ。


「気張ろうぜ、ドラッゾ」

「グラウ!」


 二人三脚の戦いをするからには互いに呼吸を合わせねえとなんねえ。なので勝負前に一緒に気合を入れてたら、俺へ急に声がかかった。


 船から呼びかけてくるのが誰かと思えば……ヤチじゃねえか。


「ゼンタくん……! お願い、私にも協力させて!」


「なにぃ……? 協力ってのはどういうこった?」


「私も一緒に戦いたいの!」


「……!」


 おったまげる。ヤチはとても臆病な性格をしていて、間違っても自分から戦うなどと言い出すやつじゃない。喧嘩だとかに関わらず、遊びだろうとなんだろうと勝負事ってものをそもそも避けるタイプだ。


 それがいったい、どういう風の吹き回しなんだ?


「前にも、ゼンタくんに助けてもらったよね。その恩返しもできていないのに、また助けられるだけじゃ……ダメだって思うから。だから協力して挑みたいの。ゼンタくんだけにこれからの全部を背負わせたくない!」


「あっはっは! こりゃ驚いた、まさかあの泣き虫がこんなことを言うなんてねえ……しかもこのアタシに挑むときた! こっちとしちゃ構わないよ! ゲームにゃ慣れた身だ、ハンデくらいプレゼントしてやらくっちゃあね。二対一で始めたっていいさ! だから、竜の背に乗せてやるかどうかはあんたが決めな。ゼンタ!」


「……、」


 ちょいとだけ考える。というのも、レベル5しかない、しかも『家政婦ハウスキーパー』が果たして戦力になるのかっていう疑問があったからだ。身も蓋もないことを言わせてもらえば、俺一人だけのほうが気兼ねなく動けて戦いやすそうですらある……だが。


 ヤチからすりゃあここで見てるだけってのは、我慢がならないってぇのもわかる。


 何より、あのヤチがここまで啖呵を切ったんだ。


 上手く戦えるかっつー不安は大いにあるが……それくらいは飲み込んでやるのが男としての度量ってもんだろう。


「いいぜ。来いよヤチ! 一緒にガレルに勝とうぜ!」


「……! うん!」


 嬉しそうなヤチを俺の後ろに座らせて、しっかりと鱗を掴ませた。


 戦うのはあくまで俺の役目で、やれそうなときだけサポートを頼むと伝えると、吐きそうにも見える非常に青褪めた顔でヤチはこくこくと頷いた。

 どう見ても極度に緊張してんぞこいつ。


 ……本当に大丈夫かね。乗せたことを若干後悔しちまうぜ。


「準備は整ったみたいだね!」


「ああ、どんと来やがれ!」


 ガレルの最終確認に肯定を返せば、スコアボード傍の船員が笛を口に加えながらフラッグを上げた。


「ピィイイイイイイッィイイイイイッ!」


 強烈な笛の音とともにフラッグがバサッと下ろされる。

 その途端にガレルのボートとドラッゾが飛び出した。


 最高速が同程度なのかわざとこちらに合わせているのか、全力で飛ぶドラッゾと並走してガレルもボートを動かしている。

 必然、ドレイクの群れに俺たちはほぼ同時に突入することになった。


 ――まずは手前の一匹だ!


「ドラッゾ、下を通れ! 【武装】、『不浄の大鎌』!」


 ドレイクは突っ込む俺たちに臆せず鳴いて威嚇してくるが、ドラッゾはそれに取り合うことなく指示通りにその下へ潜った。


「ナイスだぜ――うらぁ!」


 引っかけるように鎌の刃を当てる。振り抜かなくてもドラッゾの移動に任せていればそれで済む。ほとんど両断も同然に不浄のオーラで全身を汚染されたドレイクは、引き攣りを起こしたあとピタリと動かなくなって落ちていった。


「これでいいのか!」

「う、うん! スコアが1になったよ!」

「よーしよし、ボードは正確みてえだな!」


 この調子ならいけそうだ、と浮かれた俺の頭に冷や水がぶっかけられる。それはガレルのほうを見たせいだ。


 対戦相手の出だしの調子はどうかとふと確かめてみれば、そこには奴のサーベルの一閃でドレイク三匹がまとめて落ちていく光景があった……!


「ガレルさんのスコアが3になったよ……」

「い、一瞬で3ポイントも稼ぎやがるだと!」


 こっちが一匹倒す間に向こうは三匹。


 今はまだ2ポイントの差でしかないが、このペースが覆せないようじゃ俺たちはトリプルスコアをつけられてあっさり負けちまうことになる。


「はっはぁ! どうしたどうした、来訪者がタッグを組んでその程度だってんなら……あんたらは一生アタシの道具になんのがお似合いだね! 大事に使ってやるから受け入れたらどうだい!」


「けっ! だーれがそんな物扱いの運命を良しとするってんだ」


 冗談じゃねえ、こちとら仲間を待たせてんだ。それにヤチだってこんな荒っぽい連中のとこには放っておけねえ。絶対にポレロへ帰るんだ! 


 そのためにはこのゲームに勝たなけりゃならねえが……なぁに、ドレイクを落とす手段は何も斬るばかりじゃあねえぜ。


「あそこがいい! なるべくドレイクが密集しているポイントを狙うぞ!」

「グラァ!」


 群れが飛び回っている中でも特に数が多い範囲を目指そうとしたが、その途中で何か妙な感じがした。頭頂部にピリッとしたもんが走ったんだ。


「! ドラッゾ、上から来るぞ! 避けろ!」


 ギリギリで指示が間に合った。頭上っていう死角から急降下してくるドレイクをドラッゾはどうにか避けてみせた。おかげでだいぶ揺れたが、もちろん俺もヤチもこれで落ちちまうようなヘマは犯さない。


「グラァウッ!」


 ダイブしてきたドレイクを、ドラッゾがばっくんと噛み砕いて食っちまう。もう生きてないとはいえあまり妙なもんは食べないでほしいが、ともかくこれでスコアは2になった。


 にしても、今の感覚は……おそらく【察知】によるものなんだろうな。パヴァヌから戻ってきていくつか受けたクエストの最中にも、こういうことが何度かあった。以前にはなかったことを思えばやはりスキルの影響としか考えられない。


 まだLV1だが案外使えるな、ってのが今んとこの感想だ。


 実はクエストの最中にまたひとつレベルが上がって、他にも新しいスキルを身に着けているんだが、そっちもまだ効果がよくわかってないんだよな。


 試せるなら実戦中に試してみたいところだけどよぉ、さすがに今はぶっつけ本番をやるには適してないよな。


 絶対負けるわけにゃいかねえ場面なんだからそこは自重しとこうかね。


「よし、ここらがいいか! やってくれドラッゾ!」


 襲ってくるのを切り払いながら多くのドレイクがいるポイントに辿りついたところで、ドラッゾ必殺の腐食のブレスをお見舞いするように言った。こいつを浴びせてやりゃあ一網打尽、一気にスコアが稼げるぜ。


 ――という俺たちの狙いはちとわかりやすすぎたらしく、ガレルの奴にもモロ筒抜けだったようで。


「馬鹿だね。素直に大技を出させてやるほどアタシは呑気でもなけりゃお人好しでもないよ!」


「っ、躱せぇドラッゾ!」


 一直線にこちらへ飛んでくるガレルのボート。それに対しドラッゾはサッと身を翻して接触を避けることに成功した。


 ここぞとばかりにガレルが振るってきたサーベルにも当たっちゃいない……なのに!


「グラァ……、ッ!」


「なにぃ!?」


 確かに避けたはずだっていうのに、ドラッゾの翼に傷が走っただと!? 


 こりゃどんな手品だよ、オイ!


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