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94.赤毛の女ガレル

「というわけで、お前たちは今日からCランクだ」


「いや、何がというわけでなんだよ」


 早い早い。

 まだ組合についたばっかりで、顔を合わせた矢先じゃねえか。

 性急すぎてむしろ周回遅れな気分だわ。


「ちゃんと説明してくれよなトードさん」

「そうですよ、Cランク昇格の査定なんて受けた覚えがありませんよ?」

「……意味不明」


「待て待て、やいのやいの言うな。今から昇格理由を聞かせてやるから」


 ちょっとした茶目っ気のつもりだったのか、冗談が通じなくてトードは少ししょんぼりしていた。

 んなことで落ち込まなくていいから説明をはよ。


「メモリあたりは知ってるだろうが、昇格するかしないかってのは組合の判断によるもんだからな。本人たちが審査を申し込んで査定する、ってパターンが多いことは事実だが、明らかにランク越えの働きをしてると認められるパーティをさっさと上げちまうこともある。実力に見合った仕事をさせるのがランク分けシステムの意義だからな」


 組合の制度については詳しくないが、それは俺もわかる。

 なんせ俺たちだって経験済みのことだからな。


 ビギナー扱いのFランクはともかく、下位とはいえ冒険者扱いを受けるEランクからDランクへの昇格も百パー組合側が決めたことだ。言うまでもなくあんときの俺らは査定なんて頼んでねえ。


 カスカからの打診もあって急な展開には面食らったもんだが、それが組合の仕事ってことだよな。


「それにしても早くないですかー? いくつかクエストは受けましたけど、それだけでもうCランク相当だと?」


「確かにそうだぜ。他のパーティはもっと審査に時間をかけてるようだったけどな」


 Dランクに上がりたがっていたラステルズのことを思い出してそう言えば、トードはうむとしかつめらしく頷いた。


「もっともな疑問だな。だがゼンタよ、前にも言ったがランクの高低は色んな要素を加味して、総合的に決めるもんだ。受けたクエストの数だけが判断材料じゃない」


 来訪者として名を轟かせつつあり、更にはポレロを大ムカデの脅威から救った立役者でもあるカスカ。そんな実力者からの推薦もあってトードは半ば無理矢理にアンダーテイカーのランクを上げていたが……ひょっとすると今回もそれと似たようなもんなのか?


「考えられるとすれば……パヴァヌの組合長、ボパンの存在」


「その通りだ!」


 メモリの言葉に肯定を返したトードは、何やら紙を取り出して読み始めた。そこにはどうやら俺たち全員の査定に関する情報が書かれているらしい。


「クイーンラットの駆除に加えて低ランクパーティの護衛。新種の魔獣退治にクエストの妨害をしてきたアーバンパレス幹部の撃退。これだけでも難度としちゃあDランクを優に超えてるってもんだが、それに加えて他にもクエストを続けざまに片付けたうえ、組合長ボパン婆さんからの推薦、吸血鬼ヨルからの多額の寄付金まで入ってきている」


「「「…………」」」


 前半はともかく、後半は初耳な内容だ。いや、前半にしたって特級構成員エンタシスのメイルとはまともに戦ってねーし、クエストをここ数日連続でこなしたのは単に金が欲しかったからだ。


 現実と書類上の記述とでかなりのギャップがあるんだが……それはいいのか?


「お前たちがどういうつもりでやっていたにしろ、事実だけを記せばこの通りの功績だ。こりゃあ、ランクを上げねえわけにはいかねえだろ?」


 紙を懐に仕舞い、にやりとトードは笑った。さっき呼び出しを知らせてくれたパインの笑みによく似ている。やっぱあの人もこうなるってのがわかってたんだろうな。それを思えば、いきなりギルドハウスなんかの話をしたのも頷けるってもんだ。


「ヨルちゃん、組合に寄付までしてたんですね……それにボパンさんも、ポーチをくれるだけじゃなく推薦までしてくれていたなんて」

「……今度会ったら、もう一度礼を言うべき」

「だな。どっちにも頭が上がんねーぜ」


「そんじゃあ、決定ってことでいいな?」


 俺たちの雰囲気を見て了承と受け取ったらしいトードがそう訊ねてくる。そもそも拒否なんてできんのかって話だが、もちろん断るつもりなんてない。予想外のタイミングではあったが、ランクが上がるってんなら喜んで受け入れるさ。


「よし、たった今からアンダーテイカーはCランクまでのクエストを受けられるようになった! 中位とされるだけあって、ここからは戦闘クエストひとつとってもこれまでとはレベルが違うぞ。お前たちが倒したクイーンラットはかなり育っていた部類のようだが、それが標準、もしくは標準以下になると考えていい。アンダーテイカーもパーティとして順当に強くなってるだろうが、だからって油断なんかするんじゃねえぞ」


 なるほど。それなりに強敵だったアンクルガイストやクイーンラットが、Cランクからはそこらの雑魚的みたいな扱いになるってことか。そう考えると中位のレベルは確かに、下位とは一味違うな。


 このぶんだと上位のAランク、そして最上位のSランクともなるととんでもない難度のクエストになりそうで今から怖いな……つって、別に必ずしも最上位までいかなくたっていいんだがな。


 俺の第一目標はアーバンパレス並みに名を売って、クラスメート全員を見つけ出すことにある。有名になること自体が目的じゃあねえんだ。


 だが、そのためには最低でもAランクくらいにはならねーと無理そうではある。トードの知人だっつー古参来訪者にも会わせてもらいてーしな。


「最初は遠い目標だと思っていたのに、あれよあれよという間にふたつ手前まで来てしまいましたね。私はもうクロスを取り戻しましたけど」


「……少し前まで長くFランクに留まっていたのが、嘘のよう」


「メモリちゃんには半年間活動できなかった苦労がありますもんね……出会えて良かったです、本当に」


 女子二人が手を取り合ってじーんと感動している。やっぱ中位昇格ともなれば感慨もひとしおってか? この先の難儀を思うよりも純粋に今を喜べるってのは、ある意味で強さだな。うちの女子はそういうところが文句なしにタフだ。


「あー、喜んでるとこ悪いが、ちと別件で言っておきたいことがある」


「ん? なんだよトードさん。ランク以外にもなんか話があったのか?」


「確定じゃないんだがな。だが、プーカの街にある組合から気になる報告があってな」


 プーカとはパヴァヌとは別の方角にあるかなり離れた街で、ここらの地方の中心地的な場所らしい。パヴァヌの組合長のボパン同様、そこの組合長ともトードは既知の仲であるらしく、そんな仕事仲間兼友人からとある一報が入ったのだとか。


「地方の中心とはいえそんな遠くの街から、なんの報せが?」


「それがな……」


 と言いかけたトードの声をシャットするように、バンと激しく組合の扉が開かれた。


 何事かとそちらを見れば、そこには……海賊みたいな服装をした、赤毛の長髪が目立つ女がいた。組合にいる全員からの視線を浴びながら少しも臆さず、悠々とした表情で歩き出したそいつの後ろからは、ぞろぞろと部下らしき男たちが続いてくる。


「ちっ、本当に来やがったのか……! しかもずいぶんと早ぇお着きだこって」


 頭が痛そうな声と表情でトードがそう言った。


 いったいどういうことか、あの女はどこの誰なのか聞こうとしたんだが、なんと女が真っ直ぐこちらへと近寄ってきたことでそんな暇はなくなっちまった。


「よおトード。久しぶりだね、元気してたかい?」


 親しげ……というよりも慣れ慣れしい態度で挨拶をする赤毛の女に、トードはへんと顔を顰めてみせた。


「ああ! 鼻につく小娘のクソ生意気な顔を見なくて済んでたもんで、えらく快調だったぜ。今の今まではな」


「なんだぁてめえ!?」

「この野郎、船長に対してなんて口の利き方をしやがる!」

「磨り潰されてえかコラ!」


「やめな!」


 トードに対して気色ばむ背後の男たちを一喝した赤毛女。それでピタリと男たちの噴気は収まった。よく訓練されてる……ってよりも躾けられてるって感じだな、これは。


「ポレロはアタシの冒険者としての始まりの場所。そしてトードはアタシを冒険者に推薦した男だ。ここでは寛大になれる。寛大になるべきだ、そうだろう? アタシがそうしようってのに、部下のてめえらが勝手にグチグチ喚いてんじゃあないよ……」


 滲み出る迫力に、組合が静まり返る。


 女の部下だけじゃなく、いつでも騒がしいポレロの冒険者たちが軒並み口を噤んでしまっている。


 そんな異様な雰囲気の中でも……トードだけは普段と変わらなかった。


「それで? アポもなしにうちへ何をしに来たんだガレル。いや、今はこう呼ぶべきか――ギルド『巨船団ガレオンズ』の団長、ガレル・オーバスティスってな!」


 赤毛の女ガレルは、まるで獅子を思わせるような獰猛な笑みを見せた。


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