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90.サラの本気を引き出そうと

誤字報告ありがとうございまスー

「おいおい……じゃあこの決闘にはなんの意味があったんだよ?」


 元からサラを認めていたってんなら、別に戦って実力を示す必要なんてなかったんじゃねえのか。


 そう思った俺だが、カロリーナはその意見に首を振った。


「そこはもちろん、ルチアの照れ隠しもあるにはあるクマ」


「カロリーナ!」


「だけどそれだけじゃあないクマ。だってサラは、教会を出るんだクマ。私たちとも離れ離れ。何があっても守ってあげられなくなる……ルチアはそのことを何より憂いていたんだクマ。だから、多少強引にでも焚きつけて、今のサラの本気を引き出そうとしたんだクマ」


「と言ってるが、ホントにそうなのか?」


 ルチアに問えば、若干ふてくされたような態度で肯定が返ってきた。


「……そうだよ。サラには抜群の才能がある。だが、決して器用なタイプじゃない。人の懐に入りやすくもあれば、反感も買いやすいタイプだ。戦闘面だけでなくそういったところも、サラをよく知る身からすれば不安でたまらないものだ」


「ルチアさん、ちょっと言い過ぎでは?」

「いやわかる。めっちゃわかる」

「ゼンタさん!?」


 ルチアの言い分は俺にとっても共感できるもんだ。サラにゃ悪いがこればっかりは嘘をつけん。サラの奔放な性格に助けられたこともあれば、頭を痛くさせられたことだって何度もあるからな。


 俺が同意したことで裏切られたようなリアクションでショックを顔に出すサラに、ルチアはくすりと笑って。


「けれど、杞憂だったね。サラは私が思う以上に強い。そしてもう一人きりでもない。こうも早く自分の居場所を作っているなんて、正直意外だったよ。ネクロマンサーと組んでいると知ったときにはどういうことかと困惑したものだったが……その点も謝ろう」


「へ? なんの謝罪だよ」


「君たちを軽視するような発言をしたことだ。あれはサラを怒らせるための挑発でもあったが、私の本心でもあった。得体の知れないネクロマンサー、というのがゼンタくんとメモリくんへの印象だったものでね」


「だけじゃくて、嫉妬も込みだクマ。ルチアはサラとチームを組むのを楽しみにしていたんだクマ」


「カロリーナ……! 君こそ私を挑発しているのかな!? 戦わなかったのが欲求不満なら相手になるぞ!?」


「お、落ち着いてくださいルチアさん。カロリーナさんはたぶん誤解を解こうとしてくれているんです。そのおかげで私も勘違いに気付けました」


 元の大きさに戻った、形見のクロスをサラは胸の高さに掲げた。


「私がクロスハーツを躊躇いなく受け取れるように、決闘の形式を取ったんですね? ……ルチアさんがどれだけの規則違反を犯して届けてくれたか。そのことになるべく私の目が向かないようにしながら」


「く……カロリーナ、君のせいだぞ。せっかくあとは捨て台詞を吐いて去るだけだったのに」


「どーせあとからサラが冷静になればバレることだクマ。だったら最初からわだかまりなんて抱えるべきじゃないクマ!」


「それは、そうかもしれないが。はあ……こうなったら仕方ない。全部打ち明けるとしよう」


 ルチアはサラの居所を教会に伝えていない。


 どころか、行方不明での死亡扱いすらも変えていないと白状した。


 マスクとフードローブで全身をすっぽりと隠した怪しい風体をしていたのも、万が一にもシスターの身分を他の人間に気取られないようにするためだったという。


「……あなたたちは、どうやってサラに辿り着いた? アンダーテイカーの噂は確かに広まっているけど、それはこの周辺の街でしか聞けないはず」


「そうだぜ、あんたらが知ってるってことは結局、教会自体もサラの噂を聞きつけてるってことじゃねえのか?」


「いや、それはない。私たちが知ったのは、たまたまサラの情報を報告する現場に居合わせたからだ」


「報告する……って、誰が誰に私のことを報告するって言うんですか」


 ハテナマークを浮かべるサラに、ルチアは少し呆れたようだった。


「やっぱり思い至っていなかったか。教会はセントラルと近しい。直接関わることは少ないが、運営上は一心同体にも等しい。そして、セントラルが抱え込むのは教会だけではない……ここまで言えばわかるかな」


「……! ひょっとして『恒久宮殿アーバンパレス』ですか!?」


 サラがその名を出したことで、俺にもようやく閃くもんがあった。


 国立病院と戦闘集団っていう仕事の違いはあるが、立場だけで言えば教会とアーバンパレスはめちゃくちゃ近い位置にあるじゃねえか!


「その通り。シスターや大シスターにはあちらと個人的な繋がりを持つ者も多い。同じ任務に当たる機会だってあるのだからそうもなる……特に、大シスターであるあいつ・・・には縁の深い相手がいるようだ」


「クララさんにアーバンパレスのお知り合いが……!?」


「知らなかったクマ? まあ、見習いだったサラには知る由もないクマか……私とルチアは偶然、クララとマーニーズと名乗る女の会話を聞いてしまったクマ。私の見たことないやつだったけど、向こうの幹部の一人らしいクマ」


 マーニーズ……俺たちも初耳の名だが、幹部だと言うからにはそいつもあのメイル・ストーンと同じく、恐ろしく強い特級構成員エンタシスの一員なんだろう。


 レヴィとジョニー経由か、メイルとキッドマン経由か。時期を思えばおそらくは前者だろうが、とにかく冒険者サラ・サテライトの存在を知ったマーニーズという女は、前からその名に心当たりがあったんだろう。


「クララが話していたんだと思うクマ。そのことを覚えていたマーニーズは、何故か一緒に連れ戻すことを提案していたクマ。でもクララはそれをきっぱりと断ったクマ。それに驚いたせいで私たちは見つかっちゃったクマ」


「ふん……振り返ればあそこで話していたのは偶然とは思えないがね。見つかった私たちを話に参加させたことや、そして他の者への口外を一切禁止したこと。転落を証言してサラを逃がしたときと同様に、あいつは私たちがどう動くかも見越していた節がある」


 もしもルチアやカロリーナよりも上の立場である大シスターのクララが、エンタシスのマーニーズと連れ立ってサラを奪還しに来ていたら……俺たちになすすべはなかったかもしれねえ。


 だが、そもそもがサラを逃がした側であるクララがそんな真似をするはずがなかった。


「マーニーズはやたらと残念がっていたよ。あれは少々、薄気味の悪い女だったな。クララへの義理というよりもあの女自身の執着が何かしら垣間見える態度だったが……クララの拒否で結局は大人しく帰っていった」


「サラに執着って……なんでだよ」


「さてね。それもサラだけとは限らないかもしれない。同行者として君の話をするときも大層楽しそうだったしな」


 そこでメイルの去り際の言葉が脳裏によぎった。『面倒なのに目を付けられているぞ』……メイルは確かにサラへそう言った。


 まさか、その面倒なのがマーニーズなのか? そしてそいつはサラ単体というよりも、俺も含めて。ひょっとするとメモリも含めてアンダーテイカーそのものに目を付けているって可能性もあるのか……? 


 どっちにしろなんでだよって感想は変わらねーが。


「それも私たちに知らせようと?」


「一応、警告ぐらいはするさ。もののついでだしね」


「一番の目的はサラの言う通り、クロスを届けることだったクマ! 本部からこっそりとそれを持ち出すのはけっこう苦労したクマよ? それとなくクララが手を貸してくれなかったら無理だったクマ! 私も最初は諦めかけたけど、ルチアが『絶対に届けるんだ』って聞かなくて――」


「もう黙れカロリーナ! 弾丸が君のお喋りな口を吹っ飛ばす前にね……!」


「こ、怖いクマ! 冗談でも銃口は仲間に向けちゃいけないクマ!?」


「冗談で済めばいいけどな……!」


「ありがとうございます、ルチアさん、カロリーナさん。お二人からの恩は私、一生忘れません。いつかきっとお返ししますからね」


「「へ?」」


 漫才めいたやり取りで盛り上がる二人へ、サラは構わず感謝の言葉を口にした。すげーな、二人ともテンションの落差でぽかんとしてるじゃねえか。ここに躊躇なく割っていけるあたり、さすがサラって感じだぜ。


「クロスハーツは、いただきます。代わりにこちらは教会に返還しますね」


 そう言ってサラが差し出したのは、これまで使っていた例の小さなロザリオだ。


「見習い用の支給品……ちゃっかりと持ち出していたか」


「はい。しばらくはこれだけが心の拠り所でした。でも、私にはもう必要ありませんから」


「……ならば返してもらおう。これは正真正銘、教会の物だからね」


 澄ました口調で、だけど寂しさを隠し切れない目でルチアはロザリオを受け取った。


 これで本当にサラは、教会とは無関係の人間になったんだな。


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