表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/557

89.これぞ母の愛ですよ!

「なんだって!? くっ……!」


 サラの細腕から放たれたとは思えねえ勢いでぶっ飛んでいく巨大クロス。その先にはルチアがいる。『プロテクション』がかけられているそれがぶち当たればかなりのダメージになるだろう。


 だがルチアはサラの暴挙にたまげながらもサッと身を翻し、クロスの投擲を避けた。


「一縷の賭けのつもりだったか!? 確かに意外性はあったが、そのために唯一の武器を自ら手放すのは愚挙としか言えないな!」


 悪手を咎めるように無防備となったサラへ銃を向け直すルチア。


 だが、銃口に晒されながらもサラの表情が変わらなかったことに怪訝な目をした、次の瞬間。


「ぐあっ……!?」


 Uターンして戻ってきたクロスに、ルチアが思い切り撥ね飛ばされた。


 まともに食らったことで顔を顰めつつもルチアは足から着地する。見事な身体能力だが、痛みまでは誤魔化せてない。冷や汗を滲ませながら、返ってきたクロスをキャッチするサラを睨みつけている。


「手放すですって? そんなはずがないじゃないですか。私はもう二度と、母から受け継いだオンリークロス……この『クロスハーツ』を失いたくありませんから!」


「ぐ……、二段構えの投擲とは恐れ入った……こんな攻撃法を習得していたのか。だが、投げたクロスが戻っていくのはどういう理屈だ?」


「そんなの決まってます。これぞ母の愛ですよ!」


「……わけがわからない。だから私はお前が嫌いなんだ!」


 ルチアがまた銃をサラに向ける。キュウゥン、とさっきよりも強い光がそこに溜まっていく。


「我がオンリークロスの名は『イーグルアーツ』……その真価で以ってお前の傍若無人を撃ち抜く!」


 周囲を照らす一際強い閃光。


 その煌めきとともにそれは撃ち出された。


「『バニッシュショット・ダブルバースト』!」


「……!」


 巨大な光の弾。迫るそれに盾を向けたサラだが、接触の瞬間にドッガン! とさっきまでの弾とは比べ物にならないほど大きな衝撃が弾けた。


 技の名前からして魔力の弾丸をふたつまとめて撃っているようだが、威力は単純に倍程度じゃ済まねえようだ……! 盾で受けてもサラの体が押されている!

 

 そしてそこへルチアは容赦なく畳みかける。


「まだまだだ――『トリプルバースト』!」


 ダブルよりも更に巨大になった弾がサラを襲う。目も眩むほどの光の爆発が起き、


「ぐっ、くうぅ……っ! 『シールドプロテクション』!」


 それでもどうにか弾丸自体は防いだサラだが、見るからにギリギリだった。完全に押し負けて、頑丈なはずの『シールドプロテクション』すらも砕けている。


 しかし片手を地面についてどうにか耐えたサラは、すかさず術をかけ直してクロスに『プロテクション』を張った。


「『クロスブーメラン』!」


 そしてそれを投げつけた! 


 連続であんなもんを撃たれ続けたら勝ち目はない、多少強引にでも攻勢に出るのは必要なことだ。


 とは俺も思ったが、サラが勝つための覚悟をギンギンに決めているのと同じように、ルチアにもまた覚悟があったみたいだ。


「今こそが本当の無防備だな……!」


 自分めがけて飛んでくるサラの武器、クロスハーツ。避けるか、撃ち落とすか。痛みを嫌うならそのどちらかを選ぶことになるが、ルチアはそのどちらをも選ばなかった。


 ルチアの銃口はあくまでも、盾の奥。


 サラだけに照準が定められている。


 マズいぞ! ダブルで二発、トリプルで三発を消費したとしても……六連装のシリンダーにはまだ一発、弾が残っている計算になる!


「『バニッシュショット』! ――ぐあっ!」

「! きゃぁあっ!」 


 クロスと光の弾丸がすれ違い、それぞれの敵へ命中する。ルチアは背中だけでなく腹にも盾がぶち当たったし、サラは生身で魔力の爆発を食らった。


「「う……『ヒール』!」」


 同時に傷を負った両者は、同時に回復魔法を使った。ある意味で息が合っている。繰り出す一手も次の一手も高いレベルでシンクロしている……だが、ここからに明確な差が生まれた。


「はぁあああ!」


「ちっ……!」


 一足先に傷を癒したサラが、雄叫びを上げながら駆ける。どうやら『ヒール』の技量ではサラに軍配があるようだな。


 それを知っていたからなのか、ルチアは忌々しげにしながらも焦ることはなく、近づいてくるサラに腕だけを動かしてイーグルアーツを向ける。


 まだ体を動かしきれないんだろう、その動作は今までに比べると幾分かノロくなっていたが、それでもサラが距離を詰め切るよりは断然速い……!


「お願い、『クロスハーツ』!」


「なに……っ!」


 ルチアの計算違いは、クロスハーツの機動性。それに尽きるだろう。おそらくただ手元へ戻ってくることしかできないと思い込んでいたんだろうが――見ている俺もそうだと思ってたくらいだ――サラの操る十字架は予想外の動きを可能としていた。


 ルチアをぶん殴って宙を舞っていたクロスハーツが急に意思を持ったように、魔力の弾丸よろしく軌道を変えた。サラを銃口から隠す位置に振り落ちてきて、地面に突き刺さったんだ。


 これではルチアはサラを撃てない。


 撃ったところで弾丸は射線上に立ち塞がるクロスハーツに阻まれるんだからな。


「猪口才な真似を!」

「褒め言葉ですね!」


 クロスハーツの下へ辿り着いたサラはそれを拾う、かと思いきや飛び乗って足をかけ、そこから跳躍した。


 盾を装備し直したところへ弾丸を浴びせようと目論んでいた様子のルチアは、そのまさかの行動にぎょっとしたようだった。


「はっ!」


「ぐふ!」


 前方宙返りからの妙に様になった浴びせ蹴り。サラの全体重が乗った踵を頭部にぶつけられたことでルチアの足元がグラついた。脳に来ているってのが丸わかりだ。


「ほっ!」


「がふっ!」


 すたっと着地したサラがI字バランスの如く脚を振り上げ、今度はルチアの顎を足裏で打ち抜いた。


 ただでさえ脳が揺れてるときにこんなことをされちゃたまらない。今ごろルチアの視界はどろっどろに溶けて何がなんだかわからない状態になっているはずだ。


 しかしサラはそこで手を緩めることをせず、背後にあるクロスハーツを素早く地面から引き抜いて、ぶんと回った。


「『シールドバッシュ』!」


 きっとそれがサラ元来の攻撃法なんだろう。


 鍛錬を感じさせる重心移動で盾を打ち付けられたルチアが面白いように吹っ飛んでいった。……そんで、そのまま動こうとしない。


 もはやカウントを取るまでもねえ。


 保証してもいい、あれはもう……起き上がれやしねえぜ。


 今のは見事な連撃だった。割と手が早いってので薄々感じちゃいたが、それでもビックリだ。サラのやつこんなに動けたのかよ!


「うん。これはサラの勝ちクマね」


 カロリーナがそう判定したことで決闘は終わった。


 それを受けて、息を整えていたサラは構えを解き、倒れているルチアの下へと移動した。


「『ヒール』」


「う、……」


 今の今まで戦っていた相手を癒す行為。


 傍から見てるとそれは奇妙にも感じるが、サラとルチアは元々仲間だったんだから、サラからすりゃあ普通なことなんだろうな。


「私が勝ちましたよ」


「……ああ。負けを認めないほど、子供じゃないさ」


「負けを認めてほしくて戦ったわけじゃありません。……私のことを、ルチアさんに認めてほしかったんです」


「…………、」


 大の字になって空を見上げたまま黙り込むルチア。返事をしてくれない彼女にサラは少し悲しげな顔になったが、そこに空気を読まない陽気な声が割り込んだ。


「クマママ! それなら心配いらないクマ。ルチアはとっくにサラのことを認めているクマ! そうでもなきゃ教会に内緒で、変装までしてサラを探して会いにきたりなんてしないクマ!」


「え……?」


「……! この、カロリーナ!」


 余計なことを言うな、とばかりに起き上がってそこらの草を毟って投げつけるルチア。それがカロリーナに届くこともなく風に舞っていく中で、呆けた顔のサラが訊ねた。


「そうなん、ですか? ルチアさん。シスターが身分を隠すなんて、私も変だとは思ったんです。だからマスクの二人組のことを聞いても、きっと教会の人間ではないだろうと……そんなことをしたのは、私のためだったんですか?」


「くっ……!」


 いっそ攻撃を受けたときよりも険しい表情をしていたルチアだが、やがてふっと観念したように顔付きを和らげ……それからゆっくりと頷いた。


「ああ、そうとも。私は最初からそのつもりだった。つまり……サラに、クロスハーツを届けるためにここへ来たのさ」


 ルチアの頬は、クールな顔立ちに似合わないくらい真っ赤になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ