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88.ここからが本番

 光が収まったあとのサラとルチアには、さっきまでとは違う明確な変化があった……いや、正しく言うなら変化があったのは二人の手元だ。


 サラのクロスと、ルチアがもうひとつ取り出したおそらく自分用のクロス。


 それが同時に形を変えたんだ。


「デカい十字架と、白い拳銃……!?」


 サラのクロスはデザインそのままに巨大化をしていた。裏側に取っ手でもついているのか、サラはそれをまるで盾でも持つみたいに構えている。


 対してルチアの手にあるのは、独特な形状ではあるがどう見たってハンドガンだ。撃鉄はないが引き金とシリンダーが存在している……六連装のリボルバー! あんなもんをまさかこの世界で拝むことになるとは!


「行くよ、サラ」


 返事を待とうとはせずに、ルチアが銃口をサラに向ける。シリンダーへ光が充填されるように収束し。


「『バニッシュショット』」


「『シールドプロテクション』!」


 ドン、と発射された輝く弾丸。それに対しサラは、巨大なクロスに『プロテクション』を張ることで本当の盾のようにして射撃を防いだ。どかんと光の爆発が起こったが、サラは無事みたいだ。


 今のは相当な威力があったように見えたってのに、ふらつくことすらしないなんて……ありゃいつもの『プロテクション』よりも強ぇな!?


「どうなってんだ、あの拳銃も盾も……?」


「……ルチアの武器は、わたしの『屍細工』に近い。光の魔力を特殊な道具で撃ち出すことで、威力・弾速ともに飛躍的に高める……そういう手法」


「クマママ、その通りクマ!」


「熊女!」


「カロリーナって呼んでほしいクマ」


 しれっと俺たちの隣に立ったカロリーナは、対峙する二人へと視線を向けた。


「私たちシスターはそうと認められた日に、専用装備のクロスを授かるクマ。それより以前から用意されてはいて、訓練もするけど、常に携帯が許されるのは本部で聖女様からシスターの位を授与されたときからだクマ。だから、母親の形見と言えどサラがあのクロスを使って実戦を積んだ回数はそう多くないクマ……」


「なんだって? じゃあやっぱりこの勝負はサラが不利なんじゃねえか」


「ん、そうでもないクマ」


 見てみろ、という態度で顎をしゃくるカロリーナ。促されるままに俺もそちらを見れば。


「このくらい凌げて貰わなくては話にならない」


「私だって、今のを防げたくらいじゃ自慢しません」


「ふん……なら、続けていこうか」


 そう言ったルチアが続けざまに引き金を引いた。今度は一発じゃなく五発。爆発を巻き起こす光の弾丸がまとめてサラに向かっていく――これにはさすがに耐え切れないのではないか、と思ったが。


「……! 無事だ! サラのやつ、傷ひとつついてねえ!」


 爆発が収まっても、サラはしっかりとそこに立っていた。どうやらクロスで全部の弾丸を受け切ってみせたらしい。


「防御壁を盾に纏わせる『シールドプロテクション』。通常の『プロテクション』よりも硬度が増して、持続性もセットになった高等な奇跡だクマ。しかもサラのクロスはそれだけでも特別、その堅牢さは並大抵じゃないクマ!」


 高等な奇跡だって? サラはそういうのを使うときは、祈ることで魔力をブーストさせる必要があったはずだが……。


「あっ! また動くぞ! 今度はサラ・サテライトのほうからだ!」


 まだ首を擦っちゃいるが、だいぶ顔色も戻ってきたビートはいつの間にか決闘の観覧に夢中になっている。

 窒息させられた相手がすぐ傍にいるってのに、こいつもまた逞しいやつだな……ひょっとして冒険者なんだろうか?


 っと、それより今はサラだ! 


 盾を持ったって結局は攻撃に繋がらねえ。


 防御がダントツ優れてんなら負けることはねえのかもしれんが、それでどうやって勝つつもりだ!?


「次は私の番です!」


「手番を譲ってやるつもりはないよ」


 デカい盾を持ったまま走り出すサラへ冷静に言い返したルチアは、キュィインとまた拳銃に光を溜めた。あれがあいつ流のリロードってわけだ。


「『バニッシュショット・ブレイク』」


 装填される上限六発を撃ち放つ。しかし、さっきと違って今度は狙いを定める様子もなくずいぶんと無造作に撃った。


 何をしてんだ? これじゃ一発もサラに当たらねぇだろうに。


「なに……!?」


 揃って明後日の方向に飛んでいく弾丸が、突如としてくいっと曲がった。空中で軌道を変えたんだ。それも一発一発が違う動きをしている。


「……!」


 まったく別の角度から、ほとんど同時に六発の弾丸がサラへ襲いかかる。


 最初の一発を転がって躱し、素早く盾を持ちあげて二発目を受け、その衝撃に逆らわずに体を流して三発目もギリギリで回避した。が、地面に着弾したそいつの爆発でいよいよ体勢が崩れちまった。それでも四発目には盾を向けたサラだったが、続く五発目、六発目にはもうなすすべがなかった……!


「なんてこったよ……!」


 二連続で光の弾丸を浴びても、サラは投げ出されるどころか倒れもしなかった。


 クロスを地面に突き立てるようにして強引に自身を支えている。


 その気概には天晴れと言う他ねえが、ただ倒れなかったというだけで、傷がないわけじゃない。サラの全身は無残にもボロボロになっている……これじゃもう決闘なんて続けられねえぞ!


「いや、まだだクマ。むしろ勝負はここからが本番クマ!」


「なんだと!?」


 サラの敗北はもはや避けられない。


 という俺の結論をカロリーナが真っ向から否定する。


 この状況からどうやって本番が始まるのかと耳を疑った俺は、すぐに今度は自分の目まで疑うことになる。


「――『ヒール』!」


 サラが回復魔法を唱えて、自分の傷を綺麗さっぱり消し去った。肌も服も一瞬で元通りだ……!


 そのことには心底ホッとしたもんだが、俺には何が起きてんのかさっぱりわからねえ!


「どういうこった? 今、祈りも詠唱もなしに『ヒール』を使ったよな? そんなことサラにはできないはずだろうが」


「……それも、ルチアのクロスと同じ手法だと思われる。サラのクロスも、おそらくはただ硬いだけの盾じゃない」


 メモリの推測に、カロリーナがクマママ! と愉快そうにまた笑った。


「どっちもよく見てて感心クマ。そう、現在のサラとルチアは、どちらもクロスの力によって常に祈りを行なっている状態! つまり常時魔力がブーストされているクマね! 私たちシスターはそれで奇跡の遂行者となるんだクマ!」


「常時魔力ブーストだと……!?」


 これまで溜めと呪文を唱える時間が必要だった『ハイプロテクション』や『リターン』も、今のサラならその場で即使えるってことか……!?


 いやまあ、決闘にそぐわないんでこのふたつの出番はないだろうが、魔力が続く限り一瞬で回復できるってのは考えるまでもなく文句なしに強い。


 だが、本当にそんなことが可能なのか?


「……わたしがネクロノミコンで禁忌を使うのと同じ」


 カロリーナに聞こえないようにしてるんだろう、メモリが小声でそう告げてきた。


 なるほど……その言葉でちょっと理解ができたぜ。


 ネクロノミコン所持のメモリと似たような状態に、今のサラはあるわけだ。


 そんでメモリが闇魔法の禁忌ってカテゴリを使うのと同様に、サラは光魔法の奇跡が得意分野ってことだな。


「治したか。だからといってお前が有利になったわけじゃあないがな」


 完治したサラがぐっと盾を構え直すのを見て、ルチアは即座にリロード。そして引き金を引く。


「『バニッシュショット・ブレイク』」


 またあの技だ! 見ている俺とメモリの顔は険しくなるが、当のサラは特に迷うこともなく前進を始める。空中で進行方向を変えてまたしても降り注ぐ弾丸――それにもさっきとまったく一緒の受け方をした。


「うぐ……! 『ヒール』!」


 やはり盾だけでは受け切れずに何発か貰ったサラだが、食らう最中から回復することで被弾を強引になかったことにした。その間も足を止めずに前へ進めている……そこで俺はサラが何を考えてんのかようやくわかった。


 サラのやつ、いくら負傷したってそのそばから治せば構わないっていう覚悟を決めてやがんだ! 


 魔力ブーストが続いてるのならそれも合理的なのかもしれねえが、それにしたって痛いもんは痛いはずだろ。これは常軌を逸した戦い方だぞ……!


「相変わらず無茶苦茶なやつだ……!」


 俺とまったく同じ感想がルチアの口から飛び出す。


 やはり同門からしてもサラの戦い方には呆れるものがあるらしい。


「無茶だろうとなんだろうと勝つためにはこれしかありませんから。そしてもう、ここは私の距離でもあります」


「お前の距離だって? どうするつもりだ、その位置では盾を振り回したところで私に届くことはないというのに」


「はい、まだ届きませんね。ですから――こうするんです!」


 えいやっ! と。


 サラは一見可愛らしくすらある掛け声で、とんでもない勢いで盾をぶん投げた!


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