84.そろそろオシャレを楽しんでも
毎度誤字報告助かってます!
「どっちって? 俺はアーバンパレスの連中がまた絡みに来たのかと思ったんだが。だってほら、メイルとキッドマンが俺たちのことも報告してるはずだろ?」
「それも考えられる。そして、これのことも」
すっとローブの内から黒紫の本が覗く。
そうだった、ネクロノミコンのことをすっかり忘れちまってたぜ。
「そいつの前の所有者がいよいよ取り返しにやって来たってことか……確かにそれも十分にあり得るな」
結局それらしいのがいつまで経っても現れないんで気が抜けちまってたが、向こうもこっちの油断を待ってたって可能性もある。
単純に移動に時間がかかってただけなのかもしれんが、なんにせよミカケ村をホロウの養殖所にしていた趣味の悪いのが敵なんだ。
もし二人組がその関係者か、あるいは当人なんだとすれば、最大限の用心はしとかなくちゃならん。
「そうですね。アーバンパレスか、ネクロノミコンか。私もそのふたつが有力だと思います……でも、ひょっとしたら」
「ひょっとしたら?」
サラらしくもない歯に物が挟まったような物言い。それを不思議に思いつつ聞き返したが、結局サラは考え込んだ末に首を振った。
「いえ、ごめんなさい。これは思い違いでした。マスクにローブなんて考えられないですから……」
それより! と殊更明るくサラは話題を変えた。
「どうせですからクエストだけじゃなく、パヴァヌの街中を見て回りませんか? 私、ショッピングをしたいんです!」
「本屋に行きたい」
「お、即答ですねーメモリちゃん。いいですよ、行きましょう! ゼンタさんはどこに行きたいですか?」
「俺ぇ? や、別にこれと言ってねーから……」
考えるまでもなく、見たいもんも欲しいもんも特にない。
と言えばサラは駄々っ子みたいな仕草で俺の手を引っ張った。
「えー。そんなこと言わず一緒に行きましょうよぉ。ただお買い物がしたいんじゃなくて、この三人でお買い物がしたいんです!」
「わかったわかった、ついてくから放せって。んで、肝心のお前は何を買いたがってんだ?」
そう聞いてみるとサラはにっこりと笑って、自分の着ている簡素なデザインの白いワンピースのスカートを両手で摘まんだ。
「もちろん、お洋服ですよ! 『クリーン』で同じ服ばかり着るのは極貧生活なら合理的ですけど、今は不安定ながら収入もありますから。そろそろオシャレを楽しんでも罰は当たらないと思います!」
おー、新しい服が欲しいってか。
いかにも女子だねえ。
男なんてのは真冬以外はタンクトップ一丁でも過ごせるが(今の俺だ)、女はそりゃそうもいかねーか。
「あなたも、この機会に新調したらいい」
「そうですよゼンタさん。口にはしませんでしたが、その恰好は街ではちょっと浮いてます。せーふくなんてこちらの世界にはありませんからね」
「言われんでもそれくらいわかってるっての。ただ、これらは来訪者の体の一部みてーな扱いを受けてんのか、どんだけ暴れても破れたりしねーだろ?」
頑丈な『骨身の盾』を粉砕するインガの強烈な拳を食らっても、服にゃ一切の傷がつかなかった。
耐久性は折り紙付き……つーか俺と一緒でシステム的なもんに守られてると見ていいだろう。
「絶対ダメにならねーし、汚れても水さえあれば一瞬で綺麗にできるし、とにかく便利なんだよな。着替える気にならねー」
「他の服じゃ同じようにならないんですか? 来訪者さんが着たらどんな衣装でもそうなるのかと思ってました」
「はは、なに言ってんだよサラ。そんなわけがあるはず……あれ? どうなんだろう」
『装備
スキル
ステータス』
サラの何気ない言葉に「そーいえば」と思い出した俺は、画面を開いてみた。そこには記憶していた通りに『装備』の欄がある。
「思えばスキルとステータスばっかり気にして、ここは一度も見てなかったな」
新鮮な気持ちでポチっとな。
『装備一覧:【ずぼらなタンクトップ】
:【くたびれた制服(シャツ)】
:【上質な革の魔具ポーチ】
:【くたびれた制服(ズボン)】
:【よれよれのスニーカー】』
今身に着けているもんが上から順に書かれてる。「ずぼら」とか「くたびれた」とか余計な文言が気になったが、ひとまず画面を開きっぱなしのままで【武装】を発動する。
「……変化はねえか」
骨のナイフとも肉切骨とも追加で書かれることはなかった。……武器はダメってことなのか、手に持ってるだけじゃ装備品にはならねーってことか?
普通のゲームならこれも装備のひとつだと思うんだが、ここでは少し意味合いが違ってるのかもしれねーな。
そんで、もひとつ気になるのがだ。
「ボパンさんから貰った次元格納ポーチもしっかり装備品になってんな……」
制服や下着のタンクトップは、俺がこっちの世界にやって来たそのときに着ていたものだ。
だから俺は元からつけていたもんしか「来訪者の装備」にはならねーと思い込んでいたんだが、ここに付け加えられてるってことは……ポーチも壊れないようになってるって考えていいのか?
「試してみてーところだが、とてもじゃねえが怖くてそんな真似できねえな。億だぜ、おい。これでもしあっさり壊れちまったらボパンさんにもトードさんにも顔向けできんぜ」
サラが億は下らないと憶測を言ってもボパンは否定しなかった。
つーことはこいつにはガチでそれくらいの価格がつくってことだ。
そんな高価なもんを腰に巻いてるのかと思うとおっかねえにも程がある。
「なら決まりですね!」
「あ? 決まりって?」
「……ポーチの安全性を確かめるためにも、他のアイテムで試すべき」
なるほど! なんか安い服でも買って着てみて、それが壊れないか試すってことだな。もしそいつも来訪者の装備扱いをされるんだとすれば、ポーチも同様の扱いを受けるってことが確定するわけだ。
荷物持ちくらいはしてやるつもりだったが、こりゃ是が非でも俺自身も買い物をしなくちゃならねーようだ。
「よし、そんじゃ出向くとするか……人生初のウィンドウショッピングってやつによぉ!」
「思いのほか、すごい意気込み……」
「ゼンタさんも本当は衣装を変えたかったのかもですね」
◇◇◇
まずはメモリご所望の本屋巡りをして、大型のとこから小さな古書店まで覗いてみたが、メモリのお眼鏡に適ったのはたった一冊だけだった。残る二冊のネクロノミコンのどっちかでもひょっこり見つかるのを期待してるのかと思えば、そんなことはなかったらしい。さすがに本屋で売られているなんてことはない、とはメモリ本人の談だ。
ともかく、『解剖学と闇魔法の普遍的密接』というタイトルからしておどろおどろしい本をポーチに納めた。
普通に持つと本ってのはかさばるからな。
メモリが読みたいときに取り出してやろう。
次にサラご希望の服屋巡りだ。多くの店を回りつつもざっと見ただけで本棚に何があるかを把握してさっさと出ていったメモリと違い、サラは同じような数の店に入りつつそのひとつひとつでじっくりと服を吟味した。だから相当に時間はかかったものの、なんとか満足できるだけの成果を得られたようだ。
えらく気に入ったらしいマキシワンピース(?)とかいう結局今着てるのと似たような色をしたワンピースを中心に、それに合わせた靴や上着をサラは選んでいた。
全体のコーディネートの感想を求められたんで見て感じた通りに可愛いと言ってやったら、めちゃくちゃ照れていた。
こいつこういうとこあるよな。
ちなみに、ローブだけは脱がないと頑として譲らなかったメモリにもサラのチョイスでおニューの服が押し付けられた。
というのもこいつ、十三歳のくせしてローブの下はYシャツにスーツタイプのズボンっつーサラリーマンみてーな恰好だったもんでな。しかもぶかぶかの男物だ。そりゃオシャレ魔人と化したサラには難色を示されるだろう。
もしかすると自分の服と同じくらいにメモリの服も選んでやりたかったのかもな。
こいつそういうところあるからな。
「スカートは、少し恥ずかしい……」
「全体的にシックな色合いですけど、メモリちゃんの雰囲気に合っててとっても可愛いですよ! ねっ、ゼンタさん」
「ああ、サラよりも断然いいな」
「てい!」
「うげえっ! ジョークだろ!? 地獄突きってお前なぁ!」
「こうでもしないとゼンタさんはこたえないじゃないですか。ダメですよ、女の子を他の女の子と比べるような真似をしては。どちらにも失礼ですからね」
「恥ずかしい……けど、慣れるようにする」
俺の感想で新衣装にも前向きになってくれたらしいメモリの決断で、長かった女子たちの買い物も終了したことになる。
そんじゃあ次は俺の番だな!
衣替えです




