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77.あたしの孫も同然さ

「へえぇ、あんたらが例の『葬儀屋アンダーテイカー』なのかい! ネクロマンサーにしちゃあ活きがいいのが出てきたってもっぱらの噂だよ!」


 あっははは、と豪快に笑うのはパヴァヌの冒険者組合のトップであるボパンという女の人だ。けっこうな年配でオペラ歌手みてーな太ましい体型をしてるが、それが歳に見合わない快活さを出すのに一役買っている。


 でけー笑い声も合わせて、なんというかすげえ健康的なオバさんって感じだ。


「うちで依頼を受けたいってぇ? いいとも、見繕ってやろうじゃないの。トードが可愛がってるってんならあたしの孫も同然さね」


 どうもトードは俺たちがパヴァヌに滞在して組合に顔を出すことも想定してたらしく、先に連絡を入れていたようだ。


 厳つい体格や顔からすると意外過ぎるこの細やかさこそがあの人の持ち味と言えるだろう。

 何事も仕事が早く、そして間違いがないってな。


「で、どんな仕事がお好みなんだい?」

「んー、そうだな……できればそう難しい作業のねーやつがいいかな」

「すると一気に限られてくるね。探しやすくていいことだ」


 俺たちの我儘も笑って受け入れるボパンは、クエスト用紙のまとめを取りに行こうと立ち上がりかけたところ、何かを思い出したようにまた座り直した。


「そうだった、ちょうどいいのがあったよ。これなんだがね」


 懐から取り出したのは、組合から依頼が出されているクエストだった。こういうのは大勢からの要望でクエストが作られた特定の依頼主がいないパターンのやつだな。


「これも推薦依頼の一種だね。他のパーティと協力してこいつを受けてもらいたいんだが……あんたら、臭いのは平気かい?」


「へ?」


 どういうことかと訊ねると、クエストの任務地が街の下水道なのだという。


「ネズミの駆除。それが依頼の中身さ」


「下水道に住み着いているネズミさんを退治するんですね。ですが既に受領しているパーティがいるのになぜ私たちまで? そんなにたくさん繁殖しているんですか?」


「それも理由のひとつさね。下水道ならどこにだってネズミはいるもんだが、ちとその数が増え過ぎている。そして、急激に体長が大きくもなっている。するとどういう危険性があるか、あんたらはわかるかい?」


「クイーンラットですか……!」


「そうさ。鳴り物入りだと聞いたが、ちゃんと勉強もしているみたいだね」


 サラの返答にボパンは感心した風に頷くが、俺にゃなんのことやらさっぱりだ。


 パーティリーダーとして不甲斐ない限りだが知らんもんはしょうがないので、知ってるやつから教えてもらうことにしよう。


「クイーンラットはその名の通り群れの女王として多くのネズミを産み従える、とっても大きくて特別な個体のことです。大きさ以上に知能や強さも得ていて、動物ではなく魔獣として数えられますね。ある土地でそれまでと比べてネズミが急に増えたり大きくなったりしたら、そこにはクイーンラットが生息している可能性が高いんです」


 女王蜂ならぬ、女王鼠ってことか。


 ただのネズミを駆逐するだけならともかくそんな奴がいるかもってんなら、二組のパーティにあたらせるのも納得だな。


「いるともいないともまだ決まってないがね。その調査も含めてのクエストさ。……お、来たね」


「組合長ー! 俺たちと一緒にクエストを受けるパーティが決まったって本当ですか!?」


 こっちで話してる間に職員に頼んでボパンが呼んでいたのは、ネズミ駆除の依頼を受けるもう一組のパーティだった。ボパンに言われ、彼らは一列に並んで挨拶をしてきた。


「俺たちはEランクパーティの『ラステルズ』! 俺がリーダーのランドだ」

「ルーナです」

「ステインだ。どうもよろしく」


 元気よく握手を求めてきたランドは、俺と歳の近い若い冒険者だった。仲間の女子と男子も同じくらいに見える。聞けば、冒険者学校時代から組んでいた同士でそのままデビューしたんだとか。ボパンさんが言うには冒険者の始まりとしてはそれが王道のタイプらしい。


「俺たちはDランクの『アンダーテイカー』。リーダーのゼンタだ」

「サラです!」

「メモリ」


 そう名乗り返すと、ラステルズはしばらく呆然としていた。そんで俺たちを再度じっくり見直すようにして、それからゆっくり口を開いた。


「あ、あんたたちがあの・・アンダーテイカー?」


「全員がネクロマンサーだって噂の、あの……?」


「魔皇に関する情報でアーバンパレスに喧嘩を売って勝ったっていう、あのパーティだって……?」


 あのあの言いすぎだろ。つか普通に間違いが多い。

 サラはネクロマンサーじゃねえし、喧嘩を売ってきたのは俺らじゃなくてアーバンパレスのほうだ。決闘を言い出したのはジョニーなんだからな。


 純粋に驚いている感じのランドに、若干怖がってる様子のルーナ、そして懐疑的な視線を寄越すステイン。三者三様でリアクションが違っててちょっと面白いな。


「噂の真偽はともかく、そのアンダーテイカーで間違いないぜ。てかこんな名前のパーティなんざ他にいねーんじゃね?」


「た、確かにそうだ」


 とランドたちが一応の納得をしたところで、「お互い紹介も済んだことだし」とボパンがクエストへと話を戻した。


「言った通り、駆除をメインにしつつもクイーンラットが発生しているかどうか調査すんのも任務のうちだ。ネズミ駆除だけならせいぜいがEランクのクエストだが、クイーンラットの有無とその育ち具合や手下の数によっちゃ、最高ならCランクにもなるからね。ま、その査定を含めての調査だね。少しでも無理そうだと思ったら即引き返すこと。アンダーテイカーにはその判断に加えて、ラステルズの護衛役も兼ねてほしい」


 低ランク冒険者に対する保険も意味しての複数パーティクエストってこったな。


 わかった、と了承しようとしたが、それよりも先にランドが少し苛立った雰囲気でボパンに言った。


「護衛って、そんなの俺たちには必要ないですよ、組合長! 街の下での任務ですよ? 自分たちの身ぐらい自分たちで守れます」


「何言ってんだい、クイーンラットの厄介さは知ってんだろう?」


「はい、講義で学びました。それを踏まえて、撤退だって自分たちで判断できるって言ってるんです!」


「現場もろくに知らないうちからナマを言うんじゃないよ。あんたらのいるいらないは関係ないんだ、必要と判断したから共同クエストにしたのさ。これは組合としての決定だよ」


 あんただってそれでいいと一度は了解したじゃないか、と言うボパンにランドは唇を噛んで、こっちを見た。


 お、なんだなんだ?


「それならなんでもう一組がアンダーテイカーなんですか! 言わせてもらいますが、ネクロマンサーが仲間では守ってもらえる気がしません!」


 こ、こいつ遠慮なしに本音を言いやがるな……。本人たちの前で口に出せるか、ふつー? 


 いやまあ、死霊術師って字面で護衛をやるなんてちゃんちゃらおかしいとは自分でも思うけどよ。


「噂を信じているってことは、アンダーテイカーの実力に関しても同じように信じているはずだろう?」


「それは……」


「だったら問題はないね。自分たちより高ランクの冒険者がしんがりを務めてくれるんだ。貶す前に感謝を示すべきだよ……より上の冒険者を目指すつもりがあんたにあるなら、だけどね」


 ぐ、と言葉に詰まったランド。


 少々意固地になってるように見えたが、それでも彼は俺たちへ頭を下げた。


「よろしくお願い、します」


「お、おう……よろしくな」


 変に何か言っても逆効果だろうとそれだけに済ませたが、仲間のほうへ振り返って俺らに背を向けたランドは、力のこもった口調でこんなことを言った。


「結成が先だったのは俺たちだ。今回の任務でアンダーテイカーよりも活躍して、昇格の足掛かりにするぞ!」


「ふ、勿論だ。実力から言って既に俺たちはDランク上位……きっとCランク程度はある。Eランク卒業も近いだろうな」


「ふ、二人とも。聞こえてる、聞こえてるから……!」


 明らかに俺たちへの当てつけで言葉を選んでる男子二人を、唯一の女子が顔を真っ赤にして窘めてるが、ランドもステインもぜんぜん聞いちゃいない。ますます意気を高めて拳を上げている。


 なんだかなぁ。


 やる気がないよりはいいんだが、同行するにはちと怖いパーティだってのが率直な感想だ。


「ここできちんと自分たちを見つめ直すことができれば、ラステルズはいいパーティになれる。……悪いけど、アンダーテイカー。どうかこの子たちを頼むよ」


「ははーん、そういう。わかったよボパンさん、任せといてくれ」


 しっかり俺たちの要望も叶えてくれているし、それにトードと懇意の仲だってんなら余計に断れねえよな。ネズミ退治を主題にしつつ、万が一のときはラステルズを守ってやらねえと。


「ちょいと変わった任務だが、やること自体は単純だ。締まってこうぜ!」

「おー!」

「おー……」


 ラステルズに負けないよう、アンダーテイカーもそうやって気合を入れた。


 いまいち締まってる感じはしなかったけどな!


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