69.血に酔っている
一話に数箇所指摘されると恥ずかしいっすね……報告助かっております!
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『シバ・ゼンタ LV18
ネクロマンサー
HP:96(MAX)
SP:64(MAX)
Str:81
Agi:65
Dex:47
Int:1
Vit:56
Arm:53
Res:22
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV3】
【活性:LV2】
【心血】
【集中:LV1】
クラススキル
【武装:LV4】
【召喚:LV3】
【接触:LV2】
【契約召喚】
【血の喝采】』
地下洞窟をぐるっと回り込むように移動しながらはぐれのアンクルガイストを狩り進み、とうとう迎えたクエストの最終局面。
玉座の間という縦にも横にも広大なその空間はヨルの言葉通りにそりゃあもう、うっじゃうじゃとアンクルガイストたちが犇めいていた。
「おいおい、なんだよこれは……」
気持ちの悪い見た目をした生き物が所せましと蠢き合っている様は、なんとも身の毛もよだつ光景だ。
上の通路から掘られた窓越しにそれを見てドン引きした俺に、同じくドン引きした顔でサラが言った。
「でも、ここをどうにかしないとヨルちゃんのお家を取り返したことにはなりませんよ。繁殖力も高いようですし、全部倒さないとやられたぶんまた増えて、元通りになっちゃうと思います」
「……、」
その言葉にこくりとメモリも頷く。
そーだ、こいつらを全滅させねえことにはヨルの安全も戻ってこねえ。考えようによっちゃ、丁寧に虱潰しをしてきたことで残るアンクルガイストは下のこいつらだけになってるんで、これは総駆除の大チャンスでもあるんだ。
だったらなおさらここで引く選択はあり得ねえよなぁ?
「よーし、いっちょやったるか! ちょいと暴れてくらぁ」
「えっ! 一人で行く気なの?」
さすがに無茶だよ、とヨルは止めようとするが、サラやメモリはなんで俺がこんなことを言い出したか察しがついているようだ。
「もしかして、また新スキルですか?」
「おうよ、ビンゴだぜサラ」
【隠密】を使っての奇襲を繰り返してアンクルガイストをどうにかこうにか倒していくうちに、俺のレベルは2も上がっていた。多用したからかは知らんが久しぶりに【隠密】のスキルLVが上がったし、他にもまったく新しいスキルも手に入った。
それがこれだ。
『【血の喝采】:生と死は共に互いの糧となる。あなたは血を浴びることで誰よりもそれを体現する』
名前は【血の簒奪】とよく似ているが、あちらとは違って職業スキルのほうに書かれているからには、たぶんネクロマンサーならではの効果になってるはずだ。
そう思った俺はいつものように説明文についてはあまり深く考えず、とにかく発動させるために実際にアンクルガイストの酸性血を浴びてみた。
酸によるダメージ覚悟での実験だったんだが、HPは減ったものの、嬉しいことにそこから少しずつ回復していった。
しかもそれまでの疲れも消えて、むしろ俺は絶好調にまでなったくらいだ。
どうやらこのスキルは敵の血を使って俺のことを元気にしてくれるらしいな?
なんか吸血鬼っぽい技だが、吸うんじゃなくて体に浴びるってとこがミソだな。最初は血塗れでヤな気分だったが、スキルの効力ですぐに吸収されて消えるんで汚れはつかない。
まあそれでもどことなく血生臭さってのがこびりつくんだが、来訪者は水を被っただけで体の汚れは綺麗さっぱり消えるし、サラも『クリーン』を使えるんで、そこまで大した問題じゃあない。
「ゼンタさんはそれまでにもアンクルガイストの血を何度も受けてましたよね。だからそんなスキルになったんでしょうか?」
「そうかもしれん。スキルの入手はある程度状況に左右されるってカスカも言ってたし、こいつは対アンクルガイスト用にゲットしたもんだと言っても過言じゃねえかもな」
「あいつの血を気にせずに戦えるようになったのはいいけど、それだけであの数を一人で倒すのは……」
なおも心配そうにするヨルに俺は笑って言ってやる。
「大丈夫だっての。だってあいつら、なにかとすぐに血を吐き出して攻撃してくるだろ? でもそれじゃ俺のHPは減らせないばかりか、戦闘意欲をハイにまでしてくれるんだぜ」
【血の喝采】は連続で大量に血を浴び続けると、どんどん俺のテンションを高めていくんだ。
たぶん発動中、効果が繰り返されるとそういう結果になるんだろう。
二頭続けて倒した際にそれに気付いた俺は、なら一度に何頭も相手しても勝てるんじゃないかと思い至ったわけだ。
「あの数だ。それだけ血も大量に飛び交うってこたぁ、そのぶん俺も疲れ知らずで暴れ続けられるってことになる。敵が勝手にバフかけてくれるようなもんだからな」
そこまで言うとようやくヨルも納得してくれた。だけどもし少しでも危ないと思ったら自分も参戦する、とそこは頑として譲らなかった。
「そのときは私もヨルちゃんと一緒に降りますね」
「……わたしも、準備しておく」
ロザリオを握るサラと、ネクロノミコンを持つメモリ。
万が一のときは頼むと彼女たちに頷き、俺は窓枠に乗った。
「【隠密】発動」
とん、と跳ぶ。
玉座の間の中心を目指して落ちていく最中にスキルを追加する。
「【活性】と【血の喝采】発動」
発動した途端にドクンと心臓が高鳴る。体に活力が漲り、同時に血を求める衝動がうずく。
イイ感じだぜ……! 戦うには最適のコンディションだ!
「【武装】発動――『肉切骨』ダブル」
ど真ん中に降り立ったってのに、LV3になった【隠密】の効果でどのアンクルガイストも俺のことはまだ目に入ってねえ。これで余裕を持って戦いの火蓋を切れるぜ。
「――ッらぁ!」
俺は手近なアンクルガイストへ逆手に持ったナイフを突き刺し、そのまま腕力任せにかっ捌いてやった。二箇所から胴体を切り開かれてアンクルガイストは「ギィッルルルルゥ!」と絶叫を上げ、ぶしゃっと勢いよく飛び出した血液が俺のことを汚した。
ジュウッ、と焼ける音がして俺のHPは目減りしていき、しかしすぐに回復が行われる。
それと一緒に頭の奥で歯車がガチっと噛み合ったような感覚で、俺のギアが一段階上がった。
「これがアドレナリンってやつか? たまらねえ……!」
血で少し溶けてぐずついた肉切骨を惜しみなく捨て、【武装】で新品を呼び寄せる。『恨み骨髄』や『不浄の大鎌』は一度壊れると、ボチなんかがやられたときと同じでもっかい呼び出すのにクールタイムを挟む必要があるんだが、肉切骨にはそれがねえらしい。
特殊な能力を持たねえ代わりにいくらでも使い捨てできるってのが、こいつの良いところだ。
ついでに、まったく敵を切れねえ他ふたつとは違って刺すことで血を流させることができるって点も、スキルとの相性的に俺にとっちゃメリットだな。
「どんどん行くぜ! いくらでもかかってこいやぁ!」
「「「ギルルルルルルルルッ!!」」」
一斉に襲ってくるアンクルガイストへ昂った意気をそのままぶつける。
身体強化とハイテンションによって素のステータス以上のパワーを発揮できるようになった俺には、どんだけ敵の数が多かろうとまったく恐れなんてなかった。
刺して、引き裂く。血を浴びる。後ろからの噛み付き攻撃を躱して、また刺す。引き裂く。血を浴びる。また躱す。そこへ吐血攻撃が来たが、それは喜んで受ける。興奮がさらに引き上げられる。吐いてきた奴へお礼のナイフをくれてやる。すると勢い余って自分の腕まで奴さんの体内に埋まっちまった。
これは【活性】で得られる力を超えている……やっぱ【血の喝采】にもステータスアップの効果があると見るべきだな。
と頭のどこかでスキルの考察をしつつも俺はひたすらにアンクルガイストを屠っていく。
辺り一面はもう血だらけだ。
そこに新しく鮮血を追加しながら、どうにも自分が血に酔っていることを意識の遠くで自覚する。
感覚がマヒしたようにどこか鈍く、なのに敵の動きがハッキリとわかる。
見えるっつーより、肌で感じる。
面白ぇ。玉座の間にはまだまだおかわりがいる。
本来なら戦力差は絶望的なはずだが、こいつらは馬鹿みてえにドバドバ血を吐き出すもんだから、全滅させるのもそう難しくはなさそうだ。
「【召喚】、『ゾンビドッグ』! そして『ゾンビウルフ』に変態だ!」
「わうわう――バウル!」
「ボチ、お前も暴れてきな。無理はしなくていいぜ。ただし、なるべく血を撒き散らしてくれると助かる」
「バウ!」
力強い返事をしてボチはアンクルガイストの一頭へ飛びかかった。ほんと頼りになる奴だぜ。俺も負けてられねーんで、ラストスパートに入るとするか。
「おまけで【集中】も発動だ……!」
【血の喝采】で敏感になった肌感覚が、【集中】の効果でいっそう研ぎ澄まされる。こうなるともはや、玉座の間全体が俺の知覚域となっているかのようだった。
「はっはぁ! 狩りつくしてやるぜっ!」
玉座の間が静まったときには、俺のレベルがまたひとつアップしていた。
『シバ・ゼンタ LV16+2
ネクロマンサー
HP:88+8
SP:57+7
Str:71+10
Agi:58+7
Dex:41+6
Int:1+0
Vit:50+6
Arm:48+5
Res:18+4
スキル
【悪運】
【血の簒奪】
【補填】
【SP常時回復】
【隠密:LV2】+1
【活性:LV2】
【心血】
【集中:LV1】
クラススキル
【武装:LV4】
【召喚:LV3】
【接触:LV2】
【契約召喚】
【血の喝采】New!』




