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68.あなたを援護する

「気を付けてね。あいつは興奮状態になると、血を吐いてくるよ。とっても臭くて、触れたものを爛れ焼かせる厄介な性質を持った血を。本当ならそんなのヨルのおやつにできるんだけど、アレは臭すぎて絶対にイヤ。できれば近づきたくもないくらい」


 アンクルガイスト。


 元のアンクルビーストにちなんでヨルは奴らのことをそう名付けたらしい。


 そのうちの一匹へと近づきながら、俺はメモリに作戦はないか聞いてみる。


「酸性の血だとよ。どうするよ?」

「……わたしはこれ以上、近づかないようにする」


 一定の距離を開けて立ち止まったメモリは、ネクロノミコンを取り出してページを開く。例の黒いオーラが本から出たかと思うと、メモリの横にいる骸骨がカタカタと震えて――がしょんと変形した。


「が、骸骨が弓になった……!?」


「そう……『邪法・屍細工』。ただの弓よりも強力。これであなたを援護する」


 ネクロノミコンを仕舞い、発射口と思われる部分で髑髏が大きく口を開いたその弓を手に取ったメモリ。弓の長さはメモリの身長とほぼ同じくらいあるんだが、見た目ほど重くなさそうで、持つのに苦労はしてない。片手で持ててるしな。


 そんで空いているほうの手に、今度は真っ黒な矢のようなもんが出てきた。


「これは魔力の矢。屍細工の弓で打ち出せば、かなりの威力が出るはず」


「ほー。じゃ、頼りにさせてもらうぜ」


 俺は近寄らねえと攻撃できねえからな。後衛はメモリに任せて前に出るとしよう。


 ……それにしても臓器の鎌を振るう前衛と、骸骨の弓を構える後衛って、とんでもねー組み合わせだな。どう見ても悪の組織じゃねえか。


「つってもやるこたぁ悪行じゃなく、家にわいた害虫の駆除だけどな」


「ギルルルル……!」


 俺たちに気付いて唸り声を上げだしたアンクルガイスト。不意打ちを企まずにのんびりと近づいたのは、こいつの強さを計るためだ。


 せっかくの一頭のみと戦えるチャンスだ。奥には山のようにこいつのお仲間がいるらしいので、ここでじっくりと戦い方を調べとかねーと後々困ることになる。


「ピンチになると特殊な鳴き声で近くの仲間を呼び寄せんだったな……」


 ここは地下洞窟なせいかアンクルガイストの救援信号がよく響くらしく、ヨルは一人で駆除に挑んだ際には強制的に連戦をさせられて苦労したそうな。


 そんなあいつがそれ以上仲間を呼ばれないために編み出したのが――。


「初手、喉狙いだ!」


 【活性】を使ってアンクルガイストの懐に飛び込んだ俺は、ヨルから授かった戦法を実践してまず喉を切り裂いてやった。


 と言っても臓物を固めて作った刃に切れ味なんてものはない。『不浄の大鎌』の刃が通った痕は切れるのではなく……蝕まれるのだ。


「ギッ……、」


 不浄のオーラに侵されたアンクルガイストは声が出せなくなったようだ。うし、狙い通りだ。しかも鎌に切れ味がないってのが、ここでは効果的に働いているぜ。


 これが普通の剣で斬っていた場合、こいつの物を焼く血の飛沫を浴びて、剣も俺自身もただじゃ済んでいないんだろうな。


「まあ俺は血を浴びてもHPが減るだけで皮膚が爛れたりはしないんだがな。考えるほどに俺とこいつは好相性じゃねえか――うぉっ!?」


 今度は脳天に鎌を突き刺してやろうとしたんだが、そこでアンクルガイストが思いのほか俊敏な動きでバク宙を披露し、逞しい尻尾で俺の鎌を弾きやがった! 二本脚でバランス悪そうな癖に、こいつ……!


 着地と同時に片脚を振り上げてぶつけようとしてくるアンクルガイスト。


 食らっちまうのを覚悟したその瞬間、俺の横をメモリの矢が通過していった。


「ギ――、」


 振り上げた脚に闇色の矢が刺さり、アンクルガイストが苦しむ。

 メモリのやつ、めっちゃいいタイミングで撃つじゃねえか。しかも腕前もいいぞ!


「サンキューメモリ!」


 再発動した【武装】で呼び出した『肉切骨』。

 両手に持った骨のナイフを、俺は動きの止まったアンクルガイストの両目にぶっ刺した。


 飛び出しそうなほどギョロっとした奴の目玉は、柔らかそうな見た目に反して皮の硬い果物みてーな感触だったが、それでもナイフは深々と刺さった。


 やっぱ切るのはともかく刺すぶんには使い勝手いいぜ、肉切骨!


「ッ~~~!」


 不浄のオーラの汚染がより進んで僅かにすらも鳴けなくなっているようだが、さすがに急所を突かれただけあってその苦しみ方は凄かった。


 アンクルガイストは早送りみてーな挙動でじたばたと悶えたかと思えば……急にどばっと口から血を噴射させやがった。


「げぇっ!」


 ジュアッ、と地面の焼ける音。

 硬質な肉切骨も血を浴びたせいで表面が粟立つように溶けている。


 しまった、ヨルから聞いていたのに油断して食らっちまった。しかも想像以上に酸性血液のダメージが大きい。HPがけっこう持っていかれたぜ。


 かかった血を払いながら顔をしかめる俺の傍を、またしてもシュッという風切り音を立てて闇の矢が通り過ぎる。そしてそいつは未だに血を吐き続けるアンクルガイストの口内へと撃ち込まれた。


 ぐぇ、と餌付くように血の噴射が止まった。よっし、今だな!


「おおっらぁ!」


 苦しそうに頭を下げたところを狙って、今度こそその脳天目掛けてナイフを突き刺してやる。頭蓋を砕く手応えと、その奥の脳みその手応えのなさを同時に味わう。

 びくんと身体を反らして動きを止めたアンクルガイストだが、念のために俺は二本のナイフをぐりぐりと動かして頭の中を掻きまわした。


「ッギ……」


 最後に微かな声だけを漏らして、アンクルガイストは倒れ伏してまったく動かなくなった。――おーし、こりゃ間違いなく死んでるな。


 ふー、ちゃんと勝てたな……が、思ったよりも苦戦しちまった。残念ながらちゃちゃっと、とはいかなかったぜ。メモリの援護もあってこれじゃあ先が思いやられるな。


 とりあえずはメモリと労をねぎらい合ってると、後ろの曲がり角からサラと一緒にヨルも出てきたんで試しに聞いてみた。


「なあヨルさんよ。こいつがうじゃうじゃいるって言ってたが、具体的に何頭ぐらいいるかわからねえか?」


「うーんとねぇ……うーんといるよ」


「だからほら、具体的な数をさ」


「そう言われても困っちゃうな。だって数え切れないくらいだもん」


「うへぇ」


 マジかよ……そりゃ相当やべえな。


 ぶっちゃけこいつが二頭いっぺんに出てくるだけでもけっこうマズそうなんだが?


「ここって広いし入り組んでいるでしょ? そのせいもあって数えようと思っても全体の数がわかんないんだよね。玉座の間にいっぱい巣食ってるのは把握してるけど、それ以外はこいつみたいに一頭だけでいたりもするよ」


 ヨルが言いてえのは、数が多いってことだけはハッキリしてるんで、まずはそういうボッチとか数頭だけでつるんでるのから倒していったほうがいいってことだな。


 これはどう考えても正論だ。

 いきなり中心地に乗り込んでいったりしたら、大乱闘アンクルブラザーズになっちまうもんな。


 ちまちまとしたやり方にはなるが、アンクルガイストも決して雑魚とは言えねーし、そうやって着実に数を減らしていったほうが賢明だろうぜ。


「ヨルも手伝うよ?」

「いやそれは……」


 申し訳なさそうにヨルが言い出すが、実年齢がどうであれこんなガキンチョを戦わすのはこっちが申し訳ねえってもんだ。


 話を聞くに一対一ならアンクルガイストを余裕で狩れるだけの実力はあるっぽいんだが――それって俺より強いってことじゃね? まあそれはともかく、ヨルの手を借りるのは最後の最後にしたいってのが素直な気持ちだ。


「俺たちだけじゃどうしようもねえ、ってなったときだけ頼むわ。それでいいよな?」


「そうですね。私もできるだけヨルちゃんには戦ってほしくないです」

「…………」


 メモリはどちらでもよさそうだったが、サラとは意見が一致したんでこのままのスタンスで行くことにした。

 言っておくと、一頭相手にこんだけ難儀しても俺がそこまで悲観してないのは、レベルアップを当てにしているからだ。


 アンクルガイストの数が多いってことはそれだけ経験値を得られる機会があるってことでもある。


 レベルが上がればスキルをゲットできるし、ステータスが伸びるだけでも戦うのは楽になるはずなんで、やれねーこたぁねえだろうってな。


「おーし、次に行こうぜ。また先導頼むぞ、ヨル」

「うん、ついてきて!」


 血の香りに敏感なヨルは、血液が臭いアンクルガイストを鼻だけで見つけられる。

 その探索能力を頼りに玉座の間ってところを避けつつ地下洞窟を進みながら、俺たちは発見するたびにアンクルガイストを倒して少しずつ数を減らしていった。


 ――その間ずっと、ヨルがアンクルガイスト以外の「何か」も探していたってことに、てんで気付かないままでな。


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