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67.ヨルだけの王国

信じられないかもしれませんが、書いた後に一度は読み返しているのです。誤字脱字はないかと。

誠にご報告ありがとうございます!

 ついに見えてきた(俺にとって)第二の都市パヴァヌ――は本当にただ見えただけだった。


 街の外観だけを遠目に馬車はぱからぱからと走り続け、ヨルの住処へ直接向かった。

 バワーホースは説明の通りに朝も昼も夜も関係なく動けるし、休憩がいらないんで俺たちも宿を経由せずに車中泊のまま強行軍を決行することになったわけだ。


 席が柔らかいし背もたれを倒せる仕様になっていたおかげで走る車内で眠るのもそれほど苦ではなかったが、これでもし俺たち全員がトードのような大男だったらこのレッドムーン号でも相当せまっ苦しくなっていたはずだ。


 ヨルもメモリもちっこくて助かったな。


「うーん。もうついたのか……?」


「まだだけど、ここからは馬車じゃ通れないから歩いて行こうね」


 普通に移動すれば一週間近くかかる道程を正味二日もかけずに到着したそこは、木々の生い茂る山林の目の前だった。

 この奥へ分け入ったところに、ヨルの住処があるらしい。


 現在時刻は明け方という早い時間帯だったが、移動の最中に時間間隔なんてかなり曖昧なものになっているんであんまし関係はなかった。


 暗くなければそれでいい、というけっこう低めのテンションでアンダーテイカーはいよいよクエストのために始動した!


「ふわぁーあ。夜中にサラに起こされたせいでどうもすっきりしないぜ」


「えー。だってゼンタさん、パヴァヌを見たがっていたじゃないですか。だから起こしたのに」


「そらお前、ここに来る前に滞在すると思ってたから楽しみにしてたんであってな。暗い中から遠景だけ見たってなんも楽しかねーわ」


「ごめんね、ゼンタ。パヴァヌに寄ったほうがゼンタたちにとってはよかったんだろうけど、今はなるべく急ぎたいんだ」


 おっと、ヨルから謝罪を受けちまった。ただの愚痴にそう真剣に謝られるとバツの悪いもんがあるんで、俺は話題を変えてヨルへ質問をする。


「確か、少し目を離した隙にみょうちきりんなのが住処に大量発生してたって話だったよな?」


 馬車の中で聞かされた話を思い返しながら訊ねる俺に、ヨルは「そうだよ」と肯定を返してくる。


「そうか、だったら急いで正解だな。今だともっと増えてるかもしれねーし」


「うん、そこがヨルも心配なんだ……」


 ざっと経緯を話すと、始まりはヨルの家(?)に魔獣のアンクルビーストってのが入り込んできたことだ。


 こいつは四足の小動物が二足になったような不自由な姿をした小さな魔獣で、群れで行動する習性を持つものの性格は穏やかで危険度の低い種類だとサラが言っていた。


 山林でもよく見かける魔獣のために、家にそいつらが上がり込んできてもヨルは特に気にしていなかったんだそうだ。


 ヨルの住処はなんせ広いため、隅々まで管理するのは難しい。

 なので害のない生き物であれば勝手に住み着くくらいは大目に見る程度の度量がヨルにはあったってことだ……まあ単に対応が面倒だったというのも放っていた理由なんだろうが。


「パパとママから受け継いだ場所を守る必要があるとは言っても、ずっと籠り切りなんて我慢できないよね? だからヨル、時々は街に出かけて気分転換するんだ。人間とは積極的に関わったりしないけど、周りが賑やかなだけでも楽しめるから。あのときもそうだった。ほんのちょっと、つい一ヵ月くらい空けただけなのに……戻ってみたら、住み着いたアンクルビーストは見たこともない姿で、見たこともない数になってた」


 ……一ヵ月ってのが「ほんのちょっと空けただけ」に該当するかはちと微妙なとこではあるが、心情的には理解できる。


 何度も目にしていながら一度もお目にかかってこなかったアンクルビーストの奇妙な変貌を、そのときに限って事前に予測しろってのはかなり無茶だろう。


「で、どんな風になってたって?」

「うんとね……まず可愛くなくなってた」

「可愛くない、と」

「それとね……おっきくなってた。元の十倍くらいかな」

「めちゃデカくなってた、と」

「そしてね……臭くなってた。ヨルにはちょっと耐えられないくらい」

「ごっつい臭いを放つようになった、と」


 うんうん。

 まったくわからんな!

 聞いといてなんだがどんな奴かちっとも想像がつかねぇわ。


 ま、実際に見てみれば一発なんだからそこは気にしなくていいか。


「ちなみに、本来のアンクルビーストはイタチやオコジョなどによく似た外見をしていますよ。毛がないのと脚が二本しかないので、元になった動物と比べると痛ましいお姿にも見えますけど、動きは機敏で、魔獣というだけあって普段は温厚でも獰猛な一面もあります」


 とサラの解説が入った。


 前から思ってたがこいつ、魔獣や魔物の生態っつーか、特徴にやたら詳しいよな。それがこの世界じゃ普通なんかな?


「サラ博士、ちょいと聞きてーんだけどよ」

「なんだね、ゼンタ助手くん?」


 勝手に助手にされちったぜ。


「動物と魔獣の違いってのはどこら辺にあるんだ? あと、魔獣と魔物の区別もどうつけてんのか気になるな」


「動物が変異したのが、いわゆる魔獣ですね。魔物との違いは元となった生き物が確認されているかどうか……ですので、生態での区別というよりも私たちの認識によるものが大きいですよ。魔獣が更に変異するケースも確認されていますから、魔物の由来も大元は全部、普通の生き物だった可能性もありますね」


 それを解明するには太古の昔から生物の変遷を確かめる必要があるそうで……つまり解明すんのは到底無理ってことだな。


「アンクルビーストの変異種は、これまで見つかっていない」


 最後尾からぽつりとメモリが言った。


 ってことは、ヨルの住処にゃ魔物とも魔獣ともまだ言い切れない新種の生き物が大量発生してるってことか。

 完全にバイオハザードだな、こりゃ。


「ここだよ。この奥にヨルだけの王国・・がある」


 ヨルの案内で辿り着いたそこは、いつぞやを思い出させる崖下に開いた横穴だった。

 木のつたがカーテンみてーにカモフラージュになっているところがウラナール山のあそことは違うが、それを持ち上げてみるともうほぼ変わりがない。


 なんだかこの先でまたインガが待ち構えてそうな気がして、俺とサラは入るのを躊躇っちまったが、ヨルは我が家ということもあって遠慮なく進むし、それにメモリは恐れることなくついていくので、二の足を踏む暇もなかった。


「二人とも待ってくださいよー」

「そうだそうだ、ずんずん進み過ぎだぞ」


 若干怖がっちまったことをなんとか隠して、俺とサラは少女たちを追いかけて洞穴へと入った。



◇◇◇



「いた……あれだよ」


 洞穴の先はしばらく下り坂で、やがて道がいくつも枝分かれするようになった。

 進むほどにただの洞穴ではなく内装が整えられていって、確かに昔はここにたくさんの居住者がいたってことを感じさせる。

 たくさんっつっても、ヨルの話だと中くらいの村の規模だったらしいが。


 とまあどちゃくそ広い地下王国をヨルの先導で進むうち、彼女の鼻は例の臭いを嗅ぎつけたようで、慎重な足取りになった。


 全員で忍び足をして、角から顔だけを覗かせて見てみると、確かにそこには変なのがいた。


 毛が一本もねーつるっつるの体に、ギョロっとした眼球。尖った口に乱杭の歯。人間の腕みたいな形をした太い脚を二本持ち、体長の半分は尻尾で、そいつを地面に引きずりながらのっしのっしと歩いている……いや気持ち悪いな! 普通にこえーぞアレ!?


「あ、あんなのが家にいたらおちおち眠れもしねぇな。しかもあいつだけじゃねーんだろ?」


「そう、うじゃうじゃといるよ。何匹か殺したけどぜんぜんダメ。やるなら一斉に駆除しなきゃ意味ないって気付いたよ。でもヨル、どうしてもあいつの臭いが無理で……だから助けを求めたんだ」


 一緒に戦おう! とヨルは決意に満ちた眼差しを向けてくる。


 彼女が武器とする血の魔法は闇属性らしく、同じく闇属性のネクロマンサーやブラックメイジを求めたのはそのほうが親和性があって戦いやすいと考えたからだとか。


 ほーう、なるほどなぁ。俺たちに任せきりにしようってんじゃなく、ガチで力を合わせるつもりでいたのか……そういや偉そうな演技をしてるときから口振りはそんな感じだったな。


 だがよ。


「俺たちは雇われた冒険者で、ヨルはその雇い主だぜ?」


「う、うん」


「だったらヨルはここで待ってろ。俺たちがちゃちゃっとあいつを倒して、この奥のも全部まとめて退治してやっからよ。なあ、メモリ?」


「……了解」


 傍らに骸骨を生み出して頷くメモリ。やる気は十分だな。


「サラ、ヨルのことを頼むぞ」

「はい! ゼンタさんも、言ったからにはちゃちゃっと片付けてくださいね」

「へっ。任せときな」


 俺は『不浄の大鎌』を取り出して気合を入れる。


 さあ、討伐任務の幕開けだぜ!


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