65.全員がネクロマンサーの尖った構成
いつも誤字ばっかでsorry
そして報告にthank you
「あー、話をまとめるとだな」
むっつりとした顔で腕を組んだトードが、横に立つ黒い羽を持つ少女を俺たちへと紹介した。
「こちらは吸血鬼の王女様だっていう、ヨルナヴィス・ミラジュール嬢だ」
「ヨルで構わないぞ」
「だそうだ。なんでもヨル嬢は住処を妙な生き物に荒らされてお困りらしくてな。一人では対処に手を焼くってんで、駆除の手伝いに冒険者をご所望なんだと」
「それもただの冒険者ではないぞ」
トードの言葉を引き継いで、一歩前に出た自称王女様が胸を張った。
「このヨル様に仕えるに相応しい、闇の眷属。その素質を持った者でなければ到底使う気にはなれんからな。故に、ここまでやって来た。貴様ら死霊術師の存在を耳にしてな」
なんでも最初は住処近くのパヴァヌっていう街を訪れていたそうなんだが、そこの冒険者組合で俺たちの噂を聞き、だったら待ちぼうけをくらうよりは、とちょいと距離のあるポレロにまで移ってきたのだとか。
「なんで他の街で俺たちの噂が？」
「そらアンダーテイカーは話題性が抜群だからな」
御者とかを筆頭に街同士を繋ぐ役割の人間は多く、移動もそれなりだ。冒険者なんかは特にな。だから、ポレロ発端の噂話も近くの街ならあっという間に広まるっぽい。
俺たちアンダーテイカーはパーティとして結成も間もねえってのに、既に来訪者在籍かつネクロマンサー複数の珍しすぎるパーティってことで有名になっちまってるんだとよ。
「それに魔族案件の発生地にもなったからな。発表は組合で行ったが、情報の入手者はお前たちだと明文化してある。その関係で、アーバンパレスとの悶着があったことも知れ渡っていてな」
「そんじゃあ決闘のことも他の街にまでバレてるってのか？」
「知ってる奴は知ってるだろうな。だから余計にお前たちは、色んな意味で語り草なのさ」
そうか……こりゃ少し参ったな。
有名冒険者として好待遇を受けるってのは元からの目標ではあるが、今のところ予定というか、想定を大きく超えてる感があるぞ。
しかも広まってるのがあくまで噂であって、俺の名が「凄い冒険者」として語られてるわけじゃないってのも残念ポイントだ。来訪者の俺でもそうなんだから、サラやメモリの名声も同じだろう。
「アンダーテイカーが今後活躍すりゃあ、噂話も本物の伝説になるだろうよ。どうだ、正式なパーティになった手始めとして、ヨル嬢の依頼は打ってつけじゃねえか？」
顔を寄せてそんなことを言うトードは、あからさまに「どうか断ってくれるなよ」という懇願の気配を出している。微妙に表情が引きつっているしな。
それをヨルに見せないようにしてるからには、本人にもその自覚があるんだろう。
仕方ねえんで、まずは依頼主に質問だ。
「なあ。その駆除ってのはそんなに骨の入りそうな作業なのか？」
「噂に聞く貴様らの実力ならばこなせないことはないはずだ。しかし、だとしても面倒なことに変わりはない……とだけ今は言っておこう」
や、依頼をするならそこは勿体つけずに詳細を話してほしいんだが……しかしこのぶんだと、どうやら俺ら待望の討伐任務だってのは確かなようだ。
それも他に小難しい調査や探索をする必要のない、一番単純な形式のクエストな。
「…………」
試しに振り向いてみると、案の定これを聞いてメモリが嬉しそうにしていた。
無言だし無表情だが、こいつは案外わかりやすいやつだと段々わかってきたぜ。
「メモリ。繰り返すがもうアレは駄目だぞ。アレだけじゃなく、お前にリスクのある術は全部禁止だぜ。とりあえず、リスクなしで使えるくらいに上達するまではな」
「理解している。大禁忌はもう犯さない……けれど、ネクロノミコンで得た力は必ずしも、わたしの命を蝕むものばかりではない。……できるなら今回はそれを試したい」
大ムカデを屠ったあのヤベー死霊術は、あくまで獲物が大ムカデというとびきりの大物だったからやむなく使った術であり、出力を抑えればネクロノミコン記載の術でも安全に扱えるものはある……というのがメモリの主張だった。
そう聞かされて当初俺とサラは本当かなぁ？ と二人揃って疑惑の目を向けたもんだが、メモリはその目を堂々と見つめ返してきたもんだから、信用することにした。一応な。完全にじゃないぜ？
疑いすぎるもの仲間としてどうかとは思うが、こいつはその仲間になんの相談もなしに、自分の生命力を代償に力を得る反則行為をしやがったからな。
要はメモリは前科持ちなわけだ。
前科者が信用を得るためには、普通の奴より苦労する。当然のこったな。
「ほう、ネクロノミコンとはな。貴様が今の所有者だと？」
「……そう。それが、なに？」
「いいや、別に。期待通りの人材で嬉しく思っているだけだよ」
くすくすと笑うヨルはさっきまでの癇癪が嘘のようにご機嫌だった。
かと思えばその笑顔をすっと引っ込め、まだあどけないながらに鋭い目付きで、今度はサラのほうを見た。
「それで、そいつはいったいなんだ？」
「むむ……なんだってなんですか？」
「俺たちの自己紹介は先にやったろ？ こいつはサラ、うちのパーティメンバーだ」
唐突な意味不明かつ失礼な問いにサラはムッとしている。なんで、代わって俺がさっきの繰り返しになる説明をしてやったら、ヨルは「どういうことだ」と困惑気味に言った。
「アンダーテイカーはメンバー全員がネクロマンサーの尖った構成だと聞いていたんだが……？」
「えっ、ええーっ！？ 噂ではそういうことになってるんですか！？ わ、私までネクロマンサーだと誤解を……？ どうしましょう、ゼンタさん！」
「どうしましょうって言われてもなぁ。つか、オールネクロマンサーとかどんなパーティだよ。尖り過ぎだってさすがに俺でもわかるわ」
一般的に、パーティ構成は得意分野が同じ奴で揃える一点特化型か、満遍なくバラけさせるバランス型。そのどちらかを意識して組まれることが多いらしい。受付の姉ちゃんからの受け売りだけどな。
前者がいわゆるコンセプトパーティってのだが、言うまでもなくこういう組み方は一点では目覚ましい活躍を見せるものの、他の分野が疎かになっているせいで昇格も遅ければ不慮の事故にも遭いやすい。
この場合の事故ってのは、遭難だとか遭遇戦だとかの、クエスト中の予期していない災難のことを指す。
後者のバランス型は王道編成だが、得てしてパーティ全体が器用貧乏の範囲を抜け出せずに燻ることも多いとか。
その代わり着実にクエストをこなしていけば一点特化型よりも昇格の機会に恵まれるが、やれることの限界値を引き上げないことには頭打ちにもなりやすい。
まあどっちにも良いとこ悪いとこってのがあって、結局はメンバーそれぞれが実力を高めないことにはいずれ昇格が叶わなくなるってことだ。
構成は大事だが、それだけで冒険者のランクは決まらねぇってな。
もちろん、その逆も然りだ。実力者が揃っても仲が悪くなってお互いにカバーし合えないんじゃ、せっかくの能力の高さが活かせない。
その点で言えば俺たちは安心だな。構成もバランスがいいわけじゃないが、極端に偏ってるってほどじゃない。
偏らずに済んでいるのは言うまでもなく、防御（あるいはサポート）特化のサラがいてくれているおかげだ。
「つーわけで、こいつは俺たちの大切な仲間だ。もしネクロマンサー以外が在籍してるのが嫌だってんなら、俺ぁこの依頼を蹴らせてもらうぜ。受けるなら必ず全員でだ」
「ゼンタさん……。私、不覚にも1ピコグラムときめいてしまいました」
「ぴこぐら……なんだって？」
「ふむ……」
ヨルはじっと、俺のことを真紅の瞳で見定めるようにした。
それからメモリとサラにも視線を――特にサラにはじっとりと長く――やって、また俺に戻した。
そのときにはもう、穿つような目付きではなくなっていたけどな。
「よかろう。組合長、妾はアンダーテイカーを雇うぞ！」
ピン、とコインを弾くヨル。片手でそれをキャッチしたトードは、手の中のブツを確かめて片眉を上げた。
「こいつは旧金貨じゃねえか。嬢ちゃん、今時こんなものを使ってんのか？」
「不服か？ 価値は薄れていない……むしろ高くなっているはずだが。だが足りんというのなら、もっとくれてやる。いくら欲しい？」
チャラ、と指の間に何枚もの金色のコインを挟んで見せるヨル。手品師みてーな手付きだ。どっから取り出したのかまったく見えなかったしよ。
ん、と雑に手を差し出したヨルをトードはしばらく黙って眺めていたが、受け取った金貨を握ると「いらねえよ」と追加金の支払いを断った。
「依頼金は十分だ。横紙破りみてーな依頼の仕方もこれで不問にしてやらぁ。クエストランクの査定もまだ済んでねえんだ、出せるぶんの色はアンダーテイカーにつけてやりな」
「ふ……ならばそうしよう」
パッと金貨を手から消したヨルは、俺たちに背を向けてさっさと行ってしまう。
「あ、おい？ どこ行くんだよ」
「何を間の抜けたことを。ついてこい、アンダーテイカー！ たった今より妾は貴様らの雇い主ぞ！」
そう宣言し、堂々たる歩みで（歩幅は小さいが）組合を出ていくヨル。俺とサラとメモリは顔を見合わせたが、ここで従わない選択肢はない。
「そんじゃ行ってくるよ、トードさん」
「おう、生きて帰ってこいや」
トードと受付の姉ちゃんに別れを言った俺たちは、新たな冒険へと出発することにした。
