61.パーティ名は『アンダーテイカー』
突然の決着に見学人たちが不思議そうにしているが、一番不思議に思ってんのは勝った俺のほうだ。勝った気なんて、さらさらしないもんでな。
だがいくら目を凝らしても視界に映る文字に変わりはなかった。
あなたの勝利です。
画面のメッセージはごく簡素に、俺が決闘に勝利したのだと知らせてくる。
「……どういうこった? どうしてこんなんで決着がつくんだよ」
「あら、もう忘れたの? 決闘モードでの勝利条件はHPを1まで減らす以外にも、相手に降参を宣言させるっていうのもある。だからこの決闘はあんたの勝ちに……」
「そういうことじゃねえ! どう見てもまだ負けてねえお前が、なんで降参なんかしたのかって聞いてんだ。勝ちを譲られたって俺ぁ嬉しくもなんともねえぜ」
ビシッとそう言ってやる。
このままではまるで勝負から逃げられたみたいで気持ちがよくないからだ。
だが、カスカは俺の言葉にくすっと笑って。
「譲ってなんかいないわよ。私は本気で、あんたを近づけさせないつもりだった。【逆境】を発動したあとからは一発も攻撃を貰わずに勝とうと思っていたわ。……ううん、本当は、最初からそのつもりだった。あんたのレベルがまだ20にも届いていないって知ったときからね」
だが俺があの手この手で攻め入ってきて、HPをかなり減らされた挙句、本気で戦うと決めてからも結局は攻撃を受けてしまった。
そのことにカスカは自分の負けであると認めたのだと言う。
「だってそうじゃない? レベル差もあって、色々な面で知識の差もあって。これで苦戦するほうがおかしいわ。だけど実際に戦ってみて、言うほどのレベル差は感じなかった。スキルの使い方に関してもそう。あんた、強いわ。喧嘩慣れしてるってだけじゃなくて、来訪者らしい戦い方が私以上に板についてる気がする」
スキルで意表を突くこと、翻弄すること。
俺が考える来訪者の強さってものにはカスカも同意見のようで。
「一応は私のほうが格上よ。その私が敗北を認めているんだから、素直に勝利を受け入れなさいよ」
「そりゃあ、勝てたってのは嬉しいことだけどよ。なーんか釈然としねぇぜ」
「はー、ホントに頑固なんだから。でも、これを聞いたらさすがの頑固さんも大喜びするでしょうね」
何やら意味深に忍び笑いをするカスカだったが、俺にはその態度のわけがまったくわからなかった。
「ゼンタは、組合長さんの知り合いだっていう来訪者に会おうとしているのよね」
「おう」
「そのために冒険者ランクを上げる必要があって、今はまだEランクなのよね」
「おう」
「おめでとう。今日をもってあんたたちのパーティはDランクへ昇格したわ」
「おう、あんがとよ――って、はぁ!?」
い、意味がわからねえ! なんでカスカが俺たちの昇格を決定できるんだ!?
「私が決定したんじゃないけど……ほら、ちょうど来たみたい」
俺の後ろを見ながらカスカがそう言ったんで、振り向いてみる。するとそこにはサラとメモリを引き連れてやってきたトードの姿があった。
「ゼンタさん! 私たち昇格できるみたいですよ! それにパーティ名も決まったってトードさんが!」
「なにっ、パーティ名まで!?」
ちょ、ちょいと話が一気に進み過ぎじゃねえか? こっちの理解力には割と低い値で限界が設定されてるんだが?
どういうことかとトードを見れば、ニカッとした白い歯の眩しい笑顔が返ってきた。
「エンジェルカスカからの打診で、決闘前にちょいと話し合ったのさ。来訪者同士の戦いで勝てるようならひとつくらいは冒険者ランクを上げてもいいだろうとな。ま、俺がそう決めたようなもんだが」
決めたのはトードさんかよ!
いや冷静に考えるとそりゃそうだろって感じだが、それにしたってなんで、この決闘が冒険者のランクに関わってくるんだ?
「言ったろ、ゼンタ。俺や組合がお前さんに求めているのは、れっきとした強さってものだ。お前たちパーティはグレーターセンチピードの退治に大活躍したし、俺の言った通りにお前はドラゴンゾンビに頼らずに決闘を制してみせた。この頑張りを認めてやらねえわけにはいかんだろう」
「だけど俺たち、Eランクに上がってからまだ一個しかクエストを受けてねえぜ?」
「そこは確かに、異例だな。引っかかっちゃいる。だがこうやってポンポンとランクを上げてくパーティってのは他にもいる。前例がねえってわけじゃねえ……ポレロじゃこれまで誰もいなかったけどよ」
「前例ねえじゃんか!」
「まーそんな細かいことはいいんだよ。無理は俺が通す! とにかくゼンタ、サラ、メモリ! お前たちはたった今からDランク冒険者だ!」
てなわけで妙に強引なトードに押し切られるような形で、俺たちのEランク卒業が決まった。
若干の戸惑いはあるが……これでまた目標に一歩近づいた。
サラもメモリの手を掴んで一緒に喜んでいる。
メモリは無表情でされるがままって感じになってるが、あれでも喜んでいるんだろう。たぶん。
「あー。それから、お前たちのパーティ名についてだがな」
「あ! そうだった、そっちもだ!」
「どんな名前になったんですか、トードさん!」
「……、」
「わ、わかったわかった。すぐ聞かせてやるから少し落ち着け」
俺たちに詰め寄られてトードは面食らったようにしつつも、ごほんと咳を挟んで焦らしてからその名を口にした。
「――お前たちのパーティ名は『アンダーテイカー』だ!」
「アンダー、テイカー? ……って、どういう意味だ?」
聞き覚えがあるような、ないような……と悲惨な英語の成績をなるべく思い出さないようにしながら首を捻っていると、カスカがさらりと答えた。
「アンダーテイカー。一般的な意味では『葬儀屋』ね」
「そ、葬儀屋ぁ!?」
冒険者のパーティにつけるにゃあ少しばかり……いやかなり物騒な名前だ。
俺と同じことをサラも思ったようで、
「トードさん、どういうことですか? これは暗に私たちへ、冒険者をやめて葬儀屋を開けと勧めているんでしょうか。ポレロは死体供養にお困りなんですか?」
「いやいや、そんなわけがねえだろ。確かにアンダーテイカーと言やぁ葬儀屋だが、他に請負人とかって意味もあるんだ。お前たちは、ゼンタにメモリっていうポレロに二人しかない公に名乗ってるネクロマンサーを独占しているパーティだ。千差万別の他パーティと比較してもかなり独自色が強いことは、言うまでもないな? だからお前たちにしかできない仕事ってのはたくさんあるだろうし、それ以外でも幅広く活躍してほしい。そういう願いを込めて組合はこう名付けたのさ」
ほ、ほー。
赤毛とかジャクソンたちみてーに特徴そのままなネーミングかと思いきや、けっこう真面目に考えてくれたっぽいな。
「なるほど、納得しました。メモリちゃんはどうです?」
「わたしは、二人がいいならなんでも構わない……」
と言ってメモリは俺を窺うように見てくる。前髪から覗くその瞳にはあなたはどうかという質問が浮かんでいた。
「ああ、俺もいいぜ。サラもこの名前でいいんだよな?」
こくりとサラが頷いたんで、俺はトードへと言った。
「総意が取れた。ってことでトードさん、俺たちゃありがたくその名前を頂戴させてもらうとするぜ」
「よし、決まりだ! ゼンタをリーダーとした正式なDランク冒険者パーティとして『アンダーテイカー』を認定する!」
は、俺がリーダーだって?
初耳なワードにサラとメモリへ確認の視線を向けたが、どっちも疑問を抱いてる様子はなかった。……ならまあ、いいか。一瞬俺なんかにゃ荷が重いと思ったが、パーティに唯一の男なんだ。それくらいの責任は持つべきだろう。
つか、サラにもメモリにもあんましリーダーを任せられる気がしねえからな……ってのは胸に秘めておくことにしよう。
「いいじゃねえか、アンダーテイカー!」
「これからよろしくなぁ!」
「今度共同クエストでも受けようぜ!」
観覧席の冒険者たちも賑やかに俺たちがちゃんとしたパーティになったことを祝福してくれている。
三人で手を振ってそれに応えていると、すっと俺の横にきたカスカが耳打ちをしてきた。
「気が済んだら、さっきの部屋に戻ってきてね。あんたが知らないであろう来訪者が持っておくべき知識ってものを、私がまとめて教えてあげるから」




