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59.スキル勝負はスリリング

度重なる誤字報告に感謝感激でござい

「……ちっ」


 二回も『恨み骨髄』の怨念攻撃が決まったんだ。ひょっとしたらこれでカスカのHPを1まで削れたんじゃないか、と俺が期待したのも無理はねえ話だろ? 


 早くも決着がついたんじゃないかってな。


 だが……そうは問屋が卸してくれないようだった。


「【接触】は触れた相手を強制的に私の崇拝者にさせるスキル……だったんだけど。何故かあんたには随分と効きが悪かったみたいね。それに、効果に差異はあるけど、あんたの使った【接触】のほうが強い」


 ゆらりと立ち上がったカスカは、ダメージを負いながらもまったく戦意を衰えさせてはいなかった。ピンクの目は相変わらず爛々と俺を威圧するように射貫いてくるし、冷静に互いのスキルの差について分析する余裕まであった。


「俺の【接触】はLV2だぜ」

「どーりで。私の【接触】はまだ育ってないのよね……スキル勝負はスリリングだわ」


 会話しながら、カスカは翼に力を込めている。特に隠す気はないみてーだ。だから俺もぐっと恨み骨髄を強く握った。


 24ポイント、フルでSPを消費して発動させた【活性】の効果はまだ続いている。三十秒を過ぎても切れる気配がないことから、こいつもLV2になったことで一段階上のスキルになったらしいな。強化率は特に変化を感じないが、持続時間が大幅に伸びている。


 これなら一分以上は続くと見ていいか……?


「行くわよ」


「どんと来やがりな」


 とん、と軽く地を蹴ったカスカは、気が付くと俺の目の前にいた。


「っ!」


「【武装】発動――『イコンの剣:LV1』」


 こう近づかれちゃ回避行動は間に合わん。カスカと自分の間を塞ぐように骨の盾を構えた俺だったが、それを知っていたというように奴は手に武器を取った。


 淡い色合いが幾つも重なった、綺麗な細い剣。

 振るわれるそれを盾で受け止めようとしたが――。


「んだとぉ!?」


 スパッと。


 豆腐のような抵抗のなさで、あっさりと『骨身の盾』は横に両断されちまった。


 咄嗟に手放すのが僅かにも遅れていたら、今頃は盾と一緒に腕もぶった斬られていたかもしれない。


「安心しなさい、欠損はしないから。G表現が規制されているんでしょうね。流血はしないし、手足は千切れないどころか折れもしない。私たちの命は良くも悪くもHPだけが指標よ」


 ヒュンヒュンと妙に手慣れた様子で剣で風を切りながらカスカはそんなことを言った。転がって消失していく盾の残骸を見送った俺に、カスカは手の剣を見せつけてくる。


「これは単に丈夫で切れ味抜群ってだけの代物よ。今は、ね。だけどお察しの通り、それだけでも十分に使い勝手がいい。翼が使えないような場面で重宝するわ」


「そーかい、教えてくれてどうもよ。つまりそいつを相手に守りを固めんのは得策じゃねえってこったな」


 右手の恨み骨髄も放り捨てて解除する。これも一応、分類は剣。だったら剣同士で切り結べそうなもんだが、ほとんど棍棒も同然のこいつとカスカの『イコンの剣』とやらは相性が悪すぎる。


 だったら、こっちも使う武器を変えるまでだ。


「【武装】発動、『不浄の大鎌』!」


 何もない空間から出現する大鎌。臓物をいくつも合体させて作られている、見るからに不吉さを醸し出す不気味なその外見。それを見て、さすがのカスカも用心するように目を細めた。


「……武器の種類が豊富ね。ネクロマンサーらしい戦い方には思えないけど……でもその鎌は如何にもって感じ」


「だろうよ。こいつでお前に目に物見せてやるぜぇ!」


「ふふ……わかってないのね!」


 両手で鎌を持って接近する俺に、カスカは不敵に笑う。


「オォらっ!」

「はっ!」


 大鎌の刃に、カスカはまたしても的確に合わせてきた。イコンの剣が鎌刃を止め、そして切り裂いていく。さっきと同じだ。盾とまったく変わりなく、大鎌はバターのように簡単に真っ二つにされた。


「鋼の刀剣だろうとこの剣にかかれば敵じゃないわ。ましてやそんな悪趣味な刃なんて、斬れないはずがないでしょう!」


「ちっ、やっぱそうかよ……だが構わねえさ! 俺の狙いはそいつの切れ味に対抗することじゃあねぇんでな!」


「何を言って……あっ!?」


 俺の言葉でカスカはようやく手元の剣の様子がおかしいことに気付いたらしい。黒緑の毒々しい色をした不浄のオーラが、鎌の刃が触れた部分からイコンの剣を浸食しているんだ。


「な、何よコレ!?」


「不浄の大鎌は斬り付けたもんを生きてようとそうでなかろうとお構いなしに汚染する、激ヤバな武器だ。浸食が全体に及んだからには、その剣はもう使い物にならねーぜ」


「っ……!」


 その証明にイコンの剣は、カスカの手の内から溶けるように消えていった。

 溶けるようにと言うか、不浄のオーラが溶かしたんだがな。


 こうして見るとドラッゾの腐食のブレスにも似た効力だが、生き物にはこんな風に作用しないあちらと比べると、こっちのほうが問答無用で怖いかもしれない。


「オラオラ、呆けてる場合じゃねえぞ!」


「しまっ、」


 もうすぐ【活性】が切れる。感覚でそれを察した俺は、強制的に武装解除されたことに衝撃を受けているカスカへと素早く詰め寄った。


 それを許したってのは奴らしくもねー抜け具合だが、そんだけイコンの剣の頑丈さに自信があったってことだろう。


 ならそこに付け入らない手はねーぜ!


「この!」

「甘ぇ!」


 拍子にって感じで、なんのスキルを使うでもなく本当にただ翼をぶつけようとしてきたカスカだったが、俺はそれを読んでいた。スライディングで翼を掻い潜り、そのままカスカの足元を蹴りつける。


「うっ?!」


「寝技はあんまし得意じゃねーが……!」


 倒れ込んできたカスカの体を受け止めて、俺は奴の背中から首を絞めた。両脚で腰を掴み、翼は密着する俺の外側に広がった状態。これなら反撃は食らわねえ!


「決着としちゃ見栄えはいまいちだが、勝てりゃいいんだからな。このまま落とさせてもらうぜ!」


「ゼ、ンタ……くっ」


 苦しそうにするカスカだが、この恰好からはどうしようもねえはず。落とすのにそう時間はかからねえ、油断なしに意識が途切れるまで締め上げれば俺の勝ちだ……!


 と、思った俺こそが甘かった。


 伸び切った翼が輝き、左右から俺の視界を照らしたことで嫌な予感を覚えた。


「【翼撃】……発、動――」

「っ、なんだと!?」

「――『エンジェルスマッシュ』」


 バゴォッッ!!!


 両側から生じたとんでもない衝撃に、俺の目も耳も晦ませられて、おまけにそのあまりの威力に直撃もしてねえってのに軽々と吹っ飛ばされた。とてもじゃねえがカスカの拘束を続けてはいられなかった――俺は地面を転がりながら、自分の五感を正常に戻すことで精一杯だった!


「ぐ、くそったれめ……!」


「それはこっちのセリフよ……ホント、油断ならない奴」


 俺がなんとか立ち上がると、エンジェルスマッシュで上がった砂ぼこりが収まっていく先でカスカも体勢を整え終えていた。げほげほと咳こみながらも、まだ奴は戦えるようだ。


「……お互いにけっこうへとへとだよなぁ。相手の体力ゲージも見れたほうがいいんじゃねーか、この決闘モードってのはよ」


「あら……そんな感想を口に出すってことは、そろそろ気力も限界かしら?」


「馬鹿言え、俺ぁまだまだやれるぜ。なんなら明日の朝まで戦ってやろうか」


「強がっちゃって。なんにせよ私のHPがあとどれくらいか気になっているのは確かなわけでしょ? ……大丈夫、そんなの気にしなくていいようにしてあげるから」


「なんだって……?」


 再度嫌な予感がする。俺の勘を裏付けるように、カスカは新たなスキルを切ってきた。


「【逆境】を発動するわ……!」


 それを使用した瞬間にカスカの悪かった顔色が元通りとなり、その全身には力が漲り出した。


 な、なんだこりゃ……!? これじゃまるでレベルアップしたときみてーに、HPもSPも全回復したように見えるぞ!?


「ご明察ね、ゼンタ! 【逆境】は一日に一度だけ、HPが全体の35%を切っているときにのみ発動できる。その効果はHPの全回復と、一定時間私の全ステータスを一割増しにするという、まさに逆境を乗り越えるためにあるスキルよ!」


「……!」


 せっかく減らした体力が元通り。

 しかもそれだけじゃなく、ただでさえレベル差のある相手が更にパワーアップしちまったってのかよ! 


 これじゃあ俺のほうが遥かに逆境にいるじゃねえか!


 思わず歯を食いしばる俺に対し、カスカはどこまでも好戦的に笑った。


「さあ、第二ラウンドを始めましょうか。私もそろそろ本気を出すわ……ここからが本当の勝負よ」


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